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第103話

私が目を覚ました時。

大輝は自分で決断できる子になっていた。

何を言っているのかわからないかもしれないが、ありのまま言ってしまうとオーディンの主神という肩書に負けた大輝がヘルの面倒を引き受けてしまった、ということだ。


一応言っておくと、私が目を覚ましたのは他の神々の歓声によってではない。

何やら考え込んでいたらしい大輝が何を想像したのか震えだして、その時にその振動で私は目を覚ましたのだ。

そして聞こえてきた、俺に任せろの一言。


私が寝ているのをいいことに、大輝め……私とは遊びだったのね!?とは今更思わないが、そんな軽い決断しちゃっていいの?という気持ちは強い。

何しろ相手はあのヘルだ。

確かに憎しみオーラ的なものはもう感じないし、大輝に懐いてもいるから暴れ出したりは多分しないと思うが、何がトリガーになってキレるかわからない。


そもそもどういう状況でヘルを囲おうと考えているのだろうか。

人間界に連れて帰る?

それで私のマンションに?


ああ、そうかそれで朋美辺りに見咎められて北斗剛掌波の流れか。

それを想像して大輝は震えた、と。

即断じゃなくて相談してきていいですか、くらいのこと機転利かせて言えば良かったのに。


これだから肩書に弱い子は……。

そうなるとこれは大輝が朋美に撲殺される前に、私が手を打たないといけない流れじゃないか。

返事しちゃってるのに、ここでゴネたら何だか私が懐狭いやつみたいに思われそうだし、トールだのロキだのがいなければ軽くゴネるくらいはいいか、なんて思えるんだけど……。


しかし先ほどまで命の削り合いをしていた相手の前でゴネるのはやっぱり違う気がする。

まぁ、何かあったら私が大輝を守るってずっと決めてはいるし……。


「何が、俺に任せろなの?大輝」


……なんて思っていたのに口から出た言葉は正反対のことだった。

やっぱり私って心狭いのかもしれない。

とりあえず起き上がって、あくびをして大輝を見つめる。


すっかり縮み上がっちゃって、可愛らしいことこの上ないんだけど……ここは彼女としてどうしてあげるのが正解なんだろうか。

お膳立て?

私が起きてしまったことで、何となく周りの雰囲気が一瞬で和やかでなくなった気がする。


「そ、その……」

「ヘルは……大輝のお世話が必要なの?」


努めて責める様な調子にならない様にと心掛けたつもりだったが、ヘルにはどう聞こえたのだろうか。

何となく絶望した顔に見えるのは、私も悪いのかもしれない。

イラっとは来るが、ここは私が実は懐広いんだぞ、というところを見せてやらねば。


「わ、私はその、大輝のことが……」

「そういうこと聞いてるんじゃないから。そんなの見てればわかるし。そうじゃなくて、大輝にどうしてほしいの?ってことを聞いてるんだけど。恋愛経験ないからわからないか?」

「む、睦月さん?その聞き方はちょっと当たり強くないですかね……」

「ん?何?」

「いえ……」


ヘルに助け船を出そうとした大輝が私に微笑みかけられて目を逸らす。

私は鬼嫁か何かか?

ちょっとだけ傷ついた。


「ヘル、こればっかりはお前が自分の意志で伝えないといけないことだ。大輝にどうしてほしいんだ?神界で暮らすにしても人間界に行くにしても、大輝にずっと庇って守ってもらって暮らしていくつもりか?」

