第8話:告げられない思いとドキドキバスタイム(紅葉サイド)
※今回は紅葉の視点で物語を始めます
「あのさ……」
「なっ、何よ……」
「……何でもない」
もうっ!言いたいことがあるならはっきりと言いなさいよっ!
あたしは大地に煮え切らない態度にヤキモキとさせられていた。
彼は困りごとがあるとこのように途端に無口になってしまうのだ。それが自分の見た目ならば、怒りは自然と倍増させられてしまっていた。
「なぁ?まだ昼間のことを怒っているのか?」
「別に……そんなんじゃないわ」
あたしは無意識の内に大地に対して怒りの感情を向けてしまっていた。
いけない……こんなことをしている場合じゃなかった
あたしは大地に菜緒から告白されたことを伝えなければならなかった。だけど……今一歩のところで彼にその事実を伝える勇気が湧いてこなかった。
あたしは大地に愛されている自信がなかった。彼があたしに対して何かしらの好意を懐いていることは知っているが、それが愛情なのか、友情なのか、それは定かではない。
もしかしたら大地はこんなあたしなんかよりも菜緒のことを選ぶかもしれない
そう思うと喉に痞えた気持ちを声にすることはできなかった。
このままじゃ、駄目だっ!何時ものようにあたしが踏み出さなければ……
大地は何時も肝心な所で躓く。そんな時は何時もあたしが彼の背中を押してきたのだ。
だから……今度もあたしは自分から話を切り出すことにした。
「あのね……」
「な、なんだ?」
「ちょっと大地に聞きたいことがあるんだけど……」
「改まってどうしたんだ?」
大地は不思議そうに首を傾げると円らな瞳であたしのことを見つめていた。
落ち着けあたし……目の前にいるのはあたしの身体なんだ
あたしは深呼吸すると話を続けた。
「あのさ……仮の話なんだけど?」
「仮の?」
「そう……仮の話なんだけど……」
あたしはなんて臆病なやつなのだろうか……
あたしはいきなり真実を語ることができなかったため、仮定の話でまずは大地の反応を見ることにした。
「もしも、あんたのことを好きだという女の子が現われたら……どうする?」
「俺を好きな女の子?」
大地は目を丸くさせると鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべた。
動揺しているのかな?
まぁ、大地がいきなり女の子に告白されるシチュエーションなんて無理があったのかもしれない。
あたしだって信じたくはなかった。
よりにもよって大地が学園で3本指に入る美少女から告白されるなんて……。
「どうしたの?黙り込んだりして?」
「……すまない。いきなりの質問だったから困惑してるんだ」
「そう……」
あたしの心境は何とも複雑だった。安心したような、悲しいような、何ともいえない気持ちが渦巻いていた。少なくとも喜んでいる感じには見られなかった。
「そういう……そういうお前はどうなんだ?」
「どうって?」
あたしはいきなりの質問返しに大地の意図が掴めなかった。
「お前のことが好きな男が現われたらってことだよ」
何を言っているの?この男は……
まさかそんな質問が大地から返ってくるなんて思ってもみなかった。
「あたしに?」
あたしは確認のために自らを指差して確認した。
「そうだ」
大地は真剣な表情であたしの顔を見つめていた。どうやら冗談や皮肉の類の質問ではないようだった。
「う~ん……」
あたしは眉をひそませると何と応えるべきかを考えた。
大地はどうしてそんなことを聞くのだろうか?
そもそもその男って誰のことなのよ
あたしは大地の質問の対象者が誰なのかが気になっていた。もしかしたら、彼自身のことなのかもしれない。そう考えると早々に答えを返すことができなかった。
もし対象者が大地のことであるならば、答えは……『告白を受ける』なのだが……
それ以外だった場合は彼に変な誤解を生じさせてしまうだろう。
これは本人のことなのかを確認しなければ……
「それなら……例えばだけど……直憲に告白されたらどうする?」
あたしが告白相手の対象者を確認しようとした瞬間、大地の口から意外な人物の名前を告げられた。
「直憲に?」
あたしは大地の唐突な発言に思いっ切り面食らっていた。
はっ?直憲?どういうこと?どうして、ここで直憲の名前が?
