表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/212

第13話

先週の女子三人組との鉢合わせがあって春海のお願いを聞いた結果、今週の週末デートは春海の家、つまりは姫沢家でということになった。

ちなみにお泊りセットを持ってくる様にと連絡があってドキリとする。

どどど、どうしよう、なんて考えていたら追撃メールが来て勉強セットも忘れない様に、とあってほっと胸を撫で下ろしたものだった。


「何安心してんだよ、このスケベ」


背後から突如良平に話しかけられて、心臓が飛び出さんばかりに驚いたし動揺した。


「……人の携帯、覗き見するのはさすがに悪趣味だと思うんだが」

「いやいや、隠す様子もなく見てたら目に入るだろうが」


悪びれる様子もないが、これに関しては俺も迂闊だった。

まぁ、見られて困る様な内容ではないわけだが。


「何だかんだ禁欲生活なのに、青春を謳歌しているみたいじゃないか。いやぁ羨ましい」


本気で羨ましがっている様には見えないが、こいつは普段からイマイチ何を考えてるのかわかりにくい。

最近まで浮いた話のなかった良平だが、ここにきて一つ女に関する問題が浮上しているのだ。


「何言ってんだ、このクソイケメン。そういうお前は、井原とどうなってんのさ」

「いや、どうもなってないけどな。別に向こうから何か言ってくるわけでもないし」

「ってことは井原の片思いなわけ?お前だって、別に嫌だとかそういうのはないんだろ?」

「んー……そりゃそうだけど、ありゃ事故みたいなもんだしさ。意識して言ってきたとかならまだわかるけど、そうじゃないのに俺がどうこう言うのは違うでしょ」


事故というのは、週明けの学校での出来事だ。

春海があんなこと言うから俺が桜井を見る目も多少変わってしまったが、そんなものは事故とは言わない。


「そういえば、圭織は田所のこと、どうなってるの?」

「え?ど、どうって……」


その日、俺は放課後になっても三人から帰宅を許されなかった。

そして桜井の発言に明らかに動揺した井原を見て、お、これはと思った。


「田所って、良平?」


これは、普段のお返しが出来るチャンス、と思って一応確認しておく。


「そうだよ。宇堂は田所と同棲してるんだっけ」

「その言い方やめない?ちょっと気持ち悪いし」

「男同士で同室だと、ちょっと変な気分になったりとかしないの?」

「マジでやめて……考えたくもない」


腐女子みたいなことを言う桜井に、それを聞いて目を輝かせる野口。

さすがに良平と、とかちょっとない。


「まぁ、それはいいとして宇堂に田所のこと教えてもらったらいいじゃん」


やっぱりそういうことなのか……って言うと良平にも春が来ちゃうわけだな。


「良平が好きなの?」

「えっと……好きって言うか何て言うか……」


シャーペンの先端を机にガシガシぶつけながら井原がしどろもどろになる。

先が潰れちゃってるから、そろそろやめてあげて……。


「見た目はカッコいいと思うし、いいんじゃない?田所が好きってこと、認めちゃいなって」


桜井がそう言ったのとほぼ同じタイミングで良平が教室のドアを開けて入ってくる。


「大輝、帰ろう……ぜ……?」


最高のタイミングだな、お前。

場の空気が一瞬で凍り付いて、良平は気づいてしまう。


「あ……えっと……」


桜井も俺もまずいと思うものの、何を言っていいのかわからない。

井原も気まずくなって良平から目を逸らしている様だった。


「あ、じゃあ俺先帰ってるわ、またな大輝」


そう言って風の様に良平は去って行った。

呼び止める暇はなかった。


「あっ!圭織!?」


井原も立ち上がって、そのまま駆け出した。

追いかけようとした腕を桜井に掴まれて、為す術もなく立ち尽くしていたが、俺たちも帰ろうということに。


帰ってから良平を問い詰めても、良平は俺が何かする様な問題じゃない、と言っていたし、ならばと俺も問い詰めるのをやめた。


翌日井原は普通に登校してきていたし、大きく変化がある様にも見えない。

というか普段からそんなにガン見した覚えもないから、違っててもわからないんだけどな。

