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最終話:ラスト・チェンジ

※今回は第三者の視点で物語が始まります


 山の上に人知れず佇む神社……

 昔は多くの参拝客が集まり、数多の願いが掲げられていたが、街の開発と共に新しい場所に社が建てられると皆そちらの方へと流れていってしまった。


 参拝者が集まらなくなると神社の関係者達は挙って別の神社へと散らばっていった。そして、この神社は誰からも見向きもされなくなり、すっかりと寂れていってしまった。


 神社に祭られていた神はひっそりと1人で事の顛末を見届けていた。


『ああ……なんと寂しいことか……』

 我は山の上から麓に住んでいる人間を見つめながら悲しげな哀愁を漂わせていた。


『何か面白いことはなかろうか?』

 我は退屈しのぎにちらりと下界を見回した。


『……ほう?これは?』

 我は隣同士に住んでいる2人の男女について興味を持った。


 その人間達はお互いに好意を持っているにもかかわらず、何故か自分達の気持ちをお互いに知らないでいた。


 我はその馴れ初めを見ながら、いまいち踏み出せない彼らのことを不憫に感じていた。


 そんな最中、我の下に1人の男が現われた。


 その男は「進展しない2人の関係が上手く取り持たれるように」と真剣に願いを込めていた。

 その男は女のことを本気で惚れていたにも関わらず、何故か他の男との仲が上手くいくことを望んでいた。


 そんな切実な思いを受けて我はその不憫な男女の関係を取り持ってやろうと決心した。そして、その男女は運命に導かれる如く我の住まう社へとやって来た。


『実に面白い……』

 我は彼らの願いを聞き入れるとお互いの肉体と精神を入れ換えた。そうすることでお互いの気持ちに気が付くのかを試していた。そして、その企みは見事に成功した。


『きたか……』

 彼らは数々の試練を乗り越えて再び我の下へと集ったのである。


 どうか紅葉との告白が上手くいきますように……

 我の前へと先に現われたのは大地の方だった。


 大地は紅葉に告白するための恋愛の成就を祈っていた。


「……これでよし」

 大地は目を開くと膨らみのある胸に自らの手を置いて心を落ち着けた。


「大地っ!」

 紅葉は長い階段を駆け上ると肩で息を切らせながら彼の名前を呼んだ。


「どっ、どうしたんだ、紅葉?そんなに慌てて?」

 大地は突然現れた紅葉に驚きの表情を浮かべた。


「べっ、別に……」

 紅葉は頬を仄かに上気させると大地から視線を逸らした。


 彼女は大地に一刻でも早く会いたくて駆け出してきたわけだが……むろん彼にそのことを告げることはなかった。


「それよりも……大地こそ賽銭箱の前で何をお願いしていたの?」

「ちょっとな……」

 大地は苦笑いを浮かべると今度は大地の方が紅葉から視線を逸らした。


「……」×2

 お互いに言いたいことはあるが、なかなか言い出せない雰囲気だった。


 もう何度目だろうか……

 大地はぼんやりとこんな遣り取りを紅葉と何度も繰り返してきたことを思い出していた。


 これじゃ、駄目なんだ。俺は直憲を振ったんだからっ!

 大地は大きく息を吸い込むと気合を込めた。


「あのさっ!」

「ごめんなさいっ!」

「え……」

 大地は自分の思いを伝えようとしていたが、不意打ちで紅葉に頭を下げられてしまい言葉を失った。彼の気合は見事に宙へと舞ってしまっていた。


「先にあたしに話をさせて……」

 紅葉は真剣な表情を浮かべると大地の目をしっかりと見据えた。


「……わかった」

 大地は彼女の真剣な眼差しに圧されて自分の告白を後回しにしたようであった。


「少し前のことなんだけど……白羽菜緒から告白されたの」

「はっ?」

 大地は突然の告白に目を点にさせた。


「そして……ついさっき告白を断ってきた」

「えっ……ええええ!」

 大地は驚きのあまり口を大きく開いていた。


「なっ、なんで……そんなことを?」

 大地は声を震わせながら紅葉に菜緒を振った理由について訊ねた。


「だって……あたしは大地のことが好きだからっ!」

 紅葉はずっと胸の内側に秘めていた気持ちを曝け出した。


「誰にも渡したくなかったっ!例え、それが大地のまじタイプの子であってもっ!それで大地に恨まれたとしてもっ!あんたには……あたしのことだけを見つめ続けて欲しいからっ」

