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第156話

「で、結局宇堂くんは一体何人の女の子を囲ってるの?」

「…………」


始業式が終わったあとの教室でさて帰ろうか、と思った時、クラスの女子から声がかかる。

何度か挨拶程度の会話をしたことがある、くらいの相手で名前は確か……。


「何でそんなの気になるの?もしかして西乃森さんは大輝に相談とかしたい?」

「おい、俺に相談なんて、みたいなニュアンスの言い方はやめろ。別に俺だってそれくらい乗ってやれないことはないはずだ」


睦月の言い方は、大輝に相談とか初っ端から間違えてるよ、と言わんばかりで考え直せ、と暗に言ってる様に聞こえる。

相談にきたらしい西乃森さんは、早速不安そうな顔を浮かべていた。

普段は俺に女を斡旋しようとしたりするくせに、何でこいつはこういうときに邪魔したがるんだ……。


「だってだって、宇堂くんくらい女の子に精通してればもう恋愛マスターって感じじゃない?」

「十人弱の女の子を囲っていても、大輝は女心がわからないからね。それでなじられて喜んでる変態なんだから」

「おいこら、誤解を受ける様なこと言うな。いや、マジで違うからね?」

「…………」


睦月の言葉に西乃森さんは早速ドン引きの表情で俺を見る。

ほら言わんこっちゃない。

大体女の子、って歳じゃないのだって何人か混ざってんだろうが。


お前とか……あと何人か。

もちろん口が裂けてもそんな恐ろしいことは口に出来ないし、万一言おうものなら俺には壮絶なお仕置きが待つことだろう。


「いちいち話の腰を折るんじゃないよ、お前は……せっかく頼ってきてくれてるんだから。まぁ、そう言うってことは気になる男がいるってことなんだろ?」

「…………」

「…………」


二人の視線がジトっとしたものになり、何となく睨まれている気がするのは気のせいだろうか。

俺はまた何か、間違えたのかもしれない。


「そうじゃなかったら大輝に相談なんかしないでしょ。何でそんなわかりきったことをドヤ顔で言うかな……」

「重ね重ね失礼だな、お前は……一応の事実確認ってやつだよ」

「そうだとしても、その相手が近くにいたりするかもしれないんだよ?そういうことを考えて言わないと、って話」

「あー……」


まぁまぁ、と俺たちの間に入り、西乃森さんは笑う。

こうしてる分には普通に可愛らしい子だと思う。

高校デビューなのか茶髪のマッシュルームカットの髪型もそれなり似合っている様に見えるし、化粧は慣れてないからかどことなく違和感を感じる気がするけど。


「一応確認するけど、その相手ってこのクラスの人?」

「ううん、隣。それなりに話すことはあるんだけど、今一歩踏み出せないって言うか、お互い煮え切らない感じなんだよね。もう少しっていうか」

「隣か……明日香辺りが同じクラスなんじゃないか、それだと」

「呼んだかしら?」

「!?」


気づけば明日香と桜子が俺の背後に立っていて、突然声をかけられた俺は飛び上がらんばかりに驚く。

何よ化け物でも見たみたいに、とかむくれた様子の明日香だったが、帰らないの?とかちょっと寂しそうにしているところは可愛らしくてポイント高い。

クラスと名前をそれぞれが名乗って、西乃森さんも挨拶を返す。


「ああ、今ちょっと相談を受けてて」

「そちらの二人は宇堂くんのめかけの人?」

「ちょ、おい妾って……」

「…………」

「…………」


接点のない人間にいきなり妾呼ばわりされた二人は何故か俺を睨む。

俺が言ったんじゃないのに、何で?