俺たちの中で変わったことと言えば、帰りの迎えが良平から俺にバトンタッチしたことくらいだった。


そして迎えた週末。

良平はいつもの様に余計なお世話だ、と言いたくなる様なことをペラペラチャラチャラと喋って送り出してくれて、俺は春海の家に向かった。



「……って訳なんだけど、どう思う?」

「ふむ……」


今はまだ勉強をしておらず、二人でおやつをかじりながらの雑談中。

俺だけでどうにかできる話でもないから、と春海に相談しようと決めていた良平と井原の話をしてみたのだ。


「俺があれこれ口出す筋合いの話じゃないとは思ってるんだけどさ」

「まぁ、言う通りではあるね。だけど片や親友の話だもん、気になるよね」

「そこなんだよ……あいつだって、あんなことになったら気にならないってことはないと思うんだけどな……」

「井原さんね……あの子、割と可愛いよね。大輝、ずっと見てたんでしょ?どうだったの?」

「確かに整った顔してるとは思うけど……そういう目で見てたわけじゃないからな?」

「私より可愛い?」

「んなわけあるか。大体好みじゃないし」


ふむ、と春海が息をついて俺に微笑みかける。


「ならいいけどね。その事故のあと、よく見てたみたいだから」

「普通に観察してただけだよ。まぁ、俺とか桜井にも落ち度はあったと思うしさ」

「それは否定しないけどね。まぁ、一応言っておくとね……井原さんに限らず、私割と寛大だから浮気の一つくらいは甲斐性だと思って許すと思う」


意外なことだな。

浮気とか即ギルティとか言って殺害されそうな気しかしないんだが。


「あの……」

「でも、浮気なんかするくらいなら……」

「え?」

「……何でもない。それより、今日はありがとうね」

「え?何だよ、言いかけてやめるとか……気になるだろ」

「いいの、気にしないで?それより、少しお願いがあるんだ」


何だろう、こいつが言いかけてやめるなんてこと、前まであったか?

煮え切らないというか、何だか気持ち悪い。


「お願いって?」

「……何があっても、私のことちゃんと見てくれる?」

「は?何言ってんだお前、当たり前だろ」

「本当に?」

「どうしたんだお前、今日変だぞ」

「…………」


何やら考え込んでいる様だ。

本当、どうしたんだ一体。

体調でも悪いのか?


「少しね、彼女らしいことしたくって」

「何だその抽象的なの……彼女らしいことって何?」

「束縛、とか」


今更何言ってるんだ?とは思うが、確かに束縛らしい束縛ってされていなかったかもしれない。

そう考えると、別にそれくらいなら、なんて思えてきてしまう。


「まぁ、春海はそういうのあんまりしてこなかったしな。別に少しと言わず、がっつりやってもらって構わないぞ?」

「そんなこと言って、後悔しない?」

「別に男女で束縛とか、よくある話だろ?」

「そっか……へへ、言質取ったからね?」


そう言った春海が、いとも簡単に俺を抱きかかえる。

何これ、お姫様抱っこってやつじゃない?

てか、それするのって俺の側だと思うんだけど……気のせいか?


「あの、ちょっと……」

「暴れないでね、危ないから」


そのまま春海が普段使っているベッドに放り投げられて、背中を打った俺は軽くむせた。

ちょっと扱いがぞんざいじゃないか?

もう少し優しく扱ってくれても……ああ、でもこれは……枕とか布団から春海の匂いがする……。


などと呑気なことを考えていたら、俺の両手がぐいっと持ち上げられて、枕の上ら辺にあるベッドの柵にくくりつけられた。

……あれ?束縛って精神的にじゃなくて、物理的にってことだったの?


「な、なぁおい……冗談だよな……?」

「…………」

「お、おいって」

「冗談に、見える?」


ちょっと待って、この状況ってかなりやばくないか?

俺、これじゃほとんど抵抗とかできないんだけど。

軟禁とかされちゃう流れじゃないよな、さすがに……。


「これなら……大輝は安全だよね……?」


いや、今まさに危機が迫っています!

主に貞操の危機ってやつが!

春海が俺の、腰辺りに跨ってきた。

すぐに降りろ!すぐにだ!そこは危険なんだぞ!