「えっと……」


大輝はもちろん、他の神々までもが固唾を呑んでヘルの様子を見守る。

ここで新たに、大輝の下僕……じゃなくてハーレムメンバーが増えようとしている。

ならば、ある程度自分の意志は自分で伝えられる様になってもらわなきゃ困る。


黒渦の触媒になっていたのも、きっと何かの縁だろうとは思うから、私としても拒否したりするつもりは全くない。

ただし、それはヘルが自分の口で自分の意志をきっちりと伝えられることが条件だ。

事あるごとに大輝大輝、って言ってるんじゃ、正直大輝の体がもたなくなってしまうから。

これはあれだな……朋美をハーレムに迎えた時を思い出すな。


「大輝、わかってると思うけど、助けようとか思わないでね」

「……ああ」


大輝にも私の言いたいことはある程度伝わっただろう。

その目はきちんと私の意志を反映している様に見えた。


「どうなの?自分で言えるの?言えないの?」

「わ、私は……」

「…………」


あんまり追い詰めすぎるのも良くないけど、この程度のことも出来ない様なら正直資格はない、と私は思っている。

負担や足かせになるのがわかっている者を迎え入れる様な真似は、後々大輝の負担につながる。

そんな事態を招く様なことだけは、出来ない。


「私は……大輝がほしい」

「そう、それで?どうしたい?」

「私……大輝の恋人になりたい。大輝と恋愛がしたい」

「ふむ」

「だからスルーズ、私に大輝を頂戴!!お願い!!」


ばっと立ち上がり、ヘルが頭を下げる。

こいつが誰かに頭を下げるなんてな……。


「お前の気持ちはよくわかった。だけど、あげることはできない」

「……何で?」


その身に黒いオーラを纏い、ヘルがわなわなと震えだす。

そんなヘルを見て大輝は少し慌てている。

まだ事情も説明してないのにこれとか、正直こっちとしては不安しかない。


「とりあえず聞けよ。それからどうするかはお前が判断しろ。こっちは強制するつもりとか全くないから」

「…………」


さて、どう説明しようか。

とは言ってもまんま言ってしまうのがいいんだろうけど、果たしてヘルが理解できるかどうか。


「シンプルに行くぞ。まず、大輝は現状で既に私だけのものじゃない。これはノルンもオーディンも知ってることだ。あとロキも知ってたっけ。まぁどうでもいいんだけど」

「……どういう意味?」

「大輝には恋人が沢山いるってことだよ。私以外にあと五人、人間界に恋人がいるんだ。もちろん全員女だけどな」

「え……?」


信じられないものを見るかの様に、ヘルは大輝を見た。

大輝はその視線を受けて苦笑い。

まぁ、そうなるよね。


というか何でもらえるなんて錯覚を起こせるのか、私にはその方が理解できない。

あげるわけないじゃん。

何の為に私があんなにも、やり直しまくったって言うのかって話になってくる。


「みんなの中に、お前が入るってイメージだけど……それが許容できないってことなら、悪いけど諦めてもらうしかない。さっきも言ったけど強制する気はないし、入ってくださいとかお願いする気もない。お前がきちんと聞いた上で判断するんだ」


先ほどの様にオーラこそ出てはいないが、ヘルは今まで大輝に持っていたイメージとか幻想と言ったものを壊された、という顔で私を見た。

そんな顔で見られても事実は変わらないし、黙ってたって後々バレることだ。

なら予め知ってる方がいいだろ。


「ああ、一個忘れてたわ。仮にお前が大輝を強奪したとしようか。そしたら大輝は多分死ぬぞ。そういう運命の元に生きてるから、大輝は」


この一言が一番堪えたらしく、ヘルは目を丸くして私と大輝を交互に見た。


「まぁ、あいつの言うことは全部事実だな。その運命を回避するために、スルーズとしてではなく人間界の女に憑依してまで何万回もその人生をやり直してくれたんだから」


大輝の援護射撃が入る。

可哀想だから、とかそういう同情で動いても得になることは一つもない。

大輝に至ってはその命を散らす可能性がある、ということを知ってもらっていないと、いつ暴走されるかわからない。


もっとも神になった大輝が本当に死ぬのかはわからないが、どの道いい結果になるとは思えないし、ここまで話して尚受け入れられないということなら私としても全力で諦めてもらうだけだ。

