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第113話

「近寄るなって言ってるでしょ、あんた臭いんだよ」

「このチビ……調子に乗りやがって!!」


覚悟を決めて目を閉じたところでがしっと腕を掴まれる感覚があって、直後にその手が離れるのがわかった。

ざわっと男どもが騒ぐ様な音が聞こえて、おそるおそる目を開けると……。


「ってえな!何だよお前ら、離せ!!」

「桜子お前、こんなとこで何してんだよ、こんな時間に」

「大輝くん……?」

「怪我してない?桜子、大丈夫?」


その男の腕を掴んでいたのは、睦月ちゃんだった。

それに何処から現れたのか大輝くんもあいちゃんも、玲央くんもいる。


「こいつらに絡まれてたのか、お前」

「あ、いや何て言うか……」

「そうかそうか……お前ら、人の女に手を出そうとか……死ぬ準備は出来てんだろうな」


大輝くんの雰囲気がガラッと変わり、張りつめた様な空気が流れる。

変身とかしてないのに、何これ……。


「はい、大輝は落ち着いてね。このまま大輝が暴れたら、こいつら死んじゃうから」

「私に任せて。スルーズ、玲央をお願い」


そう言ってあいちゃんが玲央くんを睦月ちゃんに渡す。

そして……。


「な、何だよお前ら……」

「うん、私たちの仲間に手を出した罪は重いからね。ちょっと思い知ってもらおうか」

「おい、にげ、逃げた方がいいだろ、これ……」


男どもが逃げの姿勢を取り、あいちゃんから距離を取ろうとする。

もちろんあいちゃんは先回りして男どもを一人も逃がさなかった。


「じゃ、寝ててもらおうかな」


そう言ってあいちゃんが手をかざすと、そいつらは次の瞬間には歩道のガードレールにもたれかかって寝息を立て始めた。

本当に眠らせただけなんだ……。

でも無闇に危害を加えるよりはいいのかな。


何より今まだ夏だし、風邪ひいたりって心配もないもんね。


「さて、どうしたの?珍しいよね。何処行こうとしてたの?家まで送ろうか?」

「…………」


家まで送ってくれるというのは確かにありがたい。

だけど今送ってもらうと漏れなく大輝くんはあのハ……父に鉢合わせしてしまう。

だけど丁度いい機会かな。


せっかくだから、ちょっと遅い時間だけど会ってもらうのもありかもしれない。



「お腹空いてない?何か食べたいなら言ってね」

「あ、うん」


なんて思っていたのになんで私、あいちゃんの家にいるんだろう。

さっき大輝くんたちがいたのは、偶然ではなかったらしい。

というか、私も初めて聞いたのだが……。


「一応人間メンバーには危険が迫った時の為に、サーチつけてあるから」


とのことで、私が家を出た辺りで動向は掴まれていた。

今日は元々大輝くんとあいちゃん、それに睦月ちゃんとで玲央くんの世話をしながらまったり過ごしていたみたいで、私の動きを察知した睦月ちゃんに二人がついてきた、ということだった。