「おい、まさかとは思うが……」

「うん、大体想像通りじゃないかな」


表情を変えることなく、さらっと言う。

そしてそのまま、抵抗できない俺の唇に春海が吸い付く。

今までのどのキスよりも濃厚に、そして長い時間俺の口の中が蹂躙されていくのがわかる。


そして、悲しいことに俺の体が正直であることも……。


「ぷは……ま、待て春海、落ち着いて話し合わないか?これ以上はやばい」

「ダーメ。もう遅いもん。それに……必要なことなんだよ」


俺の制止など耳に入っていないかの様に、春海は俺の唇から首筋、胸、腹と自らの唇を這わせていく。

それらの刺激も相まって、俺の我慢も相当やばい。

何の我慢かって?


聞くなよそんなこと!感じろ!

とまぁ、つまりはそういうことだ。

余裕がある様に見えるって?


んなわけねーだろ、もう色々限界だよ。


「た、頼む春海!降りてくれ!俺、もう……」

「おっと、これ以上は……」


そう言って、春海が俺の上から降りようとしたその時だった。

きっと、察してくれたんだろうとは思うが、時すでに遅し。

俺の頭の中ではシャンパンの栓が飛んで、その中身までが勢いよく噴き出すイメージが湧いていた。


ああ、やっちまった……。


「…………」

「…………」


事態を察したのか、春海が今まで見たこともないくらい目を泳がせている。

俺はと言えば、今までに感じたことのない脱力感に襲われて、不意に涙がこぼれた。


「世界は、何故争うのだろう……」


正直なことを言ってしまうと、気持ち悪い。

具体的には、ズボンの中からパンツの中まで。


「えと……ほ、ほどくね……」


春海が少し伏し目がちになって、俺の手から紐を取り除いた。

しかし、手が自由になっても俺は何もする気が起きず、天井を……いや虚空を見つめていた。


「あの……お、お風呂、入ろうか。うん、そうしよう。そ、そのままって訳にもいかないでしょ?」

「…………」

「すぐ、用意してくるから、待っててね?」


春海が風呂場に消えて、一人残された俺は、尚も虚空を見つめてぼーっとしている。

俺は何も悪くないはずなのだが、情けなさやこらえ性のなさが身に染みてしまい、ああ、これで春海にも愛想尽かされて……なんて見当違いもいいところなことを考えていた。

よくよく考えてみれば、俺がそんなことを心配しなければならない理由など一つもないはずだったが、これも思わぬ場所で迎えた賢者モードのせいかもしれない。



「えっと……お風呂、湧いたから……入るよね?」

「…………」


何となく顔を合わせづらくて、無言で替えの下着を持って風呂場へ向かう。

バスルームへ向かう途中で秀美さんがいるのが見えて、思わず目を逸らしてしまった。


「あ、大輝くん……えーと……下着、良かったら洗濯するわよ?」

「…………」


何で秀美さんまで知ってるんだよ……。


「大丈夫です、自分でできますから……」


さすがに無言でというのも感じが悪いので、一応の返事だけしておいて俺はバスルームに向かった。

秀美さんはオロオロしていたが、今回秀美さんも特に悪くはなかったはずだ。


「あ、あの大輝、パンツくらい、私が……」

「頼むから、来ないでくれ」

「…………」


春海のことをここまで突っぱねたのは初めてかもしれない。

だが、今の俺は危険だ。

心が完全にささくれ立ってしまっている。


いたずらに春海を傷つけるのは俺も望むところではないし、ここはこれで正解なんだ、と自分に言い聞かせて脱衣所に入る。

脱衣所でパンツを脱いで裏地を見て、深いため息が漏れた。



「はぁ……」


そして浴室で再びのため息。

全裸で自分のパンツを全力で洗っている俺の姿。

良平辺りがこんな姿を見たら、あいつのことだから腹の筋肉がつるほど笑ってのたうち回るんだろう。


春海の今日の暴走っぷりは、一体何だって言うんだ……。

必要なことって、俺の暴発がか?

あいつの考えていることが、俺には全くわからない。


半泣きになりながらパンツを洗い終わって、俺自身も湯船に浸かる。

初夏に差し掛かっているとは言え、さすがにちゃんと温まっておく必要はあるだろう。

長い一日の疲れが溶けて消えていく様だった。


その後春海も秀美さんも風呂に入ったらしく、秀美さんが風呂を上がってから夕飯を用意してくれた。

大輝の入った後だからって、湯船のお湯飲んだりしてないからね?とか春海は言っていたが、さすがにそれはないと信じたい。

ちなみに今日春喜さんは仕事で留守らしい。



「スープ……どうかしら?割と美味しくできたと思うんだけど」

「ええ……とっても美味しいと思います」

「うん、さすがママだね、美味しいよ。今度作り方教えて?」


何とか場を盛り上げるべく、会話を広げようとしている春海だが、どうにも空回ってしまっている。

こんな春海は珍しいというか、こんなに要領悪いやつだったっけ?

