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第3話:入れ替わり(大地サイド)

※今回は大地の視点で物語が始まります


「……?ここはどこだ?」

 俺が目を覚ますと何故か俺は昨日眠っていた場所とは違う所にいた。


 部屋の中には何ともファンシーなぬいぐるみ達が置かれ、部屋のあちらこちらに可愛らしい装飾が施されていた。こんな少女趣味の満開な部屋が俺の部屋なわけがなかった。


 う~ん……何か見覚えがあるような……

 俺は部屋の中を見回しながら眉をひそませた。


 んっ?……なんだこれ?

 俺が視線を胸の方に落とすとそこには見慣れない膨らみが2つ存在していた。


「こんなコブみたいなやつ、俺には付いていないはずだが……」

 俺は見慣れない膨らみに手を触れると軽く揉んでみた。


――― むにっ!

「……あんっ」

 俺は何とも言えない快楽が込み上げてくると思わず艶やかな声を漏らしてしまった。


「この声って……」

 俺は聞き覚えのある声に意識をハッとさせると慌てて部屋の隅に置かれている化粧台の前へと移動した。


「ま、まさか……」

 俺は息を呑み込むと恐る恐る鏡の中を覗きこんだ。


「なっ、なっ、なんじゃこりゃああああああ」

 俺は鏡の中に映り込んだ人物を見て絶叫した。


 鏡の中には事もあろうに俺が告白しようとしていたはずの紅葉の顔が映し出されていた。なんと俺は『青山紅葉あおやまもみじ』になってしまっていた。


「どっ、どっ、どういうことなんだっ!これは!!!」

 俺は鏡の中を見ながら頭を混乱させた。正直、訳がわからなかった。


 どうしてこんなことになってしまったのであろうか?

 俺が頭を悩ませているとドアをノックする音と共に紅葉の母親の声が聞こえてきた。


「ちょっと、どうしたのよ?いきなり大声なんか出して?」

 紅葉の母親は扉越しで心配そうに話し掛けてきた。


 やっ、やばい……こんな姿を見せるわけにはいかない……

 俺は咄嗟に紅葉の声色を真似ると彼女の母親に返事をした。


「なっ、なんでもないわ。ちょっと寝ぼけてゴミとGを見間違えただけ……」

 年頃の女子の部屋の中にゴミが落ちているのもなんだが、とりあえず、苦し紛れの言い訳をした。


「そうなの?まぁ、あなたが無事なら別にいいわ」

 紅葉の母親はそれ以上深く追求してこなかった。


「もうすぐ朝ご飯ができるから。学校の準備ができたらすぐに降りてきなさい」

 紅葉の母親は用件を伝えると家の1階にある食卓へと戻っていった。


「良かった……」

 俺は上手く事態を誤魔化せて胸を撫で下ろした。


――――――― ピリリリッ!ピリリリッ!

