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第140話

「睦月のお父さんって、姫沢家のあの春喜さんとは違うのよね?」

「ああ、魔界の王様だってさ。堕天使ルシファーって知ってる?」


俺とあい、玲央、そして桜子朋美明日香というメンツであいの家に集まっているこの夜。

話題は睦月の……スルーズの父親の話で持ち切りだった。

桜子なんかは会ってみたい!とか想像通りの反応を示してくれたわけだが、どうせまた会うことにはなるのだろう。


ああいうタイプの人って自分で言ったことは大体守りそうだし、何より娘の反応が見たいっていうのもあるんだろうから、来ない理由の方が希薄と言えそうだ。

もっとも睦月は割と心の底から嫌がってる風だったのが気になるが、実の親に会うのがそこまで嫌だって人がそういるものなのだろうか、というのが俺としては正直な感想だった。

だからと言って実は親子じゃないんじゃ……なんて印象は持たなかったが、何となく悲しい気持ちになってしまう。


俺の母が見つかって、和歌さんの父親が見つかって……そんな経験をこの一か月の間で経験してきて、やっぱり親子とか家族ってある程度仲良くしてなんぼなんじゃないかなと俺は思っている。

俺の時は案外すんなりと仲良くなってしまったが、和歌さんは素直になれなかったというその事実を今でも悔いているのだから。

あの父親に何かあるとは考えにくいが、仮に何かの事情で二度と会えなくなってしまったり、なんてことがあった場合に睦月は後悔したりしないのだろうか。


そう考えると俺としては余計なお世話かなと思いつつも何とかしてやりたいって思ってしまうのだ。


「よくゲームとかで出てくるわよね。強キャラで」

「よく知ってんな、明日香。お前ゲームとかするんだっけ?」

「大輝くんがやってるのをたまに覗き見してる程度よ」

「え、でもそんなすごい人がお父さんって……うちのハゲととっかえてほしいんだけど」

「桜子、さすがに口が悪いぞ。まさか今もハゲとか面と向かって言ってないだろうな」


てへ、と舌を出して桜子は俺にウィンクしてくる。

こいつに関しては仲が悪かっただけで、今はその関係もある程度軟化しているらしい。

らしいというのは、俺はあれ以降まだ桜子の家には行っていないからで、別に行きたくないとかそういうんではなく、何となく頻繁にお邪魔してもな、というそれだけのことだ。


桜子の弟妹には会ってみたいと思うが、それはまた今度でいいだろう。


「私の家なんかあの通りの父だから……ああ、明日香は知らないんだったっけ」

「まだ会ったことはないけど、ある程度話だけ聞いているわよ」

「何だっけ、タコ坊主?いい人だよ。見た目怖いしヤクザみたいだけど。朋美も将来あんな風になっちゃったらどうしよ!!」


桜子お前……何て怖いもの知らずなことを……。

俺はその意見にとてもじゃないが賛同できないぞ。

超絶筋肉モリモリで巨乳……需要あるのか?


しかもヤンデレ風味という。

暴力的な彼女っていうかもう存在が暴力だろ、それじゃ……。


「大輝、何か言いたそうね?あと桜子もいい根性してると思う、毎回毎回」

「…………」


明らかに怯えた表情になった桜子に、目だけが笑ってない、凄くいい笑顔の朋美。

明日香はヤクザなんか見慣れてるだろうから特に思うことはないのかもしれないが、それでもやっぱり朋美は怖いらしい。

かくいう私も正直大人用紙おむつでも買っとけばよかった、なんて思っているくらいでねぇ……。


「はー、やっと玲央寝たよ。ん、どうしたの?」


玲央を寝かしつけに行っていたあいが戻ってきて、俺たちを見てきょとんとしている。

こいつは朋美がどんだけおっかない女なのかって知らないんだっけ、そういえば。


「いや……まぁ桜子がいつもの調子でおちゃらけただけだ。そ、それより睦月の親父さんの話だろ。あの二人、どうにかしてやりたいって思うのは余計なことかな」

「どうだろうね、睦月の性格からしてあんまりいい顔しなそうな気がするけど」

「スルーズは親と縁切って魔界出てきたらしいし、多分最近まで親のこととか忘れてたんじゃないかな。それでいきなり出てきたから、怒ってるってだけで」


なるほど、あいの言うことは何となくわかる様なわからない様な……。

状況的に和歌さんが一番近かったってことになるんだろうか。

そうなると、和歌さんと愛美さんと一緒にいるんであればある程度安心できるかも?


