番外編:親友の思い(直憲サイド)
※今回は番外編として親友の直憲の視点から物語を進めます
僕には大切な親友が2人いる。
それは『瀧澤大地』と『青山紅葉』だ。
彼らはお互いに好意を持っているにも関わらず、何故かお互いに一歩を踏み出せずに友人の関係を続けていた。
そんな歯痒い2人を近くで見ているのはとても面白かったが、それが何年にも及ぶと流石に不憫に思えてきた。
僕は彼らの親友として彼らの力になりたかった……。
僕は彼らに出会うまで人間関係を築くことに嫌気が差していた。
それは……完璧すぎる自分が悪いのかもしれない
幼い頃から運動神経が抜群で勉強もよくでき、そして、人の気持ちが不思議と理解ができた。そのおかげで僕の周りには何時も人が集まり、友人には何1つ不自由な思いをすることなく過ごしてきた。
だが、小学生の高学年になるとその友人関係は段々と怪しくなっていった。
それは僕のことを利用しようとする人間が山のように現われ始めたからだ。
女子は僕や僕の周りに集まるイケメン男子を狙い、その逆に男子は僕の周囲に集まる可愛い女子を狙って集まるようになった。そして、僕のことを本気で好きになった女子は周りの女子やイケメン男子から迫害を受けて傷付いて去っていった。
僕はそんな女子達を見るのが忍びなく虐めを行った女子や男子達を懲らしめようと注意したが、今度は注意された者達が別のグループの取り巻きから迫害を受けるようになった。
その姿はとても醜く、とても愚かに見えた。そして、そんな状況を引き起こした僕自身もとても汚い人間に感じていた。だから、段々と周囲の人間から距離を置くようになっていった。
そんな最中、僕は中学になって大地達と出会う。
大地達はクラスメイトの過半数が僕のことを意識する中、彼らは僕に興味も示さず、お互いのことだけを見詰め合っていた。そんな彼らの関係がとても羨ましく思えて、反対に僕が彼らのことを興味持つようになっていった。
そして、時間が経つにつれて僕は何時の間にか大地達と親友と呼べるほど近い距離まで彼らとの関係を築いていた。
そんな関係になるとクラスの女子達は紅葉のことを快く思わず、何時もの迫害が始まった。
「あんた、ちょっと生意気なのよっ」
「何するの?あたしが何をしたというの?」
「あんた自分のことを何様だと思っているの?」
「言っている意味がわからない」
紅葉はいきなりの出来事で戸惑っている様子だったが、怖がっている様子は見られなかった。
「何であんたみたいな地味子に高宮くんが独占されなきゃならないのよ」
「直憲?直憲がどうしたっていうの?」
「呼び捨てするなんて……本当にムカつく子ね。すぐにでも彼から離れなさいよっ」
普通の女子であれば、こんな状況になれば泣いてしまうのだろうが、紅葉はこれまでの女子達とは違っていた。
「あたしが誰と付き合おうとあんた達に何か関係があるというの?」
紅葉は目付きを鋭くさせると毅然とした態度で真っ向から言い返した。
「直憲が好きなら勝手に告白でもすればいいじゃないっ。あたしに言うよりも彼に言った方が遥かに早いと思うんだけど?」
紅葉はクラスメイトの女子を挑発するように冷たい笑みを浮かべた。
「きーっ、そういうあんたの態度……本当に気に入らないっ」
クラスメイトの女子は紅葉に暴力を振るおうとしたが、彼女の傍には常に大地がくっ付いていた。
彼は小学生の頃から空手を習っているだけ合って喧嘩にはとても強かった。ゆえにクラスメイトの女子達は間接的に嫌がらせを始めた。
当然、大地は鬼のように怒り狂ってクラスメイトの女子達に嫌がらせを止めるように訴えたが、彼の見えない所の嫌がらせまでは止まらなかった。
これだから人間という奴は……本当に醜い生き物だ……
僕はこれ以上、紅葉達を傷付けないように大地達から離れようと思ったが、紅葉はクラスメイトの女子の嫌がらせをものともせず、それどころか反対に彼女達に嫌がらせを仕返しした。
紅葉は本当に芯の強い女の子だった。そんな彼女のことが堪らなく愛おしく思えるようになるまでそんなに時間は掛からなかった。
だが……紅葉には大地がいる。
幼い頃から愛し合っていた彼から彼女を奪い取ることなど僕には到底できそうになかった。
僕は紅葉に幸せになってもらうために何としても彼らの仲を進展させようと山の上にある神社でお祈りをした。そして、大地にこの神社の噂話を聞かせた。
「……知っているかい?」
「何をだ?」
「何でも山の上にあるあの寂れた神社で告白をすれば、そのカップルは神様の力によって未来永劫結ばれるらしいよ」
「それは……本当の話か?」
大地は驚いた表情を浮かべると僕の話に食い付いてきた。
「ああ、本当らしい。ただし、お互いが同じ気持ちでなければ一生結ばれないらしいが……」
僕は大地の気持ちを試すためにわざと不安になるような噂話を付け足した。
「紅葉ちゃんでも誘って行ってみたらどうだい?」
「なっ、何を言い出すんだっ、いきなり……」
大地は紅葉の名前を出すと思った以上に動揺をみせた。
本当に面白い奴だな……
僕は大地のそんな姿を見るのが堪らなく好きだった。
「あれ?違ったのかい?僕はてっきり紅葉ちゃんのことを好きなんだと思っていたんだけどな……」
「ばっ、馬鹿言うなっ。紅葉とは単なる幼馴染でそんな関係じゃないっ」
「そうなのかい?」
やはり、素直になれないか……
僕は大地の反応を見て今回も彼が紅葉に告白できないのではないかと確信した。
これは紅葉ちゃんの方にも何か後押しをした方が良いかもしれないな
僕は紅葉の方にも何かアクションを起こすことを考えた。
その後、僕は紅葉の背中を後押しするために彼女へのラブレターを繼るとそれを下駄箱へと忍ばせた。
その告白は99%失敗すると思っていたが、万が一にも告白が成功した場合は大地に代わって僕が彼女のことを幸せにしようと考えていた。
……来てくれるかな?