普段から監視されているわけではない様で、実際家で何があったとかそういうことは知らないらしい。


「で、何があったんだ?あんな時間にお前、一人で出かけたことなかっただろ」

「……まぁ、そうだね」

「大輝、無理やりに聞き出すのはよそう。桜子も話したくなったら話してくれたらいいから」

「桜子、一応これだけは言っとくぞ?俺はお前のことも大事だし、何かあったら……正直どうなるか俺にもわからん。さっきですら、ちょっと自分を見失いかけたくらいなんだ」

「…………」


独占欲強い方だというのは知っていたが、まさかああなるなんて想像もしていなかった。

だから正直怖かったし、大輝くんにあんな顔をさせない様にしないといけないな、ってちょっと反省もした。


「うん、ごめん。でも……簡単に言うと親と喧嘩しただけなんだ。心配かけてごめんね」

「ふむ……家には帰る?もし帰りづらいんだったら泊まって行ったら?」


あいちゃんも、心底心配してくれている様だ。

この子もこっちきた当初は大輝くん以外を半分敵視してる感じだったのに、ここ一週間で随分変わったなと思う。

すっかりと私たちを仲間だと思ってくれているんだから。


こんな言い方が正しいとは思えないが、ここまで人って変わるものなのか、と正直感心している。


「俺、ちょっと玲央を風呂に入れてくるから。桜子、ゆっくりしてけよな」


大輝くんから声をかけられて、あいちゃんは大輝くんによろしくー、って笑いかける。

こんな笑顔する様になるなんて、私はもちろん睦月ちゃんも想像してなかったって聞いた。


「お言葉に甘えて……泊めてもらおうかな」


もしかしたら私も、あいちゃんみたいに自然な笑顔が身につけられたりするんじゃないかって、そんな気がして私は申し出を受けることにした。

睦月ちゃんとあいちゃんに言われて、一応連絡だけは入れる。

母に直接連絡をして、先ほどの非礼を詫びた。


仲間のところに泊まると伝えるとほっとした様な声をしていたのが印象的だった。

こんなところでも、私は無用な心配をかけていたのだと。


「ねぇあいちゃん、神様ってどんな気分?」

「桜子さん?」


あいちゃんは大輝くんと睦月ちゃん以外の人間に、さんをつけて呼ぶ。

何となく抑揚のない声だ、と思った最初の頃と比べても大分明るい声が出る様になっているし、子どもが出来るとこんなにも変わるんだなって私は思った。

そして私は人間だから神のこととかわからない。


神界へ行ったり冥界へ行ったりして、神力を使わせてもらってもそれは変わらなかった。

もしも普段からあんな力が使えたら、もう少し心に余裕があったりするのかなってちょっと考えたりもする。


「どんな気分、か……どうだろ、私は私が特別だなんて考えたこともなかったから。だって、周りもみんな神だったし」

「ああ、そうか……親とかはいないんだっけ?」

「いないっていうか……多分私は創造された側の神だから。気づいたらそこにいたの」

「…………」


思いもよらない返答が返ってきた。

創造された?

どういう意味なんだろう。


「ああ、そうかわからないよね。神には二パターンあるって言われてて……私みたいに出自が全く不明な神と、親がちゃんといる側の神。スルーズとかバルドルはそれに当たるんだけど」

「え?」


睦月ちゃんにも、神様の時の親がいるってこと?

バルドルさんは確かオーディン様の息子なんだよね。

母親がフリッグさんだったっけ。


睦月ちゃんの姫沢家の両親以外で親がいるなんて、そんな話は聞いたことがなかった。

そんな素振りも見せたことないし、考えたこともなかったことだから尚更に驚いたと言えるかもしれない。


「私もスルーズについては詳しく知らないんだけどね。前に一回だけ聞いたけどはぐらかされちゃったし。あんまり語りたくないのかもしれないから、私はそれ以降聞いたりしてないんだけど」

「…………」

「まぁそれはいいとして……どんな気分か、多分桜子さんと変わらないと思う」

「どういうこと?」

「多分桜子さんは、神が万能だって思ってるんだと思う。もちろんそうじゃない部分も見た上でまだ、人間よりも優れている、って」

「…………」


さすが、よくわかってるなぁと思う。

多分表面的にはそう思ってない風を装っているんだけど、深層心理とか言うのではそう思っている。

人間よりも優れた、ほとんど何でもありの力を持っていて、それを目の当たりにしてきてるんだから当然と言えば当然かもしれないが。


「だけどね、神にも苦手なものはあるし、個性だってあるよ。確かに人間じゃ想像も出来ない様な力は持ってるかもしれない。たとえばそうだね……こないだ、私大輝に怒られたの」

「え?大輝くんに?何で?」


果てしなく意外だった。

あの大輝くんが、あいちゃんを怒るなんてことが私には信じられなかったのだ。


「うん、夕飯の時なんだけど……私、ピーマン苦手なの」

「…………」


あまりに予想外の答えが返ってきて、私は言葉を失う。

ピーマンが苦手な神?

何の冗談なのかと思った。


「でね、大輝が作ってくれた炒め物を、ピーマンだけ避けて食べてたら……」


好き嫌いすんな。お前は玲央が大きくなって好き嫌いして同じことしてたら、何て言うつもりなんだ?