 紅葉は箍がはずれたように言えなかった気持ちを全て吐き出した。


「そんなに俺のことを……」

 大地は紅葉の素直な気持ちを聞いて感動で心を震わせていた。


 彼は彼女が自分のことを好きなことはこれまでの経緯で何となく理解していたようだが……。

 まさか彼女がこれほどまで強い気持ちを懐いてくれていたなんて思ってもみなかったようであった。


「そうよっ!あたしは大地のことが……大好きなのよっ」

 紅葉は顔を真っ赤にさせながら全身全霊で告白した。


「すまない……」

 大地はそんな紅葉に対して頭を深く下げた。


「どうして?どうして、頭を下げるの?」

 紅葉は志雄らしい大地の姿を見て不安そうな表情を浮かべた。


「お前のそんな気持ちにずっと気付けなかった……」

「仕方がないよ……だって……大地だもん……」

「大地だもんって……」

「鈍感で、猪突猛進で、そのくせ肝心な時はどうしようもなくヘタレで……そんな阿保だから……」

「……お前……本当に俺のことが好きなんだよな?」

「そうよっ、大好きに決まっているじゃないっ」

 紅葉は全力で大地に飛び付いた。


「……俺もだっ。俺も紅葉のことが……大好きだあああああ」

 大地は紅葉の思いを受けて全力で告白し返した。しばらくの間、2人は抱き合ったままお互いの鼓動を聞きあっていた。


 大地は紅葉のことを考えながら……


 紅葉は大地のことを考えながら……


 その場には彼ら2人しか存在していなかった。


『神』という目に見えない特殊な我の存在を除けば……


「なぁ、紅葉……」

「何?大地……」

 紅葉は今までにない色っぽい声を出すと大地に甘えるように肩を寄せた。


「俺達って……このまま元に戻れないかもしれない」

「そうかもね……」

 紅葉は大地に同調するように耳を傾けていた。


「だけど……別にこのままの姿だったとしても……構わないよな?」

「そうね……」

「例え、心と身体が違っていたとしても……俺達はずっと一緒だ……」

 大地はゆっくりと紅葉に顔を近づけると唇を軽く開いた。


「もちろんよ……」

 紅葉は彼の唇に惹かれるように自らの唇を近づけた。


――――――――――――――― くちゅっ!

 大地と紅葉はお互い唇を重ねると力強く吸い付いた。


 大地は紅葉の息を、紅葉は大地の息を吸い込むようにお互いの舌を絡めあった。そんな熱々な彼らの姿を見ていた我は彼らに最後の祝福を与えた。


『2人の結びに永遠の幸あれ……』

 我は彼らの身体を再び入れ換えた。



(その後の2人……)