 俺が安堵したのも束の間、机の上で充電していたスマートフォンが鳴り出した。


「次から次へと……」

 俺は机の方に向かうと慌ててスマートフォンを手に取った。スマートフォンには俺の名前が表示されていた。


「まさか……」

 俺はその表示された名前を見ながら嫌な予感がしていた。


「……もしもし?」

 スマートフォンの通話機能をONにすると恐る恐る通話先の相手に話しかけた。


『ちょっと!これは一体どういうことなのよっ!』

 電話先から聞こえてきたのは男の声で女言葉を使う俺の声だった。


「もっ、もしかして?紅葉か?」

『そうよっ!これは一体……どういうことなのよっ!』

 紅葉は半狂乱になりながら同じ言葉を繰り返してきた。


「……わからん。俺だってこの奇想天外な状況に頭が混乱している」

 俺は呆然と紅葉の机を見つめながら彼女の質問に答えた。


『とにかく……まずは部屋の窓を開けて……』

 紅葉は唐突に窓を開けることを要求してきた。


「……わかった」

 俺は紅葉に命令されるまま彼女の部屋の窓の方へと移動した。


シャ ――――――

 俺がカーテンを開くとそこには半シャツの俺の姿が見えた。


「……お邪魔するわよ」

 窓の鍵を開けると紅葉は自分の部屋の中へと入ってきた。


「お前……俺の身体で女言葉を喋るなよ」

 俺は目の前の俺の体から発せられる言葉にとてつもない違和感を覚えていた。


 男が女言葉で荒々しく話しかけてくるのだから無理もないだろう。ましてや、それが自分の姿ならば、なおさらである。


「仕方がないでしょっ!あたしだって、いきなりこんな身体になってしまって気が動転しているのよっ」

「こんな身体って……」

 紅葉にこんな物扱いされて少し傷付いた。


「そんなことよりも……」

 紅葉は頭の髪の毛を掻き毟ると眉をひそませた。


「おいおい、俺の身体を雑に扱うなよ」

「大地こそあたしの身体で変なことしてないでしょうね?」

 紅葉は目を鋭くさせると俺の顔を見つめてきた。


「へっ、変なことって……なんだよ?」

「そっ、それは……」

 紅葉は言葉を詰まらせると顔を赤らめた。


「ん~っ、変なことって……何なのかな?」

 俺は紅葉をからかうように質問を繰り返した。


「べっ、別に何だっていいでしょっ!」

 紅葉は言葉を濁すと怒りの表情を浮かべた。


 うっ、意外と怖い顔だな……

 俺は自らの顔に凄まれて思わず後ろに引き下がった。まさか自分自身に睨まれる日が来ようとは思ってもみなかった。


「全くもう……」

 紅葉は溜息を漏らすと何時も通りの表情へと顔を戻した。


「それよりも……こんなことをしていても良いのか?」

「どういうことよ?」

 俺は静かに手を動かすと紅葉の部屋に掛けられている時計を指差した。


「……7時30分っ!」

 紅葉は時計を見て驚きの声を上げた。


 俺達は8時半までには校門を潜らなければ遅刻となる。そのため、最低でも家を8時までには出なければならなかった。


 ご飯を食べる時間と学校に行く準備を考えるとそろそろ行動を起こさなければ遅刻してしまうだろう。


「仕方がないわね。このことは学校が終わってから考えましょう」

 紅葉は問題を解決することを先延ばしにすると自分の部屋へと戻ろうとした。


「それじゃ、また後でな……」

 俺は徐に紅葉の着ていたパジャマのアンダーに手を掛けた。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいっ!」

 紅葉は踵を返すと慌てて俺の動きを静止させた。


「んっ?どうかしたのか?」

「どうかしたのか?……じゃないわよっ!」

「何か問題でも?」

 俺は紅葉が何を気にしているのか、よくわからなかった。


「大ありよっ!まさかそのまま服を脱ぐ気じゃないでしょうねっ?」

 紅葉は俺が服を脱いで下着を見られることを気にしていたようだった。


「それ以外に服を着替える方法があるのか?それともこのままの姿で学校に行けと?」

 俺はパジャマに触れると襟元を少しだけ引っ張った。


「そっ、そうじゃないけど……目隠しして着替えなさいっ!」

 紅葉はとんでもないことを言い出した。


「いや、普通に無理だろ?目隠しをしたまま着替えるなんてできねえよ」

 俺は真面目に紅葉の言い分に反論した。


「……わかったわ。少しの間、目を閉じてなさい」

 紅葉は俺に目を閉じるように命令してくると部屋の片隅で何やら音を立て始めた。


「万歳して……」

 俺は紅葉に言われるまま両手を挙げた。

 紅葉は俺が腕を上げた隙に上着を剥ぐと手早くブラジャーを外して新しい下着と取り替えた。


 すっ、凄く気になる……

 俺は近くで物音を立てる紅葉に気を取られながら目を開けたい衝動に駆られていた。


「絶対に目を開けちゃ駄目よっ!目を開けたら一生口をきいてあげないから……」

 紅葉は俺の気持ちを見透かすように注意を促してきた。


 紅葉には俺の心が見えるのか?

 俺は紅葉の的確な指摘に鼓動を逸らせた。


「それじゃ……少しの間、立ち上がってくれる?」

 紅葉は俺を立たせると一気に下半身のパジャマとパンツを引き吊り下ろした。


「うっ……」

 俺は下半身をいきなり外気に晒されて思わず動揺の声を漏らした。まさか他人に下半身を露出させられるとは思ってもみなかった。


 まぁ、俺の身体ではないけれど……

 気分は着せ替え人形だった。


 紅葉は動揺する俺に構わず着せ替え作業を続けた。


「……終わったわよ」

 俺が戸惑っていると紅葉は俺の身支度を整えてくれた。


「これでOKか?」

「ううん。まだよ……」

 紅葉は俺の背中を押しながら化粧台の前へと立たせると簡単に化粧を塗った。そして、ブラシで優しく髪を磨いでくれた。


「いい?これからは毎朝の化粧と髪の手入れはあなたがやってよね」

「はあ?別に化粧なんていいじゃないか。面倒臭い……」

 俺は紅葉の意見に反論した。彼女は化粧などしなくても充分に可愛いと思ったからだ。


「馬鹿っ!乙女にとって肌の手入れと髪の手入れは絶対のものなの。だから……」

 紅葉は鏡越しに俺の顔を覗き込むと威圧的な笑顔を浮かべた。その顔は笑っているようで全く笑っていないものだった。


「わっ、わかった……」

 俺は紅葉の迫力に圧されて毎朝の肌と髪の手入れを欠かさないことを約束した。


「それじゃ、そろそろ行くわ」

 紅葉は窓に足を掛けると俺の家へと戻っていった。


「やばっ!俺も急がなきゃ学校に遅刻する……」

 俺はバタバタと足音を立てると下の食卓へと向かった。そして、急いで食事を口の中へと流し込むとすぐさま自分の部屋に戻り、学校の鞄を持って自宅を飛び出した。


「おほいわよ……」

 俺が外に出ると紅葉は食パンを加えながら家の外で俺のことを待ち構えていた。


 なんという速さであろうか……というか朝ご飯が食パンって……なんたる手抜き!

 俺は紅葉の母親と自分の母親の食事の差に腹が立ってしまった。


「なにほぼっとしてるのよ。 ……いくわよ」

 紅葉はモゴモゴと口の中の食パンを噛み砕きながら呑み込むと俺に手を招いた。


「ちゃんと味わって食えよ……」

 俺は自分のだらしない姿を目の当りにして頭が痛くなってきた。


 こうして、俺達の長い一日が始まろうとしていた。


※次回は紅葉の視点から物語を始めます

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