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第153話

「え、こんなとこでやるの?」


夕飯も一緒に、という前言通り近くのレストランへぞろぞろと入店。

普段の様なファミレスではなく、ややグレードの上がった場所へと足を踏み入れた。

これは愛美さんと和歌さんがお祝い、ということで今日は任せろ、と言い出したこともあり、また和歌さんがたまには気取ったものを食べたい、なんて言いだしたことが起因している。


人数が人数と言うこともあって、席はさすがに用意難しいんじゃないか、なんて声も上がっていたがそこは店側がある程度の融通を利かせてくれた。

奥まった席で玲央を含めて九人という人数……実質八人みたいなものだが、入ることが出来た。

多くの店は団体で入る場合やんわり拒否されるか、歓迎されるかの二つに分かれる様だがこの店は後者の様で、売り上げが見込める、と踏んだのだろう。


実際和歌さんほど食べる人がいると大繁盛なのではないだろうか。

愛美さんもこういう場所ではそこまで飲まないにしても、ある程度のアルコールを頼んだりするし店側としては悪くないだろう。

そして冒頭で大輝が漏らした不安の声の正体。


それはイヴがコピーを店内でやろうとしたからだ。

奥まった席でもあるので、ある程度何をしていても店側から感知することは難しそうだし、客もそこまで多くないので騒いだりしなければ注目を集めたりという心配はない様に思える。