僕は不安だったため、敢えてラブレターには自分の名前を載せなかった。もしも彼女に素性を知られた上で拒絶されたならば、立ち直れそうにもないからだ。
そんな不安を懐いている最中、彼女は僕の思惑通りにラブレターに呼び出されて屋上へとやって来てくれた。
来てくれたんだっ
僕は嬉しさのあまり顔の筋肉を緩めた。
待てっ、浮かれるんじゃないっ、これからが本番じゃないかっ
僕は本来の目的を思い出して気を引き締めた。
彼女を呼び出したのは大地に告白させるための切っ掛けを作るためであり、彼女自身の気持ちを確認するためであった。断じて僕が彼女から告白を受けるためではなかった。
「大地の奴は上手く撒けたかい?」
僕は大地の名前を出して彼女の反応を確認した。
彼女はとても驚いた表情を浮かべていた。まさか僕から告白されるなんて思ってもみなかったようだった。
「突然のことで驚かせちゃったみたいだね……。とりあえず、こっちに来てくれないかな?紅葉ちゃん」
「……わかったわ」
僕が声を掛けると紅葉は険しい表情を浮かべたまま静かに近づいてきた。
「それで……手紙の返事は考えてくれたかな?」
「えっと……その……」
紅葉は返答に困っているようで困惑した表情を浮かべていた。
やっぱり……大地のことを考えているのかな?
僕は紅葉の心中を察するように苦笑いを浮かべた。
「……やっぱり、駄目かな?」
「ごっ……」
紅葉は最初の一言だけ呟くとそのまま固まってしまった。何やら胸の奥に葛藤を抱えているようだった。
僕としてはあっさりと振られるよりは嬉しいことだが、大地への気持ちにまだ迷いがあるように見えた。
「……大丈夫かい?」
「す……少しだけ待ってもらってもいい?」
「……そうだね。ちょっといきなりすぎたかもしれないね」
僕は答えを急かすよりも彼女自身に気持ちの整理をさせた方が良いと判断した。
「それじゃ……返事を待っているから……」
「……うん」
紅葉は僕に気を遣うように笑顔を浮かべた。
なんか何時もの紅葉ちゃんとは雰囲気が違う気がするけど……まぁ、これで彼女自身にも答えが見出せるだろう
僕は彼女が幸せになることを心の底から望んでいた。
それから数日して僕は再び紅葉に呼び出された。
「待たせたかい?」
紅葉の顔は以前見た時と違って自信に満ち溢れていた。そして、僕は振られると確信した。
「いや……そんなに待ってないわ」
「良かった……」
僕は爽やかな笑顔を浮かべながら悲しい気持ちを必死で抑えていた。
これでいいんだ……これで……
僕は自分自身にそう言い聞かせていた。
「それで……答えは出たかな?」
「……ごめんなさいっ!」
やっぱりな……
僕の確信は現実のものとなった。
だが、その言葉に悲しみは湧いてこなかった。それは彼女が大地への告白を決心できたからだ。
僕は紅葉も好きだが、大地のことも好きだった。だから、そんな2人が幸せになれるならば僕にとってもそれは喜ぶべきことだった。
「色々と考えてみたんだけど……やっぱり、直憲とは付き合えないっ」
「……そっか」
僕は紅葉に振られたが、後悔はない。寧ろ、それはとても誇らしく感じていた。そして、彼女が僕に気を遣わないように精一杯の笑顔を浮かべた。
「やっぱり、駄目だったか……大地には敵わないな」
僕は紅葉の気持ちを確認するためにわざと大地の名前を口に出した。
「えっ……それって……どういう意味?」
紅葉は驚いたように声を震わせていた。
「あれ?違ってた?てっきり、紅葉ちゃんは大地のことが好きなんだと思っていたんだけど?」
僕は畳み掛けるように紅葉の心を揺らした。
「どうして?どうして、知っていたのにあたしに告白したの?」
「だって……歯痒いじゃないか。お互いに好きなのに素直になれなくて……だから、僕は君達の背中を押してやりたくなった……ただ、それだけのことさ」
そう僕は紅葉達の力になりたかったのだ。2人がお互いに一歩を踏み出せるように……。
「まぁ、俺はそんな紅葉ちゃんの態度に惹かれて好きになったわけなんだけど……」
最後に自らの本心を打ち明けた。
「教えてくれて……ありがとう……」
紅葉は明るく微笑むと嬉しそうにはにかんでいた。
「それじゃ……僕もそろそろ部活に行くとするよ」
頑張って……紅葉ちゃんっ!
僕は紅葉の告白が上手くいくことを願いながらその場を立ち去っていった。
その後、2人は見事に告白が上手くいったように付き合うようになった。
その姿はとても眩しく、とても熱かった。
僕にも良い相手が見つかれば良いけどな……
僕はそんな熱々な2人の関係を見ながら何時の日か自分も誰かに恋ができるように再び深い人間関係を築くことを夢見ていた。
※これにてこの物語は終了となります
最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました




