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第152話

「映画に遊園地、ショッピング……遊びつくした感はあるわね」


明日香がそう言った通り、私たちは散々遊び倒した。

当然のごとく間におやつタイムを二回も挟んだりして、桜子は太ったりしないかな、なんて言っていたけどそうなりそうなら大輝と夜の運動でもしてきたら?なんて朋美が茶々を入れていた。

それは私も混ざりたいという願望はとりあえず押し殺して、時刻は夕方六時半。


最近少し日が高くなり始めていることもあって、空が暗くなるのが早くなってきている。

夏の終わりを感じる様になってきた、ということは涼しくなるのももうすぐということか。


「ねぇ、何で?手くらい繋いでくれたっていいじゃん」

「いや、さっきまで散々繋いでただろ」

「……今朝だってあんなにべたべた全身触ってたくせに、やることやったらポイ捨てするんだ!?」

「お、お前!!人聞き悪い言い方するな!別に俺は捨てたりなんか……」

「…………」


何やら騒がしいと思ったらイヴと大輝がまたもめてる。

この二人はすっかり仲良しで、みんなも時折ヤキモチに似た接し方をするのが印象的だった。

昨日焚きつけたのは他でもない私だけど、ここまで仲良くなるなんて想像はしていなかったな。


大輝は基本的に暑がりで、夏はあんまり手をつないだりっていう行為を好まない。

これはもう昔からのことだし、本人も体温が基本的に高めだから致し方ないと思うんだけどね。

ただ付き合いの短いイヴにはまだ理解できないかもしれない。


「それはそれとして、私お兄ちゃんとお姉ちゃんにお土産的なものを買いたいんだけど」

「お土産?」

「っていうか大輝と睦月だけなのね。まぁいいけど」


あれだけの金額持ってれば普通に全員分買えそうな気がするんだけど。

まぁ、イヴが何を考えているのかはわからないし、そこにツッコミを入れるのは野暮ってものか。


「それはいいとして、何を買うつもりなのかしら」

「何……お兄ちゃん何が好き?」

「何って……」

「女に決まってるじゃん」

「おいこら睦月……」


別に間違ってないけどね、とか朋美も同調していたが、さすがのイヴも女を用意することなど出来ないだろう。

大輝の物欲は偏っていて、しかも彼の好みに合わせるとなるとイヴの知識では到底及ばないものになる。

何しろ最近の大輝のガジェオタぶりは、徐々にその様相を呈してきていて周りをやや引かせたりしていることもある。


こっちのそういった事情に疎いイヴでは、何を買ったらいいかわからないだろうし、何より半端なものを与えられて大輝が心から喜ぶかはわからない。

一方私も特に何かほしいものがあるかと言われたらぱっと思いつくものなんかないし、そんなつまらないことに気を回さないでいいよ、と思ってしまう。


「こっちだと男女の関係になった間柄の二人は同じアクセサリをつけたり、って言うのを見た覚えがあるんだけど」


イヴの発言に女子メンバーの耳が尖る。

大輝もその話題はいかん、という顔でそっぽを向いた。


「あー、あるわね。カップルはよくそういうのつけてたりするわ、確かに。けど大輝くんは確か大輝くんの母親にネックレスをあげてなかったかしら」


明日香に言われてギクっとした顔になるが、ここで大輝は開き直る。

素直にごめんなさい、とか言っておけばいい局面だと思うんだけど。


「いや、それについては言い分があるぞ。俺の胸元を見るんだ。そんなものついてないだろ?あれはただのプレゼントで、決してお揃いじゃない。というか俺はまだ誰ともお揃いのなんか……」

「お黙りなさい。母親の方が私たちより大事、ということでいいのかしら、それは」

「…………」

「沈黙は肯定と取るわよ」

「ば、バカだなそんなわけないだろ……」

「……バカ?」


明日香に続いて朋美もその表情を般若の様に変化させ、大輝の言葉に反応する。

どうしろって言うんだよ……と困り果てた大輝に救いの手を差し伸べたのはイヴだった。


「じゃあ、みんなでお揃いの買おうか」

「……え?」


せっかくお金持ってきたのに、一円も使ってないから、とイヴがカバンの札束をちらつかせ、大輝と私以外が目を丸くする。

そういやあのバカ親父、こんな大金持たせてたんだっけ。


「でも、そんなに沢山同じのって売ってなくない?」


桜子の疑問はもっともだろう。

量産されているアクセサリであっても、同一店舗にそこまで沢山置いてあるのかと言われると正直微妙な話ではある。

在庫の調達やらで今日中にっていうのは難しくなるのではないだろうか。


「別に同じのが売ってなくてもいいじゃん。そこからが私の力の本領発揮っていうか……まぁ、とりあえず見に行こうよ」

「え、でも……何だか悪いわよ。催促したみたいに聞こえたなら申し訳ないけど、あんなの普段のやり取りの延長みたいなものだし……」

「そうよ、大輝は女にいじられて喜ぶ変態なんだから」

「おいやめろ、こんなに人がいるところでそんなこと……」


とは言っても和歌さんと愛美さんがこの場にいないし……まぁ和歌さんは大輝から唯一無二の指輪を与えてもらってるんだけど、それでも仲間外れにするのは何となく気が引ける。