ふと春海を見やると、春海は目が合ってすぐに俺から目を逸らした。


秀美さんは俺たちを見てニコニコいつもの様に笑っているが、少しオロオロしている様にも見える。

先ほどの風呂前の件を引きずっているのだろうか。


「大輝くん、あのね?」

「……何でしょう」


大方、そろそろ許せとかそんなことを言いたいんだろう。


「そろそろ……許してあげてもらえないかしら」


ほらな。

この状況で言えることなんて、そう多くない。

関連したことか、刺激しない為に全く関係ないことの二択と言ってもいいだろう。


「…………」


考えてみたら、彼女の親にまであんな恥ずかしいことがバレてるとか、どんな拷問なのかと思う。

しかし……春海が騒動を起こすのは今に始まったことじゃない。

これからだって、きっと似た様な……いやもっとひどいこととかするに違いないのだ。


これ以降の付き合いに支障が出るのも困るし、今後少しくらい今日のことがネタにされるとしても、許してやるのは優しさかもしれない。


「……仕方ない。春海」

「はい」

「ああいうの、もう無理やりしないって約束できるか?」

「……わかった」


何でそんなに残念そうなんだよ……。

この期に及んで、まだ何かするつもりだったのかお前。


「あと……このこと桜井とかに言うのやめてくれよな。ネタにされていじられるだけじゃ済まないだろうから」


あいつらのことだからきっと、散々いじった挙句に良平辺りの耳にも入れて、学校と施設とでいじられまくって、俺に安息の場はなくなる。

そうなったら俺、どうやって生きていけばいいのか……。

この俺の言葉に、てっきり春海も素直に頷くんだろうなんて俺は思っていたんだが……。


「うん、そのことなんだけど……」


うん、そのことなんだけど?

こう返してくるってことは、だ。

大抵俺の要望が無視されてますよ、ってことが大半なんだよ、うん。


ってことはだよ?

これもう、あいつら知っちゃってね?


「大輝にどう接したらいいかっていう相談がてら、メールを……」


そう、そういうことだよな。

わかっていたさ。

オーケー、想定内だ落ち着け……。


「おっまええええぇぇぇ!!ふざけんなよ!?本当!!ふっざけんなよおおおぉぉぉぉ!?」


なんて考えている間に、勝手に口が動いていましたとさ。

うん、それが普通だ。

俺は悪くない。


気付いたら両手で頭をガシガシとかきむしっていた。

ストレスを感じると興奮する神経を無意識にマッサージしているのが、この頭をかきむしるという行為。

特に日本人男性に多い行動なんだそうだ……そんなことはどうでもいい!!


「ご、ごめんなさい……一応デリケートな問題だし、学校で触れない様にしてあげて、って釘刺してはあるんだけど……」

「俺はお前に釘刺しとくべきだったよ!!結局知られちまってんじゃねーか!!学校行けねーだろが!!どうすんだこれぇ!!」

「た、大輝くん落ち着いて……」

「ええ、そうですね……落ち着いて……」


フーフーと息を整えるべく息を深く吸って吐く。


「いられるかああああぁぁぁぁ!!!」


あまりの事態に何だか視界までもがクラクラしてきている様に感じる。

何なんだ、こいつは俺に何か恨みでもあるのか?

一瞬でも同情して許そうかな、なんて思ってしまった自分を、助走つけてぶん殴りたい。


半狂乱のまま俺は出された食事を平らげて、激しく憤慨したまま部屋に戻る。

あそこまでされて嫌いになれないことが、更に腹立たしい。


「……入るよ?」


ノックの音が聞こえて、春海がそろそろと部屋に入ってくる。

俺の機嫌を窺う様な、恐る恐ると言った感じの春海。

自分の部屋なのに何遠慮してノックとかしてんのこいつ……。


ああ、あれか。

俺が自家発電に勤しんでるとか思って気を遣ったとか?

