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第1話

ヘンテコな彼女との、衝撃的な出会いを果たした日。

その日は夏が近いと嫌でも思わされる蒸し暑い日で、晴れ渡った空の眩しさに目を細める様な快晴の空が印象的だった。

小学校低学年の俺はその日、近所の空手道場で稽古に汗を流していた。


彼女はたまたまこっちの方に、親の用事で出向いていたらしい。

そしてこの辺りを散策していてこの道場を発見、館長に許しを得て見学に来ていたと後から聞いた。


この道場には女の子が少ないということもあって、彼女の存在は目を引いたものだし、俺も努めて見ない様にしてはいたが、自然と目に入ってしまって、目が合って慌てて目を逸らす……そんなことを繰り返しながら稽古に励んでいた。

道場の稽古を興味深そうに眺めていた彼女は、俺とそう変わらない年齢でショートカットで活発そうな印象だった。

ラフな格好で現れて、館長とたまに会話を交わしているのが見える。


ぶっちゃけ顔は好みだった。

雰囲気から何となくいいとこのお嬢様なのかな、なんて思ったりもしたが、そんないい女は俺みたいな平々凡々とした人間には縁のない女だ、なんて考えていた。

しかし、彼女は俺が想像もしない様な一言を、割とでかい声で言い放つ。


「組み手を、やってみたいです」


漫画大好きでアニメだってそれなりに見てる俺の頭に浮かんだのは、道場破りという言葉だった。

それこそ漫画の見過ぎだって話なのだが、俺以外の門弟も彼女の言葉に少々ざわついている。

館長はあまり気が進まないのか、渋っている様に見えた。


しかし彼女が何か必死に館長に訴えかけていて、その訴えの直後に彼女と館長は同時に俺を見た……気がする。

複数人が同時に俺を見たりすると、何となく悪口でも言われてるんじゃないかって、被害妄想に囚われそうになるよね。


「宇堂、前に出なさい」


そんなことを考えていたら、本当に呼ばれてしまったでござる。

って、マジで俺の事を話してたの?

俺、そんな可愛い子知り合いにいないんだけど……。


何なら女の子の知り合いなんて、身内の施設の子くらいしかいないんだけど。

先生は……女の人だけど女の子、って歳じゃないしな。

……いや、この話題は危険だ。

あの年頃の人に女の子、とか嫌味にしかならないはずだ、やめとこう。


「宇堂、何をしている?早くきなさい。それとも、この女の子が怖いのか?」


ウダウダ考えているうちに再度お呼びがかかる。

何でそう煽る様な言い方するの?

大体そんな安い挑発に乗っちゃう様な脳筋は、こんな風にグダグダ考えたりしないでしょ。


そう思っていた矢先。


「怖いわけがないでしょう!」


おおっと、口が勝手に動いちゃうことって、あるんですねぇ……。

しかし言ってしまったら仕方ない。

恥ずかしさを押して、渋々俺は前に出た。


近くで改めて見ると、本当に綺麗というか可愛らしいというか……絵に描いた様な美少女だ。

身長は俺と同じくらいか?

まぁ、組手やってみたいとか言うくらいだし、経験者なんだろうな。


かく言う俺だって、この道場ではそこそこの実力は持ってる……はずだ。

黒帯まではまだちょっと遠いけどな。

一応、基本的な技くらいなら新人の門弟に教えていいって館長から許可もらってるし。


ここはいっちょ、適当にあしらってお帰り頂く方向で行きますか。


「私、姫沢春海ひめさわはるみ。よろしくね」


何この子、笑顔も超可愛い。

何を間違って俺なんかを指名してきたの?

もっとウホッ!いい男!とか言いたくなる様な男いるだろうに。


まぁ、それは冗談としても本当に整った顔立ちで、大人になったら絶対美人になるだろう、って思える。

短い髪が似合っていると思ったが、長くしててもこれは似合うに違いない。

……よし、向こうがちゃんと名乗ったんだ。


俺も、ちょっとカッコよく自己紹介しちゃうぞ。


宇堂うどう……大輝たいきだ。女だからって、手加減しないぞ」


うん、決まった。

こないだアニメでやってた名乗り方。

苗字と名前の間は溜めて言う。


まぁ、男の子だからな。

カッコつけたかったんだよ。

しかし名乗りのあとのセリフは余計だった。


ありがちでその上定番……そして噛ませ犬のセリフとして。

そのことを俺は、ものの数分後に思い知ることになった。


そう、俺の無様で見事な負けっぷりによって。

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