「どう?おかしくないかしら?」

 紅葉は大地の前で一回転すると紅葉の刺繍された青紫色の浴衣姿を見せた。


「別におかしくはない。よく似合っているぞ」

 大地は可愛らしい紅葉の姿を見つめながら優しく微笑んだ。


「そう?」

 紅葉は嬉しそうに大地の逞しい左腕に飛び付くと自らの腕を絡めた。


「そんなにくっつくなよ。歩きづらいだろ?」

「いやっ、大地とは絶対に離れたくないんだもん」

 紅葉は甘えた声を出すと嫌がる大地に必死でしがみ付いていた。


「仕方がないな……」

 大地は紅葉を撥ね退けることを諦めると彼女を傍らに置いたまま屋台で賑わう神社へと向かった。

 あの寂れた神社のできごと以来、彼らはすっかりとラブラブな感じになっていた。


 良い香りだな……

 大地は脇から匂ってくる仄かなシャンプーの甘い香りに気分を高揚させていた。お互いの身体を洗いあったあの出来事が脳裏を過ぎる。


「どうかしたの?」

「別に……なんでもない」

 大地は不敵な笑みを浮かべると紅葉の腰に回した手の力を強めた。彼は傍にある今の幸せを全力で噛み締めていた。


「何か欲しい物はあるか?」

 大地は神社に着くと紅葉に欲しい物を訊ねた。


「大地が買ってくれる物なら何でもいいわ」

 紅葉は嬉しそうに頬を緩めると無邪気に微笑んだ。


「そうだな……あれなんかどうだ?」

 大地は真っ赤なルビーのように光り輝く林檎飴を指差した。


「それでいい」

 紅葉はコクリっと可愛く頷いた。


「ほらよ!」

 大地は屋台の親父から林檎飴を受け取ると紅葉に手渡した。


「ありがと……」

 紅葉は林檎飴と同じように頬を赤らめた。


「とっても甘い……」

 紅葉は艶っぽい声を出しながら大地の耳元で囁いた。


「そんなにか?」

「大地も舐めてみて」

 紅葉は自分の舐めていた部分を大地の方に向けると林檎飴を彼の唇へと近づけた。


「……本当に甘いな」

「でしょ?」

「でも、これって間接キスなんじゃ……」

「馬鹿っ!」

 紅葉は頬を膨らませるとそっぽを向いた。


 照れる姿も可愛いな……

 大地は紅葉の後ろ姿を見つめながら頬の筋肉を緩めていた。


 あの出来事以来、彼は何となく紅葉の気持ちがわかるようになっていた。


「……そろそろ向かうか?」

 大地は紅葉から貰った林檎飴を食べ終えると山の上の方を指差した。


「そうね……」

 紅葉は静かに頷くと恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 大地達は人混みを抜け出すと静まり返った山の上の神社に向かって足音を忍ばせた。


 チリチリチリチリ……


 スィーチョ……スィーチョ……


 リリリリ……


 森の茂みから聞こえてくる虫のオーケストラたちがなんとも心地よい演奏を奏でていた。


 この辺りにはまるで人の気配を感じさせなかった。


「この辺でいいかな?」

 大地は紅葉に告白した神社の階段に腰を掛けると隣に彼女を座らせた。


「もうすぐ夏も終わりだな……」

「……そうだね」

 紅葉は山の上から見える祭りの明かりを眺めながら涙で瞳を湿らせていた。彼女の放つ妖艶な雰囲気が大地を包み込んでいく。


 大地は紅葉と2人で過ごした夏休みの出来事を思い出しながら星が輝く夜空を眺めていた。


「ねぇ、大地……」

「なんだ、紅葉?」

「もう一度……もう一度だけキスをお願いしてもいいかな?」

「馬鹿だな……何度だって構わねえよ」

 大地は紅葉の方に顔を向けるとゆっくりと顔を近づけた。


 紅葉の唇は林檎飴をコーテイングした飴を帯びてテカテカとルビーのような深紅色に輝いていた。


「ありがとう……」

 紅葉はお礼を言うと大地の唇に自らの唇を押し付けた。彼女の唇には林檎飴の甘味が残されており、なんとも甘美な味が彼の口の中へと広がった。


 知恵の実を食べたアダムとイブもこんな気持ちだったのかもしれない。


「紅葉……愛してるぜ」

「あたしもよ、大地……愛してる……」

 大地は紅葉の身体を強く抱き締めると今度はディープなキスを交わした……。


 人気のない神社の祭壇で繰り広げられる男女の恋模様は


 夏の花火よりも美しく……


 星の光よりも眩く……


 月の光よりも優しく……


 光り輝いていた。


※次回は親友の直憲の視点から物語が進みます

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