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第4話:入れ替わり(紅葉サイド)

※今回は紅葉の視点で物語が始まります


「……?ここはどこなの?」

 あたしが目を覚ますと何故かあたしは昨日眠っていた場所とは違う所にいた。


「うっ……」

 あたしは咽あがる臭いに思わず口に手を当てた。


 あたしって……こんなに体臭きつかったっけ?

 あたしは臭いのきつくなる場所に鼻を当てると臭いを嗅いだ。


 んっ?あたしの腕ってこんなに太かったっけ?

 あたしは見覚えのない二の腕に眉をひそませた。あたしが知る限りあたしの腕はこんなにも太くはないはずだった。


 それに胸もなくなってる……

 あたしは平らになった胸に手を当てると俎板に触れるように擦った。


「まるで男の身体みたい……」

 普段見慣れている膨らみがないだけで何とも言えない違和感を覚えていた。


「んっ?これって……」

 さらにあたしが下半身の方へと視線を向けると股下の部分に見慣れない膨らみがあることに気が付いた。


 まっ……ま……さ……か……

 あたしは恐怖に似たような感覚に苛まれながら恐る恐る膨らんだ布地を捲り上げた。


「……っ!」

 あたしは込み上げてくる叫び声を必死で堪えた。あたしの股の部分には事もあろうに謎の物体がくっついていた。


 それはまるでウィンナーのような形で見るからに嫌悪感を醸し出していた。あたしの習った知識が正しければ、それはいわゆる男性シンボルのようだった。


「ちょっと待ってよ……これって一体……」

 あたしは慌てて立ち上がると全身を弄った。この身体つきには覚えがあった。それは……。


 大地の身体だっ!

 あたしは急いで洗面台まで移動すると自らの顔を確認した。


「やっぱり……」

 あたしの予感は的中していた。鏡に映し出されていたのは大地の顔だった。


 どういうこと?どういうこと?これは一体どういうことなの?

 あたしは混乱する頭を落ち着かせながら大地の部屋へと戻った。


「とにかくまずは……」

 あたしは深呼吸すると大地のスマートフォンを使ってあたしのスマートフォンの番号を鳴らした。あたしの考えが正しければ……あたしの身体の中には大地の中身が入っているはずだった。


――――――― トゥルルルッ!トゥルルルッ!

ガチャッ!

『……もしもし?』

 通話先の相手はビクビクとした感じで声を響かせてきた。その声は紛れもないあたしの声だった。


「ちょっと!これは一体どういうことなのよっ!」

 あたしは動揺するあまり相手の中身を確認する前に怒鳴り声を上げてしまっていた。


『もっ、もしかして?紅葉か?』

 やはり、あたしの身体の中に入っているのは大地のようだった。


「そうよっ!これは一体……どういうことなのよっ!」

 あたしはこのおかしな状況をやつ当たるように大地を怒鳴り散らした。


『……わからん。俺だってこの奇想天外な状況に頭が混乱している』

 大地も今の状況に困惑しているようだった。


「とにかく……まずは部屋の窓を開けて……」

 あたしは自分の目で彼のことを確認することにした。


『……わかった』

 しばらくして、あたしの部屋のカーテンが開き、中から大地が顔を覗かせた。見た目はあたし自身であったため、鏡を見ているような何とも複雑な気分だった。


「……お邪魔するわよ」

 あたしは窓を跨ぐと自分の部屋の中へと移動した。


「お前……俺の身体で女言葉を喋るなよ」

「仕方がないでしょっ!あたしだって、いきなりこんな身体になってしまって気が動転しているのよ」

 あたしは細かいことを気にする大地に苛立ちを覚えていた。今はそんな些細なことを気にしている場合ではないというのに……。


「こんな身体って……」

 大地はボソボソと小さな声で呟くと恨みがましそうな視線を向けてきた。


 ちょっと言い過ぎたかな……

 あたしは悲しそうな大地を見て少し反省した。


「そんなことよりも……」

「おいおい、俺の身体を雑に扱うなよ」

 大地はあたしが乱雑に頭を掻き毟ると文句を言ってきた。


 前言撤回っ!やっぱり、彼は言うことが細かすぎるっ!

 あたしは大地に気を遣うのを止めることにした。


「大地こそあたしの身体で変なことしてないでしょうね?」

 あたしはふと大地があたしと同じようなことをやっていないかと不安に駆られた。彼の性格からすれば間違いなく胸くらいは揉んでいそうだった。


 彼はあたふたと明らかに動揺を隠し切れずにいた。


 これはやっぱり……

「へっ、変なことって……なんだよ?」

 あろうことか大地はあたしに具体的な行為について聞き返してきた。


「それは……」

 あたしは朝の遣り取りを思い出して顔を真っ赤に染め上げた。


「ん~っ、変なことって……何なのかな?」

 大地は厭らしい笑みを浮かべると反対にあたしのことを責め立ててきた。


 そんなこと……言えるがわけないでしょっ!