……それこそバカにしてるとしか思えないけどな。


「…………」


嫌いになれないことが腹立たしくはあったけど、こうして頭が少しずつでも冷えてくると、俺も大人げなく取り乱したな、とか考えて恥ずかしくなってくる。

いや、そもそも今日恥ずかしいことばっかりなんだけど。

そんな俺の考えを理解しているのか、春海が体育座りしている俺の隣に腰かけてくる。


何となくまだあんまり近寄るのが躊躇われて、俺が一歩移動すると春海がその空いた分だけ詰めてくる。

そんなことを繰り返しているうちに、俺はベッドサイドまで追い詰められていた。


「大輝、ごめん。私が軽率だった」

「……もういいよ。俺のこらえ性のなさが原因でもあったと思うし」

「その辺はよくわからないけど……比較的我慢できた方なんじゃない?」

「お前、マジでいっぺんその口閉じろ……」


そうは言っても、いつまでもこんなんじゃ……と思い直して春海を見ると、春海は何か考え込んでいる様だった。


「どうしたら、許してくれる?」

「どうしたらって……」


この問題の一番の懸念事項。

それはあいつら三人だ。

絶対いじってくるに決まっている。


思春期男子の、それも一番デリケートな部分だということも理解しているはずなのに。


「でもね、大輝」

「ん?」

「タコの交尾ってオスが足に種乗せてメスに渡すらしいから、大輝のはタコよりマシだったんだと思うよ」

「そりゃ面白い雑学だけど、何の慰めにもなってねーよ馬鹿野郎!!」


真っ先にいじってきたのはこいつだった。

本当に何がしたいのかわからない。

俺の傷ほじくるのがそんなに楽しいのか?


「やっぱりこれしかないかなぁ……」

「何がよ」


もうまともに相手をしていることにも疲れてきて、段々俺も塩対応になっているのがわかる。

できればもう何もしないでもらえると、非常に助かります。


「おい、もういいって……」

「ダメ、私の気が済まないもん」


そんな可愛いこと言ったって、俺はもう騙されないからな。

こいつが真面目な顔してるときも、大体ロクでもないこと考えてるに違いないんだから。


「俺が許せば気が済むんだったら、許すから。もう何もしなくていいぞ」

「ダメ。私も大輝の見たし、大輝も私の見て、お願い」

「……は?」


こいつの考えることはマジでわからん。

目には目を、歯には歯を、裸には裸をって?

その原理で行くと……。


「で、頑張って私もイくから。ちゃんと見てて」

「バカか!何のプレイだよそれ!?見るだけじゃ済まないだろ絶対!!てか直視できる程俺は達観してねーよ!!!」


予想もできない方向から特大の爆弾投げつけてきやがって、こいつ……。

一体今日俺は、どれだけ叫んできたのか……。

段々声が枯れてきている気がする。


「見てくれないの?」


何でそんな、心底残念そうなの?

まるで俺が見ることが義務みたいな顔しないでくれる?


「見るよ、いつかな!でも今じゃない!」

「そんな強情張らなくてもいいのに……」

「初志貫徹って言葉知ってるか」

「そんなものは今朝トイレに流してきた」

「何でそんな大事なもんトイレに流した!?俺の一大決心だぞ!!」


ふええ……話が進まないよぉ……。

これはあれだな、RPGで何度「いいえ」を選んでも何だかんだ「はい」を選ぶまで延々同じ話を聞かされるやつ。

じゃあ何だ、俺はこの誘いを受けるまで前に進むことが許されないってこと?


「ほら、とりあえずこっちきて横になって?」


ベッドに上がって布団をぽんぽん、と叩いて俺を誘う。

決めかねて春海を見ていると、ぽんぽんが段々バシバシに変わって、そのうちマットレスやら貫通する勢いでガンガン叩き始めている。

はぁ……。


仕方なくベッドに上がって、言われるまま横になる。

どうせ俺はこのまま春海に組み敷かれて無理やり男にされて……なんて考えていると、隣からスースー音が聞こえるではないか。


「…………」


おいおいおい、何寝てんのこいつ。

あんだけ激しく猛烈に誘ってきといて、オチがこれなのか?

かと言って起こしたら、とんでもない暴挙に出られないとも限らない。


やれやれ……。

仕方なく俺は春海に布団をかけてやり、ベッドを出た。

俺は一体、何しに今日ここにきたんだろう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