あまりのことで思考回路がショート寸前だった。
「そうだ。例えばの話だけど……」
大地は不安そうな表情を浮かべると例え話であることを強調してきた。
もしかしたら……大地は直憲から告白をされたのかもしれない
あたしは彼の反応を見ながら彼に起きたであろう事態について理解した。
このタイミングで直憲が告白してくるとは予想外だったが、何時の日にかはそんなことが起こるかもしれないと予測していたため、その対応は難しくなかった。そう……あたしの返答は既に決まっている。
「そうね……」
あたしはわざとらしく考える振りをするとすぐには答えなかった。なぜならば、大地が直憲から告白を受けたのであれば、あたしは彼の口から断って欲しかったからだ。そうすれば、あたしに対する彼の気持ちがはっきりとする。
「……わからないかな?」
あたしは惚けた表情を繕うと大地への質問の答えをはぐらかした。
もし大地が本当にあたしのことを愛していてくれるならば、きっと彼は自分自身で考えて直憲の告白を断ってくれるに違いないと信じていた。
大地が直憲の告白を断ってくれたならば、あたしは素直に彼への告白を受けることができる。
だからこそ……ここでおいそれとすぐに質問に答えるわけにはいかなかった。
「はあ?」
大地はなんとも間の抜けた表情を浮かべていた。
「だって……想像ができないんだもの。直憲があたしに告白してくるなんて……」
「そうか……」
大地は安心したような表情を浮かべると溜息を漏らした。
今度はこっちの番だからね……
「そういうあんたはどうなのよ?」
あたしは大地から質問の回答を受けていなかったため、当初の質問を繰り返した。
「せめて具体的な例を出してくれないか?」
大地は告白相手の具体的な人名について求めてきた。
「具体的な?」
「そうだ」
「そうね……」
何って答えようかな……
あたしは素直に菜緒の名前を出すべきかを悩んでいた。もし仮に大地に菜緒から告白されたことを知られれば、彼女のことを本気で好きになる可能性が高いからだ。
大地は小さくて幼げで明るい性格の子が好きなのだ。つまり……彼にとって菜緒はまさにドンピシャなタイプだった。それは彼と一緒に過ごしてきたあたしだからわかることだ。
大地のことが何でもわかるはずのあたしだが、ただ唯一あたしに対する彼の気持ちだけがわからなかった。彼は何時も肝心な所で躓いてしまう。その度に素っ気ない態度で誤魔化されてきた。そのため、彼の口から「好きだ」という言葉は未だに一度も聞いていない。
「それじゃ……学園一のアイドルの三嶋美嶺先輩からならどう?」
「美嶺先輩からっ!」
大地は思いの外、例え話に食い付いてきた。
何をそんなに喜んでいるんだか……
「あくまで仮の話だからねっ!」
あたしは慌てて過程の話であることを強調した。
「そうだな……」
大地は表情を曇らせると深く考え込んでいた。
早く「断る」って言いなさいっ!
あたしは煮え切らない態度の大地にヤキモキとさせられていた。
「どうなの?」
あたしは不安のあまりついつい大地よりも先に口を開いてしまった。
「……わからない」
「わからない?」
あたしは大地の曖昧な答えに不服そうな表情を浮かべた。
「だって、そうだろう。俺みたいな奴が学園一のアイドルから告白されるなんて想像もつかないし……」
「それもそうね。大地だし……」
あたしは大地の言葉に納得させられてしまっていた。
確かに大地の言う通り、彼が学園一のアイドルから告白されるなんて天地がひっくり返ってもありえそうになかった。本当の彼の姿を知らない限り……。
「……」×2
あたし達は重苦しい雰囲気に包まれた。お互いに何かを言いたいことがあるけど言いだせない、そんな感じだった。
「そういえば……」
「何?」
「風呂はどうすればいいんだ?」
「風呂!?」
あたしは大地の思いも寄らない発言に思わず呼吸を乱した。
そういえば……お風呂のことを考えていなかった……
あたしは今さらながらに大地に裸を見られてしまう問題に気が付いた。ちなみにトイレに行く時はスカートの丈よりも下着を下げないように強く念を押しておいた。そうすることであたしは彼に下着を見られないように注意していた。
「このまま俺が風呂に入って、この身体を洗えばいいか?」
「それは絶対に……駄目っ!!!」
あたしは大地に全力で否定した。そんなことされるぐらいなら風呂に入らない方がマシだ。
「じゃ、どうすればいい?」
「そうね……」
あたしは何か最善の方法がないかを思考した。
「いっそのこと、風呂に入らないというのはどうだ?」
「それも絶対に駄目っ!」
年頃の女の身体が『臭う』と言われるのも耐え難いものだった。ましてや、その身体はあたしのものなのだ。そんな噂を流されては堪ったものじゃなかった。
「それじゃ、どうするんだよ?」
「う~ん……」
あたしは中に視線を浮かせると部屋の中を見回した。そして、妙案を思いついた。