ここで私が大輝を失う選択なんか取るはずがないんだから。


「僕からも一つ、いいかな」

「却下。ていうかまだいたのかよ。とっとと消えてなくなれ。それがお前の役目だろ」

「辛辣だなぁ。まぁそう言わずに……僕も今回のことは反省しているし、一つ助言くらいはさせてくれよ」


そう言ってロキがヘルを見る。

ヘルもあまりロキが好きじゃないのか、顔を顰めてロキを見た。

あの顔はもはや、臭いから近寄んなって言ってる顔にしか見えないのは私だけだろうか。


だとしたらちょっとだけ、ヘルとは今後仲良くできる気がしなくもない。


「宇堂大輝と一緒にいるとね、多分楽しいことは多いんじゃないかと思うよ。もちろん独り占めってわけにはいかないんだろうけど、多くの女性が宇堂大輝に寄り添っている理由を、ヘルなりに考えてみるといいかもしれない」


私が許可してないのに、勝手に喋りやがったこいつ。

あとで蹴りでも入れとくか。


「まぁ、認めるのは大いに業腹ではあるが、概ねロキの言った通りで合ってる。あと私の許可なく喋ったお前は後で死刑だ」

「……宇堂大輝、助けてくれよ」

「いや、俺にはどうにも……頑張れ!」


ガッツポーズで応援している大輝だが、ロキじゃあるまいし私の敵に回る様なことを進んでするわけないだろうに。

今のピリピリしている私に近づいたら……火傷じゃ済まないぜ。


「さぁ、どうするんだ?決めるのはお前自身だ。私たちは出せる情報は出した。あとはお前次第だぞ」


今度は周りだけでなく、私もヘルを見守る。

正直、これ以上出せる情報なんてどんなメンバーがいて、とかその程度だしそんなのは会うことになればわかることだから、ここでグダグダと説明することでもないだろう。

焦点の定まらない目をしながら、ヘルは考えを巡らせている。


どうでもいいけどちょっと怖い。

……いや、考えてみたら大輝はヤンデレもイケるクチだから、ありっちゃありなのか?

だけどそれらを加味してもやはり……どうだろう。


他のメンバーとちゃんとやっていけるのか、とか暴走してやっぱり独り占めしたい、なんてことになると非常に面倒ではあるな、と思う。

そう考えた時、ヘルに変化があった。


「私、大輝といられるんだったら……どんな形でもいい。もう、一人は嫌……大輝と一緒にいたい……」


悲痛とも言える、ヘルの心の叫び。

これがヘルの本音なんだな、と私は感じた。

取り繕ったりすることなく、冥界の支配までも任されていたというその面影は微塵も感じない、純粋な少女の様な表情。


その表情から嘘だとか計算だとか、そういう小賢しいものは一切感じない。

そもそもヘルがそんなものを多用出来る様な、頭のいい女だったなら今回の騒動にしてももっと上手くやっていたのではないか、と思う。

以上のことから、私はヘルを迎え入れてもいいかもしれない、と考えた。


「それが、お前の本音なんだな?」

「……うん」

「大輝、さっき任せろって言ってたけど……本当に任せてもいいの?こいつの世話とかそれこそ要介護者レベルだと思うけど」

「え、マジか」

「何でそこで尻込みするかな……大輝らしいけど」


思わず笑みが零れてしまう、大輝のブレなさ。

大輝のお節介気質とヘルの無知な部分は、上手くかみ合えば面白いことになりそうではある。

何よりヘルもロキに嫌悪感を覚えてるみたいだから、私としては今後気が合うことだってあり得るのではないかと思えた。


「わかったよ、ヘル。今この時より、お前は私たちの仲間だ。人間界に連れてってやるよ」


私の宣言にヘルはその顔を上げ、信じられないと言った面持ちで私を見た。

当然周りは沸き立ち、大輝は爆発しろ!とか野次られている。

無理やり引き離してまた暴走されるくらいなら、望むものをある程度でも与えて抑止力とする。


結果大輝もヘルもみんなもハッピーと、ウィンウィンの関係というわけだ。

周りの評価なんか知ったことか。

こういうやり方しか私には出来ないんだ。


……と開き直ったはいいものの、朋美の説得がなぁ……どうしよう。

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