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第144話

「おいコラ……朋美に何しやがった?」

「いや、何もしてはいないよ。ここにお連れしただけさ。それは誓ってもいい」


確かに朋美が何らかの精神操作だとか、そう言ったことをされた痕跡は見当たらない。

以前から感じる、生まれ持っての魔力だけが体内に内包されているだけだ。


「そうかい、そりゃよかった。朋美に何かしていたら、大輝も黙ってはなかっただろうからね。大輝に何かあれば……私もソールも報復に打って出る」


私の言葉に、ルシファーが戦慄する。

苦手意識はそうそう変わるものではない。

その苦手を乗り越えて自分が大丈夫だと確信できて初めて、その意識は変わるのだ。


「ねぇ睦月……何で大輝は倒れてるの?」

「…………」


朋美の言葉に母が一瞬の反応を見せる。

おそらく朋美には伝わっていないだろうが、多少の緊張を見せたと言っていいだろう。

おそらく母はあそこまでするつもりがなかったのかもしれないが、結果としてこうなってしまった以上は仕方ない。


とは言ってもルシファーの登場タイミングが悪すぎた、というのは否めないが。


「まぁ、ちょっと色々あってね。すぐに目覚めるよ」

「そうなんだ?また何か危ないことしてるのかと思った……良かった」

「それより……あんたがやらないってなら、母さん以上の適任はいないわけだけど?私は一切こっちに関わる気はないんだ」

「ならお前が大輝くんと結婚して、二人で魔界を納める、というのはどうだ?」


大輝はまだ気絶中だが、朋美が目をひん剥いてルシファーを見る。

私としては別に悪い話ではないし、結婚というキーワードに心が揺れないこともない。

だが、当面の問題としてじゃあハーレムどうするの?って話は付きまとう。


たとえ死ななくなった、とは言ってもその呪いみたいなものが消えてなくなったのかどうかは疑わしいし、大輝は死ななくなっても他のメンバーが死んだり、なんてことだって考えられる。

確かなものがない以上、迂闊なことは出来ない。

よって……。


「断る。確かに魅力的な話ではあるけど、生憎聞いての通り朋美を含めた他のメンバーを捨ててまで、というのは私の中にはあり得ない話だから。どうしてもって言うなら私は私たちを守る為にあんたをここで叩きのめしてでも、拒否させてもらう」

「ほう、面白いじゃないか。私と母さんの二人を相手にして勝てるつもりでいるのか?」


私はルシファー一人を叩きのめせば済むと思っていたが、どうやら話が変わってきている様で、母もちょいちょいやる気になってきている様だ。

退屈してる、とか言うくらいなら素直に引き受けてくれればいいのに。

大体ルシファーだってやめたがってるんだったら、さっさと母に譲れば済む話のはずなのに、何で反対なのかがわからない。


「ちょっと……二人がかりでなんて卑怯でしょ。じゃあ、私が睦月側に……」

「いやいや、そういうボケはいいって。とりあえず大輝起こしてよ。それで何とかバランスはとれると思うから」

「わ、わかった」

「ほら、よそ見をしていていいのか?」


私が朋美に指示を出している隙を狙って、ルシファーが攻撃を仕掛けてくる。

母もその間で魔法陣を展開していた。

こいつら本当に私の親なのか……?