「それなら……こうしましょう」
「それは?」
あたしがタンスの中から水着を取り出すと大地は目を点にさせた。
「お互いに水着を身に着けてお風呂に入るの」
「お前と一緒にかっ!」
「あたしと一緒じゃ不服?」
あたしがからかうように大地を見つめると彼はトマトのように顔を真っ赤に染め上げていた。自分の顔なのでその変化は手に取るように見てわかった。
「どうかしたの?」
「べっ、別に何でもないっ!」
大地は妄想を掻き消すように両手を全力で振り回していた。
「それじゃ……大地の水着を取ってきて」
あたしは窓を開けると自分の水着を取ってくるように彼の部屋の中を指差した。
「わかった」
大地は言われるまま水着を持ってきた。
「それじゃ、目を閉じて……」
あたしは大地に目隠しをさせると瞬く間に彼から制服と下着を剥ぎ取った。
あたしって……こんな身体してたんだな……
あたしは普段はあまり見られない自分の身体に魅了されていた。
肌は色白で身体の肉つきはメリハリがあり、とても良い体型をしていた。強いて言うなれば、もう少し胸に肉があれば完璧だっただろう。
とっ……見蕩れている場合じゃなかった
あたしは当初の目的を思い出すと慌てて大地に女子用の水着を身に着けさせた。身体を洗う用の物なのでなるべく布生地は少な目の物を選んだ。
大地のはっと……
あたしは大地の服を脱ぎ捨てるとトランクスのような水着を身に着けた。
胸のところがすーっ、すーっとするのは気になったが、この身体は大地のものなので気にしないことにした。
「これで準備OKね」
「風呂の準備は?」
「あっ……」
あたしは水着を身に着けることに夢中になっていて風呂の準備をすることをすっかりと忘れていた。
あたし達は15分間の間、水着を着たまま部屋の中で過ごした。正直、とても気まずい雰囲気が醸し出されていた。
「……そろそろ良さそうね」
あたしは浴槽の中を確認すると大地を母親に見つからないように風呂場まで導いた。
「本当に一緒に入るのか?」
「しょうがないでしょ。それしか方法がないんだから……」
大地は今さらながらに怖気づいているようだった。そんな彼に構わずにあたしは風呂場の中へと入るとあたしの全身にお湯を掛けてから彼を浴槽の中へと浸からせた。
「それじゃ、まずはあたしが頭を洗うわね」
ワシャ ワシャ!ワシャ ワシャ!――――――――
「もっと丁寧に洗ってくれよな」
あたしが大地の頭を洗っていると彼は不服そうな表情でもっと丁寧に洗うように注意してきた。
「別にいいでしょ?そんなに髪なんて気を遣ってないくせに……」
あたしは文句を言う大地に構わずに髪を洗い続けた。
「はいっ、交代」
「お、おうっ」
大地は声を震わせながら浴槽の中から出てきた。
何を緊張しているの?もしかして……
あたしは大地が何かよからぬことを想像していたんじゃないかと疑いの眼差しを向けた。彼の顔はイチゴのようにとても真っ赤に染まっていた。
「顔が赤いわよ?」
「そ、そうか?」
あたしが声を掛けると大地は慌ててあたしの身体にシャワーを浴びせていた。
何を慌ててるんだか……
あたしは冷やかな目で大地の髪の洗い方を見つめていた。
「ちょっと……ちゃんと頭を湿らせてからシャンプーを付けてよ」
「熱っ!」
大地は湯船のお湯を掛けると大袈裟な声を漏らした。
「大袈裟ね。そんなに大した温度じゃないでしょ?」
「いちいち五月蝿いな……。シャンプーをつけて洗えば問題ないだろ?」
「だ・か・ら、それだと……髪が痛じゃうんだって!髪は女の命なのよっ!」
女の髪をなんだと思っているのだろうか?
あたしは無神経にあたしの髪を洗う大地に怒りを覚えた。
「……わかった、わかった。気を付ければいいんだろ?」
大地はとても不満そうな表情を浮かべていたが、素直にあたしの言うことに応じてくれた。
「これで良いか?」
「次はリンス」
あたしは大地がシャンプーを終えるとすかさずリンスを手に取って彼に手渡した。
「まだ洗うのか?」
「だ・か・ら、女の髪は……」
「わかったっ!ちゃんと洗いますっ!」
大地は本当に女心というものを理解していなかった。
「それじゃ、そろそろ……」
あたしは大地が髪を洗い終えるのを確認すると浴槽から出て彼の後ろへと座った。
「どうする気だ?」
「どうするも何も……こうするだけよ」
あたしはスポンジに石鹸を染み込ませるとあたしの背中に軽く当てた。
「ひゃっ!」
大地は何とも艶かしい声を漏らした。
なんて声を上げてるのよ……
あたしは大地の出すあたしの声を聞いてこっちまで恥ずかしくなってきた。中身は大地でも見た目はあたしの身体なのだ。
「なっ、何をっ!」
「すぐに終わるわよ」
あたしは戸惑う大地をよそにあたしの身体を洗い続けた。
「次は……」
あたしは背中とお腹周りを洗い終えると徐に胸へと手を弄らせた。
――――――――― ビクっ!