 これでもあたしだって立派な乙女なのだ。

 自分の身体を使って如何わしいことをされていたなんて口が裂けても言える訳がなかった。


「べっ、別に何だっていいでしょっ!」

 あたしは大地の追及を誤魔化すように捲くし立てた。あたしが睨み付けると彼は顔を蒼白にさせて背後へと後ずさった。


「全くもうっ!」

 あたしはそんな大地の姿を見て思いっ切り鼻を鳴らした。


「それよりも……こんなことをしていても良いのか?」

 大地は急に真面目な表情を浮かべるとあたしの顔を見つめてきた。


「どういうことよ?」

 あたしは大地が指し示す方に視線を向けた。彼が指差した先には単身が7と8の間を示していた。


「……7時30分っ!」

 あたしは現在の時刻を知って思わず叫び声を上げた。


 あたし達は8時半までには校門を潜らなければ遅刻となる。そのため、最低でも家を8時までには出なければいけなかった。


 急がなきゃ……

「仕方がないわね。このことは学校が終わってから考えましょう」

 あたしは気持ちを切り替えると学校の準備を始めることにした。


「それじゃ、また後でな……」

 大地はあたしの着ていたパジャマのアンダーに手を掛けると徐に脱ごうとした。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいっ!」

 あたしは慌てて大地の動きを静止させた。


「んっ?どうかしたのか?」

 大地は全く気にしていない様子で不思議そうな表情を浮かべていた。


「どうかしたのか?……じゃないわよっ!」

 あたしは全くデリカシーのない大地に目一杯怒声を浴びせた。


「何か問題でも?」

「大ありよっ!まさかそのまま服を脱ぐ気じゃないでしょうねっ?」

 あたしは声を荒げると大地に迫った。


 繊細な乙女の身体をなんだと思っているのだろうか?

 頭の中は大地でも身体はあたしのものなのだ。


「それ以外に服を着替える方法があるのか?それともこのままの姿で学校に行けと?」

 大地は困惑した表情を浮かべるとあたしに質問を投げ掛けてきた。

 確かに彼の言うことは正しかった。けれども、あたしは大地に裸を見られることにとても抵抗を感じていた。


「そっ、そうじゃないけど……目隠しして着替えなさいっ!」

 あたしは苦し紛れにとんでもないことを提案した。


「いや、普通に無理だろ?目隠しをしたまま着替えるなんてできねえよ」

 彼の言い分は間違いなく正しかった。


「……わかったわ。少しの間、目を閉じてなさい」

 あたしは大地に目を閉じるように命令するとタンスの中から替えの下着を取り出し、部屋の壁に掛けていた制服を手にした。


「万歳して……」

 あたしは大地に手を上げさせるとパジャマの上を捲し上げてブラジャーのホックを外した。


 こんな姿……絶対に大地に見せられないっ!

 あたしがブラジャーを巻き付けようとしていると彼の瞼が微かに震えているのが見えた。


「絶対に目を開けちゃ駄目よっ!目を開けたら一生口をきいてあげないから……」

 あたしは目を開けようとしている大地を目一杯脅すとそのままの状態を持続することを強要した。


「それじゃ……少しの間、立ち上がってくれる?」

 あたしは大地を立たせると一思いに下半身のパジャマと下着を摺り下げた。


「うっ……」

 あたしが下半身を露わにさせると大地は呻き声のようなものを漏らした。


 こんなあられもない姿を大好きな彼に見えられたらと思うと……本当に死にたい気分だった。


「……終わったわよ」

 大地はパチクリと大きな眼を見開いて自らの身体を確認していた。


「これでOKか?」

「ううん。まだよ……」

 あたしは大地を化粧台の前へと移動させると今度は彼の顔に化粧を塗った。


 普段は自分で鏡を見ながらする作業だったが、今日は別の視点から化粧をしていたため、何とも不思議な気分だった。


「いい?これからは毎朝の化粧と髪の手入れはあなたがやってよね」

 あたしは大地に今の作業を自分でやるように義務付けた。


 できればあたしが自分でやりたいが、これから毎日となると流石に大変だった。なので大地にも協力してもらうことにした。


「はあ?別に化粧なんていいじゃないか。面倒臭い……」

「馬鹿っ!乙女にとって肌の手入れと髪の手入れは絶対のものなの。だから……」

 あたしは作り笑いを浮かべると大地を威圧した。


「わっ、わかった」

 大地は苦笑いを浮かべていたが、あたしの要求を素直に受け入れてくれた。


「それじゃ、そろそろ行くわ」

 あたしは自分の部屋に戻ると慌てて学校の準備を始めた。


「大地のやつ……ほとんど学校の準備をしていないじゃない」

 あたしはスカスカの学校鞄の中身を見て溜息を吐いた。


 本当に世話の焼けるやつなんだから……

 あたしはブツブツと文句を言いながら今日行われるだろう授業の教科書を詰め込んだ。


「ご飯食べている時間なんてないじゃない……もうっ!」

 あたしが全ての準備を整え終わると出発まで残り5分もなかった。


 あたしはバタバタと食卓に置かれた食パンをくわえるとそのまま玄関から外へと飛び出した。


「おほいわよ……」

 あたしが外で食パンを噛み砕いているとあたしの後から大地が外へと出てきた。

 彼は何だか呆れた表情を浮かべながらあたしのことを見つめていた。


「なにほぼっとしてるのよ。 ……いくわよ」

 あたしは大地に声を掛けると早く外に出るように急かした。


「ちゃんと味わって食えよ……」

 全くっ!誰のせいでこんな思いをしていると思っているのよっ!本当に……

 あたしは文句を言う大地に心の中で反論した。


 こうして、あたし達の長い一日が始まろうとしていた。


※次回は大地の視点から物語を始めます

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