「こないだみたいに行くと思ったら大間違いだぞ、バカ親。今は全力で戦える状態なんだってことを忘れるなよ!!」


ルシファーの攻撃をかわしつつ、私は魔法陣にかかりきりになっている母を狙う。

もちろんルシファーは母を守る為に動くだろうが、二人まとめて吹っ飛ばしてしまえばいい。

私が何かして朋美と大輝の方へ攻撃が行かない様に誘導している間、朋美は大輝を叩き起こそうと往復ビンタを食らわせていた。


「ほら、起きなさいっての!!あんたの大事な睦月が大変なことになってんだから!!」


大輝がそう思っているのは何となくわかっているが、大声でそんなことを叫ばれるとちょっと私としては恥ずかしい。

一応こんなやつらでも親だし、こいつらにそんなところは見せたくない。


「随分と仲間思いじゃないか。あの子らがそんなに大事か」

「当たり前だ。あんたにゃ一生かかってもわからないだろうよ。人間と触れ合うことがほとんどなかったあんたにはな」


そう言った瞬間に母の魔法が完成したのか、床のものとは別に空間に湧き出た魔法陣から巨大な、真っ黒い腕がせり出してくるのが見えた。

そしてその腕はもちろん私を襲う為に迫ってくる。


「すっかり魔力を使いこなしてやがる……」


しかしその魔法には致命的な欠点がある。

床に描かれた魔法陣に手を突っ込んで展開されるその魔法は、せり出している腕を操作する為にそこから動くことが出来ない。

何とも古風な魔法を使っているな、と思うが引きこもりなわけだし仕方ないのかもしれない。


おかげで私は狙いどころをきちんと定めることができるのだから。


「させると思うのかね」

「そう来ると踏んでたんだよ!!」


母を庇う為に私の前にたちはだかるルシファーに蹴りを入れて、私はそのまま襲い来る母の魔法の腕を弾き飛ばす。

そして吹っ飛んだルシファーを追撃するために追いすがり、床に叩きつけた。

かなり頑丈に作られているはずの宮殿の床が、衝撃で割れて破片が飛び散るのが見える。


前回と違って今はほとんど全力で戦えていることもあって、手ごたえはあった。

もちろんこれで終わるわけもないし、母はほとんどノーダメージできているのだから、今度は母を叩かないといけない。

我が親ながらめんどくさいやつらだ。


「なかなかやる様になったじゃないか。久しぶりに痛いと思う攻撃を受けたよ」

「……そういうセリフはカタコトで言えよ。あと変な民族風のお面を忘れずにな」


あれだけの攻撃をくらって、割とピンピンしてるあたりタフすぎて腹立たしい。

さすがにそろそろ二対一のハンデがきつくなってきたかもしれない。


「ちょっと……何してるんですか、あんたたち……」

「大輝……」


朋美の必死な……ほとんど攻撃に近いビンタによって、漸く目を覚ましたらしい大輝がその顔をパンパンに腫らして私と両親を見る。

何て言うか、哀れだ。


「何で、親子でこんな……」

「大輝、親子だからって必ずしも仲良しな関係の間柄ばっかりじゃない。そんな幻想は今すぐ捨てていいよ。それはあくまで大輝の理想であって、現実じゃないんだから」


私の言葉に腫れあがった顔を更に歪める大輝。

何とも悔しそうに見えるが、これが私たち親子の形なんだから、もう戦うほかないのだ。


「なら俺がやるから……」

「朋美の時みたいに?やれるの?」

「何をこそこそ話しているのかな。スルーズ、お前が窮地であることに変わりはないのだぞ?」


いちいち腹立つ親父だな、本当……。

大体大輝が強くなったって言っても、二人がかりな上に片方が女ときている。

そうなると大輝は実力を出し切れないという懸念があった。


「大輝、一人じゃまず無理だし、相手は母もいるんだよ。私が母を相手するから大輝は父を叩いてよ」

「だけど……」

「じゃあ大輝に女を叩けるの?あいの時みたいなのはもうごめんなんだけど」


あの時の様子を私から聞いている朋美がその表情を硬くする。

死ぬことはないと言っても、回復するのにどれだけかかるのかわからない。

そう考えると複雑なのだろう。


朋美の父との戦いの時も、あれだけ傷ついた大輝を見て涙していたくらいなのだから、当然と言えば当然か。

まぁ、その割には再会した時に全力でぶん殴ってトラウマ植え付けたりしてたけど。


「相談は終わったか?ならそろそろ続きを……」

「もう少しくらい待てよ。娘の作戦会議邪魔してまで勝ちたいとか、本当クソだなあんた……あんたの相手は大輝がする。残念なことにこの子はフェミニストなんでね」

「そうか、まぁ男同士の方が何かとやりやすい、そうだろう大輝くん」

「…………」


まだ決めかねている大輝だったが、ルシファーがやる気を見せると軽く身構える。

そうでなくては私としても困る。

朋美に巻き添えを食わせないために、下がっている様言って私も身構える。


相手はゴリゴリの魔法タイプ。

……のはずなんだけど割と身体能力の向上にも魔力を使っていて、魔法に頼りきりでもないみたいだ。

勤勉すぎてめんどくさい人になったもんだと思う。


それでも昔みたいに不老不死になっちゃったことをただ嘆いているよりも、前向きには見えるから複雑ではあるんだけど。


「んじゃま、ぼちぼち始めますか。お互い譲れないんだったら、もう決着はこれしかない。大輝、覚悟決めてよね」

「……本当にこんなやり方しかないのかよ?やっぱり俺……」


悲痛な面もちの大輝が、躊躇いがちに闘気を噴出させる。

やりにくいってのはわかるけど、誰しも戦わないといけない時は来る。

そう思った時、入口の方から声が聞こえた。


「なら、選手交代と行きましょうか、大輝」

「な……母さん!?」

「な……何だと……?」


ルシファーも驚きの表情で見つめるその人物は、大輝の母ソール。

入口から悠然と入ってきて、完全に委縮した父を見て、ふふ、と微笑む。

おそらく母も話くらいは聞いたことがあるのだろう。


そしてソールの体から溢れる闘気が尋常でないものであることを一瞬で見抜いて、怯んでいる様だ。

来ないと思っていたやつが来たことで、勝負の行方はますますわからなくなってきた。

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