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第11話:譲れない気持ち

※今回は大地の視点で物語が始まりますが、途中で紅葉の視点に切り替わります


 明日はいよいよ紅葉の誕生日だ。


 俺は彼女の誕生日を向かえる前に何としても彼女に告白をしたかった。

 俺と彼女が同い年でいられる間に……。


 俺は決意を固めると直憲を屋上へと呼び出した。紅葉への告白を断るためだった。


 俺は紅葉のことを誰よりも愛している……

 そして、紅葉も俺のことを誰よりも愛してくれている……

 そう自分自身に言い聞かせながら直憲の到着を待っていた。


「待たせたかい?」

「いや……そんなに待ってないわ」

 俺は直憲の方に振り返ると愛想笑いを浮かべた。


「良かった……」

 直憲は爽やかな笑顔を返してくると俺の方へと近づいてきた。何とも眩しい笑顔だった。その眩しい笑顔で一体何人の女子達が魅了されたことか。


 絶対に負けるもんかっ!

 俺は穏やかな表情を浮かべながら決意の闘志を漲らせた。


「それで……答えは出たかな?」

 直憲は俺の横に立つと静かに告白の返答を求めてきた。


「……ごめんなさいっ!」

 俺は心を落ち着けると大きく頭を下げた。


「色々と考えてみたんだけど……やっぱり、直憲とは付き合えないっ」

 俺は頭を下げたまま言葉を続けた。正直、直憲の顔が怖くて見られなかった。女に振られた直後の男の顔ほどみっともないものはない。


「……そっか」

 直憲は俺の思いに反して明るい声で返事してきた。


 俺は驚いて顔を上げた。多分、俺だったならば、こんなに明るい声は出せていないだろう。

 声を震わせるか、最悪の場合は怒鳴っていたかもしれない。それなのに直憲は全く気にしない様子で明るく振る舞っていた。本当にこいつは良い奴だった。


 すまんっ、直憲っ!

 俺は直憲のことがいた堪れなくなって思わず心の中で謝った。


「やっぱり、駄目だったか……大地には敵わないな」

「えっ……」

 俺は直憲の口から俺の名前が飛び出してびっくりした。


「それって……どういう意味?」

 俺は声を震わせながら直憲に確認した。


「あれ?違ってた?てっきり、紅葉ちゃんは大地のことが好きなんだと思っていたんだけど?」

 直憲は俺達の気持ちを知っていたのか?

 俺は一気に体温を上昇させた。


「どうして?どうして、知っていたのにあたしに告白したの?」

 俺は紅葉の振りをしたまま直憲にその理由を確認した。


「だって……歯痒いじゃないか。お互いに好きなのに素直になれなくて……だから、僕は君達の背中を押してやりたくなった……ただ、それだけのことさ」

 そうだったのか……

 俺は直憲の優しい気持ちを知って身体を震わせた。


 直憲は焦れたい俺達の背中を押すために敢えて噛ませ犬を演じてくれていたのであった。本当に良い奴である。


「まぁ、俺はそんな紅葉ちゃんの態度に惹かれて好きになったわけなんだけど……」

 直憲は恥ずかしそうに頬を赤色に染めると苦笑いを浮かべた。


「教えてくれて……ありがとう……」

 俺は直憲に優しく微笑むと心の底から感謝した。


「それじゃ……僕もそろそろ部活に行くとするよ」

 直憲は明るく手を振るとその場を立ち去っていった。


 ありがとなっ、直憲……お前の分まで必ず幸せになるから

 俺は遠ざかっていく親友の後ろ姿を見つめながら紅葉と幸せになることを胸に誓った。


「さてと……行くか……」

 俺は紅葉との約束を果たすために山の上にある神社を目指した。



(紅葉視点)

 あたしは菜緒に告白の返事するために彼女を校舎裏へと呼び出していた。あたしが着いた時にはまだ彼女の姿は見えなかった。

 彼女は部活があったため、すぐには来られないようだった。


 はぁ……緊張するな……

 あたしは菜緒が来るまでの間、何度も深呼吸を繰り返した。あたしの心の中は不安で一杯だった。それは当然なことだろう。


 あたしはこれからやって来る相手を振らなければならないのだ。だけど、大地の気持ちを知ったからには何としてもあたしの気持ちを彼女に伝えなければならなかった。


 何と言えば納得してくれるかな……

 あたしは頭の中で菜緒を振るためのシチュエーションを何度も繰り返していたが、どのパターンでも彼女を泣かせてしまう状況しか思い浮かばなかった。


「何をやってるんだろうな……あたし」

 あたしは知らず知らずの内に心の声を漏らしていた。


「どうしたんですか、 瀧澤先輩?」

「……えっ」

 あたしは何時の間にやらあたしの後ろに立っていた菜緒に度肝を抜かされた。


「きっ、来てたんだ……」

 あたしは慌てて振り返ると菜緒に苦笑いを浮かべた。


 彼女はなんとも可愛らしいチアリーディングの衣装を身に纏っていた。多分、練習を切り上げて慌ててやって来たのだろう。

 そのことを物語るように菜緒の顔は仄かに赤く染まっていた。


 一体何時からいたんだろうか?