「いいの!私も仲間になったんだから同じのがつけたいの!!ダメなの!?」

「……いや、ダメではないけど……」


普段の大輝いじりからこんなことになるなんて想像していなかった朋美も明日香も、少し反省したのか顔色が悪い。

まぁ、全員分を買うとなるとそこそこの出費になるだろうことは想像に難くないが、イヴの力でコピーを作るということなら、元手はそこまでかからないだろう。

私がそう説明すると、朋美も明日香も桜子も漸く納得した様だった。


何よりイヴ本人がお金を使いたくて仕方ないと言った様子だし、人間界でお金を使う方法もある程度覚えてもらって損はしないだろうし。


「でも、愛美さんと和歌さんは?二人だけ大人だからのけ者にするの?」

「二人とももう、仕事終わって帰ってる頃かな。呼んでみようか」


そんなわけで二人を呼び出してみると、あっさりと了承されて二人は二十分ほどで合流することができた。



「へぇ、この子が睦月の妹なのか。すんげぇ可愛いじゃん」

「何だ……フランス人形みたいだな。で、大輝は早速手をつけた、と」

「…………」


二人が合流して、それぞれに挨拶をするとイヴは不思議そうな顔で二人を見た。


「お兄ちゃん、ストライクゾーン広いね」

「……ほっとけ」

「おい、早速私たちディスられてないか?」

「イヴ、言いたいことはわかるけど私とかイヴの方が断然年上だから。あと女の人相手にそういうこと言ったらダメ」

「おい、お前も大概失礼だな。……まぁそれはいいとして、何で私たちも呼ばれたんだ?」


愛美さんの疑問はもっともだ。

元々子連れもいたりして悪目立ちしていた私たちだが、大人の美女二人が加わることで更に目立っているのだから。

そして夕飯時でもあるからか、和歌さんは空腹を訴えていてじゃあこのままご飯も食べてしまおうか、という話になった。


しかし先にアクセサリを選ばないと、店が閉まってしまうということで和歌さんにはクレープを買い与えて我慢してもらった。

もちろんそのクレープはものの十秒程度で消えてしまったんだけどね。


「何か大勢でぞろぞろ入っていくのも気が引けるわね」

「デザインにこだわりない人はいいかもしれないけど、ある程度全員の意志を尊重したいっていう話でもあるからね」

「ねぇ大輝……アクセサリって何の為につけるの?」

「え……何のためって言われると難しい話ではあるけど……繋がりを物で示す、みたいな感じなのかね。普通の人間には俺たちみたいな力はないからさ」


神界でもネックレスやらつける神はいるが、あいはフレイヤとかみたいなオシャレに全振りしてる様なのと関わりがないからかあまり理解が出来ていない様だ。

玲央の玩具にされて壊れちゃったりしたら、なんてことを心配しているが、イヴはおそらくそんな簡単に壊れる様なものを作ったりはしないだろう。


「指輪には誓いを示す様なイメージがあるけどな。私がもらったのも……」

「…………」


先日の式の時に大輝から渡されたものを、和歌さんは肌身離さず身に着けている。

もちろん和歌さんの場合は事情が事情だからと誰も羨む様なことは言わないが、それでも内心で羨ましいという気持ちを持っているのは間違いない。

そう考えると今日のことはいい機会かもしれない。


ショーケースに並んだ数々のアクセサリ。

宝石がついた豪華な感じのものから、シンプルに銀や金、プラチナと言ったもののみで構成されているものとバリエーションは豊富だ。

駅ビルの中にあるこの店にあるのは、学生でも手を出せそうなものから何百万とするものまで、幅広く扱っている様だ。


こういう言い方は愛美さんと和歌さんに悪いから口には出さないが、私たち学生メンバーと社会人組とではファッションに対する認識がやや異なると言っていいだろう。

更に言うと和歌さんはその辺が無頓着で、いつも同じスーツを着ている様に見えるし。

もっとも和歌さんは同じのを何着も持っているとか明日香から聞いたことがあって、桜子に女子力低いよ、なんて言われていて可哀想だった。


そうなってくると、学生でも社会人でも違和感なさそうなデザインのものを、ということでかなり難しいことになってくる。


「ふむ……これなんかいいんじゃないかな」


お金を出させる立場だから、と遠慮している明日香や朋美に対して、桜子は割と積極的だ。

あいは私が見てもよくわからないから、なんて言いながら玲央をあやしていた。


「なるほど……可愛すぎず質素過ぎず……これ、大輝もつけるんだったらいいと思うけどな。どう思う?」


桜子と愛美さんが指さしたものは、青い宝石……多分サファイアなんだろうが、それなりの大きさの石がついているネックレス。

お値段何と三十五万円。

大輝は、たかがアクセサリにこんな金出すのかよ、とか呟いて朋美に小突かれている。


「指輪とかもあるけど、ネックレスでいいの?」

「指輪だと学校にはつけていけないけど……ネックレスなら見せびらかしたりしなければ問題ないんじゃないかしら」


方針が決まったところで、イヴが店員を呼ぶ前に札束を取り出して店内が騒然とし、店員が直後に慌てて私たちのところにきたのはその数十秒後。

この後私たちの絆は深く結ばれることになるのだった。

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