先ほど購入した三十五万円のお高いネックレスを袋から取り出し、イヴはふんふん言いながら眺める。


さすがに高級品でもあるのでみんなも息を飲んで見つめているが、突如イヴはそのネックレスを袋に戻した。


「……?」

「さて、じゃあまず一個」


両手をもみ手でもするかの様に組んで、一瞬だけ魔力を込める。

ネックレスはテーブルにあるので、実際イヴの手の中には空気以外何もないはずだが、数秒後にはその手の中に煌めくネックレスが生成されていた。


「おお……」


誰からともなくため息が漏れて、イヴは得意げな顔をする。

傍から見たら巧妙な手品くらいにしか見えないかもしれない。

まぁ、厳密に言うとイヴは無から有を作ったのではなくて、異なる空間から物質を取り寄せてそれを加工する、という工程を一瞬でやって見せた。


そしてこの物質は……。


「これ、魔界の物質か」

「ご名答。人間界にはないものだけど、まず人間の力で壊すことはできないと思う。このチェーンもそうそう簡単に切れたりしないし、強度は保障するよ」


そうイヴが説明した通り、この物質は人間界にはない。

実はあいを住まわせている家の外壁とか、至る箇所の建材にも神界から取り寄せた物質を使っているので、原理としてはわからなくない。

あの家は多分核を打ち込まれてもビクともしないはずだ。


そしてこのネックレスに関しては、強度もさることながらその物質が持つ性質に特性があると言える。

持ち主の精神、思考に呼応して性質を変えるというものだ。

武器にもなれば、強靭な盾にもなる。


……って何でこんな物騒なもんを絆の代わり、みたいなことにしてるんだ、こいつは。

こういうことは今から説明しない方がいいかな、と思い私はとりあえず出来上がったものを黙って受け取る。

もちろん教えたからと言って使い方を間違える様な人はいないはずだけど、逆に怖がってつけなくなったとかだとイヴが悲しむかもしれない。


例の一つとして挙げるなら、このネックレスをある程度の攻撃の意志を込めて振り回し、対象に直撃した場合。

当たり所が悪いと死ぬかもしれない。

鋭い刃になることもあれば、とてつもなく重い一撃を放つ鈍器にもなりえるのだ。


盾にもなると言ったが、そういう使い方をすることはほとんどなさそうではある。

しかし仮に銃弾が飛んできたとして、そのネックレスをつけていれば、まずダメージを受けることはない。

マシンガンとかで連続して一点を狙われたらわからないが、並みの拳銃では着用者に傷一つつけることは出来ないはずだ。


「そんなもん、本当にもらっちゃっていいのか?」

「気にしないで。私はみんなのうち誰か一人でも欠けたら嫌だから。お守りみたいなものだと思ってくれたらそれでいいから」


イヴにしては殊勝なことを言っていて私も思わず驚いてしまったが、おそらくは本音なんだろう。

料理が運ばれてくる頃には全員分のネックレスが出来上がり、全員がそれを着用していた。


「このお肉美味しい……何の肉?私でも捕まえられる?」

「……まぁ、捕まえるくらいは余裕なんじゃないか?そんなことしてる人、多分いないと思うけど」

「イヴ、これは牛という動物のものだ。人間界ではある程度高級と言われている肉だぞ」


へぇ、牛ならお昼にも食べたよね、とか言いながらイヴはステーキに舌鼓を打つ。

もっとも私たちが昼に食べた牛ってのはハンバーガーのことなんだろうけど、ファーストフードとこういう店とを比べるのはさすがにこの店に失礼だ。


「玲央くんこれなら食べられるかな」


そんなことを言いながら桜子が何かゼリーの様なものを与えようとしている。

子どもなのに贅沢な、とか大輝は青い顔をしていた。

きっと、普段のご飯を食べなくなったら困るとか思っているんだろう。


「あ、そうそう……あと人間のみんなにはこれを」

「ん?」


イヴがさっきと同じ様に両手をもみもみすると、銀色に光る指輪がじゃらじゃらと現れる。

その数、十個。


「……これは?」

「指輪に見えるわね……でも指輪だと私たち、普段つけられないんだけど」

「あー、そういう使い方もいいんだけどね。これはみんなの身を守るものだと思って?」


その一言で私にはピンときた。

なるほど、イヴお手製の宝具みたいなものか。

使い方は多岐に渡るが、基本的には投げつける。


これまた使用者の意志に呼応するもので、当たった場所を爆発させたり燃やしたり、もちろん直接ぶつけなくても地面に投げつけて威嚇に使ったりと、色々なことができる。

私が簡単に説明して、二つずつ人間のメンバーに持ってもらう。

和歌さんや愛美さんは普段から指につけていても違和感ないが、高校生メンバーはネックレスのチェーンにかけておけばいい、という話になった。


不思議な力で作られたものだけあってこれも便利で、使うときにはいちいちチェーンを外すことをしなくてもすり抜けて手の中に納まってくれる。

そして投げてもちゃんとすぐに手元に戻ってくるので、消耗品とはちょっと違う、というものだ。


「桜子なんかこないだ危ないことあったしな。俺たちも動向をある程度探ってたりはするけど、いつでもどこでも駆けつけるなんてことは不可能に近いし、こういうのあれば便利だ」

「……そのことはもう言わないで。反省してるんだから」


あんまりいい思い出ではないと思われる桜子が顔色を変える。

ちなみにこの指輪を付けて対象を殴ると、衝撃としては一トン近くのものが直撃するのであまりおススメはしない。

なので先日の様に桜子がああいうのに絡まれて撃退しようとした場合。


命の危機はその絡んだ方にあると言っていいだろう。


「何か世話した分以上のものをもらってしまっているのだけど……」

「いいのいいの」

「私や愛美さんなんか今日初めて会うんだけど、本当にいいのか?何だか悪いな」

「今ここのご飯ご馳走してくれてるじゃない。とっても美味しい」


イヴのこういう楽天的なところは誰に似たんだか。


「これで過保護な大輝くんも少しは安心できるかしらね」

「過保護って……女の心配するのなんか別に当たり前じゃないか?」

「当たり前だけど、大輝の場合少し度が過ぎるわよね」

「…………」


憮然とする大輝だったが、それについては私も心当たりがある。

あいと玲央が冥界に連れ去られた時のことは今思い出しても少し怖いという気持ちがある。

何処で大輝がキレるかわからないし、その対象が人間ではないことを祈るばかりだ。


そう考えると今日の昼の対応はある程度の成長の証ということになるんだろうか。


「まぁ大輝の場合愛情の押し付けの様なこともないんだし、多少過保護であっても嬉しく思うがな」

「確かになぁ……普段好き好き言わない分、そういうところで感じられるって言うか」

「普段は確かに少しぞんざいな扱いをされることもあるけど、根っこで大事に思ってるのは理解できるもんね」

「…………」


やたらと褒められ始めて大輝の顔が段々赤くなってくる。

酒を飲んでいる愛美さんと違い、大輝は素面なのにも拘わらず。

普段割といじられる場面が多いだけに、こういうのにはあまり慣れていないのだろうか。


「お前らそんなに褒めてみたところで、何も出ないぞ。今日だって愛美さんと和歌さんの奢りなんだから。タダで食う飯は超旨い、うんうん」


そう言いながら目の前の料理をガツガツと食べる大輝だが、照れ隠しにすらなっていないということは自分でも気づいていそうだ。


「でも明日にはイヴちゃん帰っちゃうんだね。何か少し寂しいなぁ……」

「そんなこと言うとこいつ、また頻繁に来るよ。そしたら寂しくも何ともないし、ありがたみとかないかもしれないけど」

「お姉ちゃんひどいよ。でも、また来るとは思う。だって人間界楽しいし。みんな優しいから、安心して来られるよ」


桜子の言う通り、明日には魔界に帰ってしまうイヴ。

それなりに思い出作りは出来たのだろうか。

今夜も大輝と二人にしてやろうじゃないか、というみんなの粋な計らいによって、大輝とイヴの夜は白熱するに違いない。

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