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【紀行文】 近江八幡の水郷めぐり

作者: 天音光人

 JR近江八幡駅で列車を降りて、琵琶湖の方へ延びる広い道路を十五分ほど歩くと、市の中心部に入った。すぐ向こう側には、ロープウエイのある小高い山が見える。かつて豊臣秀次が城を築いた八幡山である。近江八幡は城下町として始まり、江戸時代には商業都市として栄えた。今でもそのころの面影が残っている。


 江戸時代の豪商の家が重要文化財として保存されており、かつての近江商人の権勢を偲ばせる。時代劇にでも出てきそうな町屋が建ち並ぶ通りを進んでいくと、赤い欄干の橋に突き当たった。その下を流れる水路が八幡掘で、豊臣秀次が琵琶湖の船を立ち寄らせるために作らせたものだ。その先にあったはずの城郭は、今はもうない。


 江戸情緒の残る町並みを後にして、八幡掘に沿って琵琶湖の畔まで歩いていくと、水郷めぐりの舟着き場に着いた。あたりには葦の茂る湿原が広がり、その中を昔ながらの手こぎ舟が通るのである。


 乗客定員六人の小さな屋形船に七人の客が乗ることになった。それにも構うことなく、今年七十歳になるという船頭は巧みに櫂を操り、舟は葦の茂みの間にできた細い水路をゆっくりと進んでいく。


 ときおり心地よい風が吹いて、葦がざわめく。ほかに聞こえてくるのは、櫂を漕ぐ音と水がはねる音、それに水鳥の声だけだ。


 「毎日騒音の中にいるから、ほんと心が安らぐなあ」

と、若い女の客が言う。


 「あたしらが騒音だしとるんやけどな」

と、連れの女が笑う。


 舟にゆったりと揺られていると、そこだけ時間がずっと止まっているような気になる。


 けれども時間は容赦なく進み、舟は元の舟着き場に戻ってきた。舟から下りたあと、わたしは心地よい眠りから覚めたような、爽快な気分になっていた。

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