 あたしは独り言を彼女に聞かれていないか、心臓の鼓動を高鳴らせていた。


「い、何時から?」

 あたしは不安のあまり声を震わせていた。


「今さっきですよっ」

 菜緒は顔の筋肉を緩めると頬を上気させながら満面の笑みを浮かべた。その笑顔はとても可愛らしかった。

 女のあたしですら可愛さのあまりに抱き締めてしまいたくなるほどだった。


「何か聞こえたかな?」

 あたしは気を取り直すとあたしの独り言について質問した。


「何をですか?別に何も聞いていませんよ?」

 菜緒は目を丸くさせると不思議そうに首を傾げた。


 もうっ!本当に仕草が可愛いな……

 彼女を見ているとまるで小動物を愛でている気分になってしまっていた。


「そう?」

 あたしは小さく咳払いをすると本題を切り出すことにした。


「それで……告白のことなんだけど……」

 あたしが告白の話を始めると菜緒は円らな瞳をより一層眩しく輝かせていた。


 うっ……断りづらいな

 あたしはとても期待している様子を見せる菜緒に戸惑いを感じていた。


「どうかしたんですか?」

「べっ、別に……」

 負けるなっ!あたしっ!

 自分自身を鼓舞するとあたしは覚悟を決めた。


「君の思いには応えられない……」

 あたしは胸に痞えた思いを静かに吐き出した。


「えっ……」

 菜緒は驚いたように目を丸くさせると呆然とあたしのことを見つめていた。どうやら、断られるなんて微塵も考えていなかったようだった。


「本当にすまないっ!」

 あたしは戸惑う菜緒をよそに全力で頭を下げた。あたしには謝ることしかできなかった。


「どうして……どうしてですか?」

 菜緒の声はとても震えていた。余程、あたしの返答が信じられないようだった。


「俺には……俺には他に好きな奴がいるんだっ」

 あたしは意を決すると顔を上げた。


 菜緒の顔は先程とは一転して涙でぐしょぐしょに濡れていた。そして、とても悲しそうな顔をしていた。正直、見るに忍びなかった。


 だが……あたしは彼女から目を逸らすわけにはいかなかった。なぜならば、彼女にそんな顔をさせたのはあたしなのだから……これはあたしへの贖罪なのだ。


「私じゃ……駄目ですか?」

 菜緒は目尻に大粒の涙を溜めて上目使いに見つめてきた。その愛くるしい様子にあたしは思わず彼女の身体を抱き寄せてしまっていた。


 悲しみ……同情……後悔……苦悩……決意……。

 様々な感情があたしの胸の中を駆け巡っていた。だが、あたしはどんな感情に苛まれたとしても大地への思いを譲ることができなかった。


 だから……

「ごめん……本当に……ごめん……」

 あたしは菜緒の耳元で静かに囁いた。あたしには彼女の思いを受け止めながら謝ることしかできなかった。そして、菜緒が落ち着くとゆっくりと彼女を身体から引き離した。


「もう……大丈夫かな?」

 あたしは真っ赤に目を腫らしている菜緒の頭を優しく撫でると明るく微笑んだ。


「……」

 菜緒は無言のまま俯くとコクリと一度だけ頷いた。


「……私……行きますね」

 菜緒は視線を地面に向けたままあたしの傍を離れると校舎の角まで走っていった。


「頑張ってくださいっ!わたしっ!応援していますからっ!」

 菜緒は校舎の角で踵を返すと無理やり作り笑いを浮かべてあたしにエールを送ってくれた。正確に言うと大地になのだが……。


「絶対に幸せになるから……」

 あたしは拳を握り締めると菜緒の気持ちに応えるべく大地の告白を受けることを決意した。


「そういえば……大地とあの神社で会う約束をしていたんだっけ?」

 あたしは菜緒とのことが頭の中一杯で大地と約束したことをすっかりと忘れてしまっていた。


「……行かなきゃっ!」

 あたしは足に力を込めると全力でその場所に向かって駆け出した。


 あたしは一刻でも早く大地に会いたくて仕方がなかった。


※次回は第三者の視点から物語が進みます

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