大地は胸に触れられると背中を震わせた。
「ここは……自分で洗えるからっ!」
「駄目っ!大地に触られたくないから一緒に入っているんでしょっ!」
そう本番はここからなのだ。大地にあたしの恥ずかしい部分を触られたくなかったからこそ一緒に入ることを提案したのだ。
「うっ……ううっ……」
大地は敏感な所に触れる度に変な声を上げた。その声を聞いていると不思議と興奮している自分がいた。
この気分は一体何なんだろうか……
あたしは込み上げてくる何とも言えない高揚感に戸惑っていた。
「へっ、変な声を上げないでよっ!」
「しっ、仕方がないだろっ!お前に胸や股間を触れられると変な感覚が込み上げてくるんだよっ!」
「ちょっ!あたしの口で胸とか、股間とか下品なことを言わないでよっ!汚らわしい!」
あたしはついつい強めの口調で大地に注意をしてしまっていた。
あたしだって我慢してるんだからっ、あんただって少しは我慢しなさいよっ
あたしは大地を道連れにするように睨みつけた。
「くっ……」
大地は悔しそうな表情を浮かべると奥歯を噛み締めていた。
「……はいっ!これでおしまい!」
あたしは自分の身体にお湯を掛けて石鹸を洗い流すと満面の笑みを浮かべた。何とも言えない充実感だった。
「それじゃ、今度は俺の番だな」
あたしが満足の余韻に浸っていると大地は何やら厭らしい顔を浮かべながらあたしに迫ってきた。その仕草は何とも生理的に受け付けず、そこはかとなく危機感を覚えさせた。
「いやっ、自分で洗うから……」
「だーめっ!自分で洗えないだろ?それ……」
あたしが大地の申し出を断ると彼は自らの男性シンボルを指し示した。
「うっ……」
あたしは声を詰まらせた。
確かに大地の指摘通りにあたしは自らの股間から生えているそれに触れられなかった。これでも一応はあたしも歴とした女性なのだ。恥ずかしくないわけがなかった。
「ほらっ!早く後ろを向けよ」
あたしが戸惑っていると大地は言うことを聞かせるように命令してきた。そして、自らの身体を洗い始めた。
一体何を企んでいるというの?
あたしは妙に積極的な大地の態度に言い知れぬ不安を感じていた。
――――――――――― むにゅッ!
……っ!
大地が背後から手を伸ばしてきた瞬間、何とも言えない感触が大地の背中を刺激した。それはあたしの胸の感触だった。
ちょっ……あたしの身体でなんてことをしているのよっ!
あたしは自分が大地の背中に胸を押し当てていることを想像して顔を真っ赤にさせた。
もっと離れるように注意しなきゃ……
あたしが大地に胸のことを注意しようとした瞬間、彼はワサワサと敏感になっている部分について触れてきた。脇の下や脇腹、胸の部分など、そこかしこから擽ったい感覚が込み上げてきた。
「ちょっ……やめ……て……」
大地は悶絶するあたしを見ながら意地悪そうな笑みを浮かべていた。
やばい……このままだと……
あたしはあまりの擽ったさに意識が飛びそうになっていた。
そんな最中、彼はこともあろうに敏感になっている股間について手を伸ばしてきた。
カッ!―――――――――――
あたしは最後の気力を振り絞ると大きく目を見開いた。
「いいっ、いい加減に……しろおおおおお」
あたしは力任せに風呂場の床へと大地を押し倒した。
あたしは勢いに任せてやりすぎてしまったようだった。目の前には弱々しく横たわるあたし自身の姿が見えていた。
なんて柔らかな唇だろうか……
あたしは艶やかな自らの唇を見て思わず吸い付きたい気分になってしまった。なんとも甘美な雰囲気だった。何時しかあたしは湿っぽい眼差しで見つめる大地に対して自らの顔を近づけたいという欲求に駆られていた。
ドクドクと高鳴る鼓動、込み上げる衝撃、そして、あたしから零れ落ちる汗があたしの身体の上へと流れ落ちる。そう……2人の間を隔てるものは何も存在しなかった。
このまま大地と……
あたしは徐に腕の力を抜くと静かに大地へと近づけた。
「ちょっと!どうかしたの?」
――――――――― びくッ!
あたしは母親の声で我に返った。
やっ、やばいっ!あたしは何をやっているんだっ!
あたしは慌てて大地の上から離れると急いで浴槽の中へと身を隠した。
上手く誤魔化しなさいっ!
あたしは身振り手振りで大地に誤魔化すように指示を出した。
あたしは一体何をやっているんだろう……
あたしは湯船の中に顔を付けるとブクブクと泡を噴いた。
もう少しで大地と……
あたしは先程の出来事を思い出して顔を真っ赤にさせた。
何とも熱いバスタイムだった……。
※次回は大地の視点で物語を進めます