とまぁ、こんな様なことを言ったらしい。

味覚遮断してでも食え、と詰め寄られて無理やり口に詰め込まれたとのことだった。


想像したら何だかおかしくて、思わず吹き出してしまった。


「人間もピーマン苦手な人多いって、大輝は言ってたかな、そういえば」

「そうだね、私も小さい頃……いや今も小さいんだけど、ピーマン苦手だった。しいたけとか茄子も苦手だったなぁ」


そんな時母は、少し工夫して食べさせようとしてくれた。

ある時はグラタンに混ぜたり。

ある時はハンバーグの種に混ぜたり。


なのにこんなちんちくりんなんだから困ったものだ。

食べないと大きくなれないわよ、なんて言っていたから頑張って食べてきたのに、身長も胸も成長しないったら。


「だからね、桜子さん。私だって困ることなんか沢山あるし、桜子さんと大して変わらないんだよ。困ったことがあるなら、相談してくれていいんだから」

「まさかあのあいから、こんなセリフが出てくるなんてね。神界の連中が聞いたらびっくりするんだろうな。これも大輝のおかげなのかね」

「睦月ちゃん……」


大輝くんからお風呂上がりの玲央くんを受け取って体を拭いてやりながら、睦月ちゃんが現れる。

玲央くんは基本的に人見知りをしないのか、誰が抱っこしてもきゃーきゃー言いながら笑う。

ギャンギャン泣くのは基本的にお腹空いた時とオムツの交換の時だけらしい。


そう考えると手のかからない子だなって思う。


「そうでもないよ、スルーズ。私がこうなったのは……大輝や玲央のおかげももちろんあるけど、スルーズや桜子さん、他の仲間みんなのおかげ。だからかな今、すっごく楽しいの」


そう言って笑ったあいちゃんは今までに見たどの表情よりも輝いていて、可愛らしく見えた。

あの無表情のアンドロイドみたいだったあいちゃんがここまで変わったのが私たちのおかげ、本音なのか気を遣ったのかはわからないけど、あいちゃんは確かに人間界に順応してきている様だ。

なのに私は、人間界とかそういうんじゃないけど……今の窮屈な実家から逃げてしまいたいと考えている。


こんなことを考えていたら、あいちゃんをがっかりさせてしまったりしないだろうか。

そう思うのに、私は今尚家に帰りたくないと思ってしまっている。

だって、ハゲとかそういうのは百歩譲って事実だから仕方ないとして……死ねとまで言ったのはさすがに言いすぎだって自覚があったから。


まぁ、両刀って言うのも事実とは異なるかもしれないんだけど。

というか異なっていてほしい。

こんなことを、どう話せと言うんだろう。


ほとんど百パーセント、私が悪い。

もちろん勝手に見合いとか考えたあの父も大概だが、それを差し引いても私は言い過ぎたのだ。



「……なるほどな。桜子がそこまで言うって、相当頭にきたんだろうなって想像は出来る」

「んー……」

「だけどハゲって……事実でも言ったらダメだよ。大半の人はそこ、めっちゃ気にしてるんだから」

「おい睦月……そんな今にも吹き出しそうな顔しながら言っても説得力ねぇぞ……」


とりあえずさっき迷惑をかけた、ということもあるし、一応私はこうなった原因について説明をすることにした。

そしたら睦月ちゃんはプルプル震えながら笑いそうなのを我慢して、あいちゃんは想像できないのか唸っている。

玲央くんを寝かしつけてきた大輝くんは、私があんな風に暴言を叩きつけるのが意外だったらしく、驚いてはいたが否定もしなかった。


「何かね、見合い云々は適当にかわせばよかったのかもしれないんだけど……大輝くんを悪く言われるのが、いい加減頭にきたっていうか……」

「まぁそれはね……私も桜子の立場だったら父親ぶん殴ってたかもしれない」

「お前はどうしてそう物騒なんだよ……大体お前がぶん殴ったらその人死んじゃうだろ」

「何?私のこと怪力ゴリラとか言いたいの?」

「ば、バカそうじゃない!早合点すんなよ……」


本当に仲良いなと思う。

しかし私は話すことで、一つ嫌な過去を思い出していた。

そしてそんな私に、あいちゃんも気づいていたのかもしれない。

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