「まぁ年長者の二人に任せたなら大丈夫と思うけど……睦月がへこんでるのとかあんまり見たいと思わないし」

「睦月ちゃん、普段はそういう話全然しないもんね。大輝くんから聞かなかったら私もまず気づかなかっただろうし」

「んー……どうだろうね。でも今スルーズのマンションにルシファーはいるみたいだけど」

「……はい?」


聞いちゃいけないことを聞いた気がする。

あの状態にルシファーさんが割り込むなんて、火に油じゃないか。

この街が地図から消えました、なんて結果にならなきゃいいが……。


「今のところ特に争ってる様子はないけどね。和歌さんと愛美さんがいるからかな」

「あの二人相手なら睦月もある程度はおとなしくしてるでしょ。心配ないわよ」

「そうかなぁ……」


何となく嫌な予感がする。

そもそも未だにあの人が睦月に会いに来た理由自体は不明だし、何にしても今あの二人が顔を合わせるのはいい結果になるとどうしても思えない。


「親がいるって感覚がよくわからないんだけど、娘ってあんな風に親に噛みつくのが普通なの?」


これまた難しい質問きたな。

確かに反抗期の娘が男親に反感を持つってのはよく聞く話ではある。

とは言えここにいるメンバーは……。


「うちは案外仲いいわよ。あの通りバカな父だけど、好感は持てるかしら」


哀れ雷蔵さん……しかし俺には擁護出来る要素がありません。

確かにいい親父さんだなと思う一方で、子どもみたいな人だなって思う場面も結構あったからな。


「私はお父さんとは……まぁデリカシーないからね、あのゴリラ。そういう意味では明日香のとこと近いかもしれない」


まぁ、ゴリラなのは間違いないな。

沸点も低いし、正直今までよくこの世界生きてこられたなって俺は思ってるよ。

それでも多分朋美のことは相当大事にしてるんだと思うけどな。


「うちのはただのハゲだからね。大輝くんのことすごい気に入ってて、毎日の様に大輝くんは次いつくるんだ?とか言ってる」


その物真似、凄い似てて笑いそうになるからやめてくれ。

でもここまで凝った物真似できるくらいには良好な関係を築けてるってことか。

元はお父さん大好きだったって聞いているし、心配はなさそうだけど。


「和歌さんとか愛美さんのところもそうなのかな?」

「愛美さんはわからないけど、和歌さんはどうだろ……再会できた時素直になれなくて、かなり冷たく当たってたみたいだからな。ただあの人に関しては事情が特殊すぎるから、一般的な部類に含めるのは何となく違う気がするんだよな」

「愛美さんは何でわからないの?」

「愛美さんのところは、確か離婚してて……高校二年とかだから十七まではお父さんがいたんだっけ。でもその人とは別に険悪だったとか、そういう話は聞いてないな」

「お母さんが一回再婚したのよね、確か」


ああ、その話来ちゃうのか。

ていうか本人いないとこでこういう話するのは、何となく俺としては気が引けるんだよな。

こいつらはそういうの、気にならないんだろうか。


「まぁ……その話は本人から聞いた方がいいわね。ちょっと内容としては重いし」

「そうだね、私も賛成。さすがにその頃他人だった私たちが、勝手に話していいことじゃない気がするし」

「へぇ、桜子にしちゃ珍しく常識的な意見だ。でもまぁ、言う通りだと思う、俺も」

「一言余計じゃない?ここじゃ助けを呼んでも誰もこないよ?」


こいつ……チビっこいくせに肉食獣みたいな目しやがって……。

そしてみんなでつられて同じ様な目するのはやめないか?

正直とてもおっかない。



翌朝、結局話し合いは進まないままで色々あって俺たちは床に着いた。

話し合いとは言っても俺たちに出来ることなんてたかが知れていると思うし、話し合い自体に意味がないってこともあるとは思うんだが。


「ねぇ大輝、もしかしたらって程度の話なんだけど」

「ん?どうかしたのか?」


あいが朝食の準備をしながら話しかけてくる。

流れ的に昨夜の話の続きなんだろうと推測できるが、何か思い当たることでもあるのだろうか。

もしそうなんだとしたら、俺も聞いておいて損はないかもしれない。


ちなみに他のメンバーは昨夜の色々で疲れたのか、まだ起きてこない。

まぁ時間的にはまだ朝の八時だし、起きてこなくても不思議はないんだけどな。


「スルーズのお父さん、もしかしたら魔界にスルーズを連れて帰るつもりでいるのかもしれない」

「は?何でだ?」


自分で聞き返しておいて何だが、何でもクソも魔界で何かさせたいとか、最悪跡継ぎを、とかそういう話にでもするつもりなのかもしれない。

連れて帰る、という以上何かしらの明確な目的があっておかしくはないし……というかない方がおかしいだろう。

ただ娘の顔を見に来た、なんて……いや絶対ないとは俺には言い切れない。


俺はルシファーさんがどんな人か知らないし、もしかしたら本当に様子を見に来ただけかもしれないんだから。

とは言っても会っただけであれだけ激昂する睦月にただ会いに来ました、というのは何となく無理がある気がする。


「私も詳しいことはわからないけど……もしかしたら魔界に何か異変が起きてるのかもしれないね。それでスルーズの力が必要な事態が起きてたり、とか」

「推測だよな、それって」

「もちろん。ただ、あれほどの人物が何もなく様子だけ見に来たって言うのも、何となく変かなって」


あいも俺と似た様な考えに至っていたわけか。

というか多分みんな同じ様な結論には至ってそうだけどな。


「おはよう、昨夜はお楽しみだったみたいで」

「……お、おうおはよう」


不機嫌さマックスの表情の睦月が、ドアを開けて入ってくる。

昨日と同じ……いや何となく昨日よりも不機嫌オーラが増している様な気がする。


「大輝、一個相談があるんだけど」

「え?」


俺の前に座り、睦月は手を取ってじっと見つめてくる。

不機嫌ながらも真剣なその眼差し。

こいつがこんな顔するなんて、よっぽどのことなんだろう。


俺はとりあえず話だけでも聞かせてもらうことにして、睦月にも飯を出す様あいに頼んだ。

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