「あ、えーと二号さんとかそういう人たちのこと妾って言わなかったっけ」


いつの時代の話をしてるんだ、こいつ……。

大体今の世の中でそんな呼び方されたら絶対マイナスイメージしか湧かないだろ。


「ま、まぁそれはそれとして……その男は何て名前なんだ?」

「ああ、そうだよね。矢口やぐちって言うの。矢口凛斗やぐちりんと、知ってる?」

「矢口くんなら私のクラスにいるわね。その人が西乃森さんの?」


俺は知らない。

というか変わった名前だな。

噂のキラキラネームの被害者……というほどではないか。


明日香によればその矢口というのは比較的おとなしい男で、目立ちはしないが嫌われている様子もない、当たり障りない感じの男だという。

身長は明日香より少し高いくらい、よく言えば大人しいし、悪く言えばパッとしないというのが明日香の印象。

何て言うか容赦ない。


明日香にとって俺以外の男は眼中にないのだろうが、それでもクラスメートなんだからもう少し目を向けてやってもいいんじゃないか、と同情すら覚えてしまう。


「中学が同じでさ。ある程度仲も良かったんだけど……私がそれだけで満足できなくなって」

「それって、イチャイチャしたいってこと?」

「大輝レベルのを望むとなると、いきなりベッドインだよ?」

「こら睦月!!」


教室に残っていた生徒の何名かがこちらを見る。

ついつい鋭くツッコミを入れてしまって、まだ人が残っていたか、と後悔した。


「それはさすがにちょっと……けど、付き合うってなるといずれはそういうことになる、って言うのも考えてはもちろんいるんだけど……」

「そうなる前に性格の不一致で別れたりしなければ、だけどね」

「お前はつくづく一言余計だな。中学から仲良しで今も思い続けてられてるなら、そっちの可能性はある程度捨てていいんじゃないのか?」

「へぇ、大輝くんにしてはいいこと言うわね」


珍しく明日香が同調する。

しかし、そうだろう?と得意げに胸を張って見せるとまたもジト目で見られるという。

何故なのか。


「けどね、趣味が合う合わない、性格の一致不一致はそこまで重要じゃないと私は思うわ」

「その心は?」


睦月も多少不思議にいるのか、聞き返している。

まさかとは思うが体の相性とか、夜のテクニックが、とか言うんじゃないだろうな。


「だって、大輝くんがやっているゲームとか私全然わからないし、アニメも漫画もそこまで見ないでしょ。この人のここが好き、みたいなところを発見できるかどうかが重要だと思うわ」

「なるほど……でも、嫌いなところも出てくるものじゃない?」


桜子お前、俺の嫌いなところなんてあるのか?

そうは思っても怖くて聞けない俺がいる。


「まぁ、好きと嫌いは表裏一体と言うものね。というかその人の全部が好き、なんて言うのはまだまだ恋に恋してる人のセリフなんじゃないかしら」


こいつ本当に俺と同い年か?

言ってることが熟年芸能人とかな感じするんだけど。


「つまり、嫌いな部分を許容した上で自分の好きなところを見つけられるか、ということが重要ってことだよね。まぁ見てる限り大丈夫そうな気はするけど」

「そうは言うけど睦月、お前は俺の嫌いなところなんてあるのか?」

「は?あるに決まってるじゃん。底なしにいい人でいようとするところとか。出たよ正義マン、って思いながら見てるもん」

「…………」


薄々そうなんじゃないかなと言う予感はあったものの、こう正面切って言われると割と傷つくな。


「逆に大輝くんが私たちの嫌いなところってあるのかな、って気になるんだけど」

「え?いや、それはお前……」


答えるか迷ったところで、担任がそろそろ教室閉めるから帰れ、と呼び掛けに来る。

あると言えばあるし、無いと言えばないんだけど……何となくこの答えを言うとみんな怒りそうな気がする。

時間も昼前になったことだし、ということで今日は解散となり、連絡先の交換にとどまった。


西乃森美悠にしのもりみゆという、女の連絡先がまた一件、俺の携帯に登録されてしまった。



「大輝が恋愛相談?出来るの?」

「…………」


あい、まさかお前まで俺のことそんな風に見てるなんて思わなかったよ。

俺に味方はいないのか。

俺たちが帰ってきた時に出迎えてくれたあの笑顔は偽りだったんだな……とは思わないけど。


「まぁ、あとで連絡入れてあげたらいいんじゃない?そういう話でまとまったんだし」


あいが茹でてくれたそうめんをすすりながら、睦月は高みの見物、と言った面もちで俺を見る。

ってことは何?

俺に全部やらせるつもりなの?


「大輝くんが女心とかを少しでも理解する為のチャンスでもあるものね。私も賛成だわ」

「え、マジかよ。誰も手伝ってくれないわけ?」

「頼まれたの大輝くんだもん、西乃森さんがお願いしてくるならともかく、そうじゃないなら私たちの出る幕はないでしょ」


桜子までもが、俺を敢えて突き放そうというのか。

夏休みに料理を教えてやった恩を忘れたか、この恩知らずめ!

と思う一方でこいつらから悪意というものを全く感じないから、そんなことも言いにくい。


そんなことを考えた時、メールの着信を知らせる音が響き、それが俺の携帯であることがわかった。


『とりあえず、明後日一緒に出掛けることになった。どうしよう』


おっと?

俺のアドバイスとかいらなかったんじゃないですかね。

そんな風に考えてしまうほどの行動の速さに、思わず脱帽してしまう。


「何?早速連絡きたの?何て?」

「ん、何か明後日出かけることになったって」

「え、矢口くんと?展開が早すぎないかしら」

「そうは言ってもなぁ……」


どうしよう、と言われても正直答えようがないので、俺としてはある程度どうなって出かけるって話になったのか、ということも聞いておかなければと思う。

そうすれば不測の事態があっても俺たちの出番なんかあるとは思えないが、動きを取ることは出来るだろうから。

そう思って残っていたそうめんを流し込んで、西乃森さんに返信するべく携帯を手に取った。

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