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第104話

私としてはあまり好きなやり方ではないのだが、今回ヘルを私たちの輪に加えるに当たっていくつかの投資をすることにした。

具体的に何をしたのかと言うと、手始めに近所の六部屋程度の安いアパートで住民が埋まっていなそうな物件を見繕って買い取った。

リフォームやらは業者に頼むより神力でも使った方が早い、ということで私は夜中にこっそりとその物件に赴いて、各部屋の壁をぶち抜き一階と二階の仕切り……つまりは一階で言えば天井、二階で言えば床に当たる部分にも二か所穴をあけ、階段を作った。


風呂やトイレ、台所が六個あっても仕方ない、ということでこれも二個ずつに減らしてガスと水道に関しては契約を見直すという人間臭い真似をしたりして。

一体これを何に使うのかと言うと、まずはヘルと大輝の為、ということになる。

ヘルは人間界で暮らす環境を用意してやらなければ公園で寝泊まりとか平気でしそうだし、まぁ襲ってくる男がいてもそいつが死ぬだけだから別にいいっちゃいいが、問題なんか起こさないで済むのであればそれに越したことはないだろう。


二階の入り口は防犯の観点でも必要ないということで窓のみを残して、異様に横長の一軒家が出来上がった。

外観も古臭いものからそれっぽいおしゃれなレンガ造りっぽい感じの見た目にしてやって、これでお膳立ては完了というわけだ。

元々が1Kの物件だったので、そこまで広いものではなかったのだが壁を粗方ぶち抜くと開放感がすごい。


しかし壁をぶち抜くだけだとちょっとした地震で崩れる懸念があり、要所要所に柱を立てたりとプロの大工も真っ青の仕事をしておいた。

それから、必要になるであろう人間界での戸籍。

これについては神の力で作ってある。



「そこまでしてあげる必要あるの?」


神界での騒動が沈静化してヘルを連れて帰った翌日の朝、最初に不満というか異を唱えたのは朋美だった。

まぁ予想していた範囲ではあるし、あとで袖の下でも振舞っておけば何とかなる範囲のものでもあると思うのだが、朋美の反対があまりにも静かなのが私としては少し気にかかった。


「ヘルは、大人数でいるってことに慣れてないからね。まずは大輝と一緒にいる環境に慣れてもらって、徐々に人数が増えることに慣れてもらおうかなって」

「まぁ、睦月が言うなら仕方ないかなって思うけど……それにしても大輝のやつ、勝手に決めちゃうなんて」


軽くむくれて朋美は私を睨んだが、その瞳から憎しみは感じない。

これはおそらく、先の大輝救出に向かった時の私の暴れっぷりを目の当たりにして、私を見る目が変わったということなのだろう。

凄い奴、みたいに思われること自体は別に嫌じゃないんだけど、怖がられてるんだとしたらちょっと私としては気を付ける必要があったりするかもしれない。


他のメンバーに関しては今度ゆっくり顔合わせする、という様な意見でまとまっていて、不満があるのは朋美だけの様だった。

確かに帰ってくるなり女増えました!とか普通に考えたら何言ってんのこいつ、と思われても仕方ない。


「まぁでも……元々はああいう風に勝手に決めるタイプじゃなかったわけだし、今回は成長の証ってことでいいんじゃないかな」


そう言ったのは桜子だ。

どちらかと言うと、桜子は面白ければいいみたいに考えるタイプだと思うから、らしい意見だとは思う。

愛美さんを始めとする他のメンバーに関しても、特に問題はない、という回答を得られたので私は二人を三日ほど、二人きりにすることにした。

朋美も渋々ではあるが了承して、だけど経過を見たい、ということだったので予め大輝に連絡を入れて、出かける時だけでいいから見させてくれと頼んでみた。


『別にいいけど、ヘルには気取られない様に注意してくれよ?』


何ともまた大輝らしい返しがきた。

ともあれ本人がいいと言っているので、出かける場合には連絡が来るという手筈になっている。

そう伝えると朋美も少し表情を柔らかくするが……本当に朋美は大輝大好きだな。



『ひとまず家電を買いそろえようかと思うんだけど、来るのか?』


そう連絡がきたのはその日の午後になるちょっと前だった。

大輝には金を渡してあって、一通りの家電やら必要なものは買えるだけの金額あるはずだ。

生活そのものにも困ることはないだろうし、家賃に関しては私が大家なので特に心配もいらない。


いずれは親元で暮らすメンバーにもあそこで暮らしてもらうというのはありかもしれない。

もちろん高校を出てから、というものではあるが。


「大輝たちが暮らしてるのって、ここから近いとこなんだっけ?」


朋美は何だかんだ言って二人の暮らしぶりを見るのが楽しみらしい。

私も少し楽しみだし、多分大輝は大いに振り回されることになるんだろうと思うが、それはそれで見てみたい。


「歩いて十分かからないね。あと、外観からして目立つからすぐわかると思うよ」

「そんなものポンと買っちゃう辺り、やっぱりスケールが違うわね」


明日香の家だってお金持ちだし、買おうと思えば買えるとは思うんだけどね。

とは言っても明日香個人で使えるお金には限りがあるんだろうし、確かに高校生の金銭感覚ではありえないことだとは思う。


「普段あんまりお金使わないからね。有効活用だよ」


そう、私はお金をほとんど使わない。

光熱費以外だと割とありあわせで何でも作っちゃうし、足りなくなったら買いだめをするので、一人でいるときはほとんど出かけない。

だからと言ってみんなや大輝と出かける、となってもじゃあ高級ディナーを、なんて贅沢もしないから、お金はほとんど減っていかないのだ。


高校生組は桜子や明日香などは小遣い制だし、色々出させるのが何となく気が引けるということもあって、私が大体出してあげている。

恩に着せる感じではなくて、寧ろ出させてくれと言う感じで。

理由は様々だが、お金で不自由してほしくない、というのが一つ。


やはりお金がないと、心にゆとりがなくなるということもあって、それが大輝に伝わったりするのは避けたかった。

幸いにも桜子は甘えんぼ気質もあってその点遠慮なく甘えてくれるし、明日香もそういうことなら、と文句を言ったりはしない。

その代わり明日香の家に行くと普段食べない様なご馳走を出してくれたりするし、桜子もたまに差し入れなんかしてくれたりするからお互い様というわけだ。


愛美さんや和歌さんみたいな大人相手にそういう提案をするのはちょっと失礼かな、なんて思いながらも酒類は家に常備してあるし、何だかんだみんな助け合って生きているのだ。

そしてヘルもこの中に入ると言うことなら、せめてそういうことは理解してもらう必要がある。

大輝という手本を得て、どれだけのことを吸収できるのか。

その辺が私としては少し楽しみではある。



「いたわよ。ヘル、大輝くんにべったりね。三日もこの状態なんて、羨ましい……」

「明日香、落ち着いて……三日経ったらまたこっちに戻すから。その後はまた好きにイチャついたらいいんだし」

「たまにはこういうのも面白いんじゃないかな。私は大輝くんがどれだけ世話焼きスキル発揮するのか、楽しみだけどな」


二人がいたのは駅ビルの中の電気店。

私と明日香、桜子に朋美は少し離れたところから二人の様子を伺っていた。

愛美さんはもうすぐお盆休みということもあって、世知辛い世の中だけど頑張ってくるわ、なんて言っていて今日は不在だ。


和歌さんにはお盆休みこそないが、それでも組員が交代で休みを取ることができるらしいという話をしていた記憶があり、愛美さん同様今日は不在。

ヘルと大輝は白物家電を見ているが、どうにも高校生が見るものではない、ということもあって店員も珍しそうに二人を見ていた。


「ここに来ると、思い出すわね……」

「ああ、あれね……」


先日の無修正動画事件。

原因不明の誤作動が、とか後日お詫びの張り紙がしてあるのを私は見た。

うちのが迷惑かけました、なんて思いながら見ていたが、あれ以来大輝も落ち着いているし問題ないだろう。


「冷蔵庫買うみたいね。あんな大きいの、必要かしら……」

「大は小を兼ねると言うしね。それに、将来的にみんなももしかしたら使うことになるかもしれないから」


そういうことも考えて、高校生が普通なら手にすることの叶わない様な金額を大輝には渡したのだ。


『え、札束……?俺、こんな大金持ち歩いたことないんだけど』


などと言う小心者丸出しのセリフはもちろん大輝のものだが、金額についてはそれで察してもらえることと思う。

世間のことを知るのであればテレビなんかも有効ではあるし、生活に必要そうなものはここで揃うはずだ。

そして二人は違う家電を見る為に移動する。


店員も二人が買うものと思って後ろからついて行っていて、あれこれ商品説明に精を出していた。


「マッサージチェアとか買わないのかな。あれ、気持ちいいよね」

「桜子、肩凝ることなんてあるの?」

「朋美……自分が大きくなってきたからって……!胸が大きくなくても、肩くらい凝るよ!読書とかするもん!!」

「ちょっと桜子、騒がないで……ヘルに気づかれるわよ」

「というか自宅にマッサージチェアとか、どこの芸能人だって話だけどね」


ほしいなら別に買えばいいとは思うが、桜子がほしいと言って買うんだと本人は飽きて三日くらいで放置されて、愛美さんや和歌さんが使う未来しか見えない。

こんなことまで想像できる様になっている辺り、私たちの絆は深まってきていることがわかる気がした。


「どうやら会計に入るみたいね。……あんな金額の買い物、初めて見たわ」

「私はたまに見かけるけど、家の用事で。でも高校生が単独で買うものにしてはやはり高額よね」

「私の小遣い何か月分だろ……」


具体的な金額は伏せるが、大輝のバイト料のおよそ十か月分くらいは払っていたのではないかと思われる。

いくら稼いでいるとかは聞いたことがないが、大体の目算で察することは出来る。

当日配送もやってもらえるという話が聞こえ、配送って何なのかとヘルが大輝に耳打ちしていて、こういう大きなものを運んでもらえるサービスだ、ということを大輝も丁寧に説明していた。


するとヘルが早くもおかしなことをしようとする。

冷蔵庫を片手で持ち上げて、店員の度肝を抜いて見せるという。

一体何をしてくれてるんだ、あいつ……。


もちろん大輝が慌てて止めて事なきを得たが、先が思いやられる。

テレビなどの台車に乗る様なものはこの先も使うだろうから、と台車を購入して運ぶことにした様だ。

大輝にしては頭が回ったな、なんて思う。


「少し、手伝って帰りましょうか」


明日香がこう言い出して、最初はどうしようかと思っていたが、朋美もさんせーい!とか言ってノリノリだったのでまぁそれくらいなら、とみんなで二人の家の前で待機する。

紹介だけは一応したけど、絡みらしい絡みもなかったし少しくらいはコミュニケーションを取るのも悪くないだろう。

これからの二人の三日間は、どんな物語を綴るのだろうか。

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