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第1話:変わらぬ関係

※初回は主人公の大地の視点で物語が始まります


 俺には大好きな幼馴染がいる。

 その娘の名前は……『青山紅葉あおやまもみじ


 紅葉とは家が隣通しで生まれた時からずっと俺の傍にいる。

 俺にとっては姉みたいな存在だった。そんな彼女のことを何時の日からか異性として意識するようになっていた。


 こんなはずじゃなかったのにな……

 俺は紅葉に格好良いところを見せようと小さい頃から習っていた空手の試合に彼女を呼んだのだが、結果は散々なものとなってしまった。


「どんまい……」

 紅葉は何時もと同じような顔でそっと俺の背中を叩いた。


「すまねぇ……本当はもっと格好良いところを見せてやるつもりだったんだが……」

「馬鹿ね。あんたが頑張ってきたことは誰よりもあたしが知っているから。だから……そんな背伸びなんかしなくても大丈夫だよ」

 紅葉は口許を緩めると優しく微笑んだ。


「紅葉……」

 紅葉の発する言葉は何時も俺に元気を与えてくれていた。そんな彼女のことを異性として好きになるのにそんなに時間は掛からなかった。


 一体どうすれば紅葉にこの思いを伝えられるのだろうか……

 俺は紅葉に告白をしようと張り切っていたが、何時までもその一歩を踏み出せずに中学卒業を向え、更には高校生になって一年が過ぎていた。


 今日も駄目だったな……

 俺は肩を落としながら意気地のない自分自身を責めていた。


「きゃあああ」

 俺が考え事をしながら歩いていると何所からともなく絹を裂くような叫び声が聞こえてきた。


 ん?なんだ?事件か……

 俺は声が聞こえた方に足を向けた。


「止めてください」

「良いじゃねえか、ちょっと俺らに付き合えよ」

 悲鳴がした現場に辿り着くとそこには見るからに悪そうな男子生徒達が女子生徒に迫っていた。


 あれは……うちの生徒の白羽じゃないか?

白羽菜緒しらはねなお』はうちの学校ではかなり人気の高い女子生徒で学園一のアイドルである『三嶋美嶺みしまみれい』に継ぐ女性として注目を浴びていた。


 そんな学園のアイドルが他校の生徒から目を付けられても不思議ではなかったが、こんな場面に出くわすとは思いも寄らなかった。


 さて、どうするべきか……

 当然、男であればこの場は助けに入るべきなのだが、相手は3人いた。正直、空手で鍛えた身体ではあるが、実戦には余り慣れていなかった。それに紅葉の前で大恥を掻いて以来、俺は空手から離れていたため、身体もかなり鈍っていた。


「いいじゃねか、ちょっと遊びに行くだけだって……」

「もう止めてください……」

 菜緒は今にも泣き出しそうな顔で不良達に懇願していた。


 ……そうだっ。あの子を紅葉だと思えばいいんだ。

 俺は泣きそうな菜緒を見捨てることができずに彼女を紅葉だと思って勇気を奮い立たせた。


「おいっ!お前ら……その子から離れろっ」

「なんだっ、お前はっ」

 不良達は一斉に俺の方へと振り返ってきた。


「うおおおおっ」

 俺は不良達が戸惑っている内に不意打ちで不良の1人に拳をお見舞いした。


「何しやがるっ、この野郎っ」

 残りの2人は目の色を変えると俺の方へと向かってきた。


「はあああ」

 俺は迫りくる2人の首根っこを抑えると不良達をグルグルとその場で振り回した。


「今の内に逃げろっ」

 俺は呆然としている菜緒に逃げるように叫び声を浴びせた。

 正直、何時までこの2人を抑えられるかは不明であった。残りの倒れている1人が立ち上がる前に彼女を逃がす必要があった。


「ぐずぐずするなっ」

「は……はいっ」

 菜緒は我に返るとそのまま人通りの多い道へと逃げていった。


 これでよし……しかし、あの子が本当に紅葉だったならばな……

 俺は遠ざかる菜緒の後ろ姿を見つめながら紅葉のことを思い浮かべていた。


「おいっ!何時までも調子に乗ってんじゃねえぞっ」

 不良達はお目当ての女子生徒に逃げられて大変お怒りのようであった。


「うおおおお……」

 俺は無我夢中で不良達と戦った。


「痛ててて……しこたま殴られたが……何とかなるもんだな……」

 俺は不良達にボコボコにされたが、何とか喧嘩には勝つことができた。いくら鈍っていても身体に染み付いた空手の技までは失われることはなかった。そのおかげで何とか不良達を制することに成功した。


「どうしたの?その傷は?」

 俺が自宅の近くまで帰ってくると私服を着た紅葉が驚いた表情を浮かべながら話し掛けてきた。


「別に……何でもねえよ。ちょっと坂道で転んだだけだ……」

 俺は紅葉に余計な心配を掛けまいと思わず嘘を吐いてしまった。それに他の女子を助けるために不良と喧嘩をしたと知れば彼女に無用な誤解を与えるかもしれなかった。


「本当に?」

 紅葉は怪訝そうな表情を見ながら俺の顔を見つめていた。


「ああ、本当だ……」

 俺は紅葉から目を逸らしながら首を縦に振った。


「そう……あんまり阿保なことばかりしていると本当に頭の中まで阿保になるかもしれないからほどほどにね……」

 紅葉は呆れた表情を浮かべると首を小さく横に振った。


「なんだ?俺のことを心配してくれているのか?」

「そんなんじゃないわよっ」

 紅葉は急に怒り出すと俺の身体をバンバンと力一杯叩いてきた。


「痛ててて……今は洒落にならないから止めてくれ……」

「ごめん……」

 紅葉は叩く手を止めると申し訳なさそうに下を向いた。


「まぁ、俺のことは気にするな。明日には元気になっているから……」

 俺は落ち込む紅葉を励ますと家の中へと入っていた。


 本当にあの子が紅葉だったならば告白もできたんだろうけどな……

 俺は苦笑いを浮かべながら薬箱を探し出して怪我の手当てをした。


 そんな悶々とした日々を過ごしているとある日、大の親友である『高宮直憲たかみやなおのり』から思いも寄らぬ情報を聞く。


「……知っているかい?」

「何をだ?」

「何でも山の上にあるあの寂れた神社で告白をすれば、そのカップルは神様の力によって未来永劫結ばれるらしいよ」

「それは……本当の話か?」

「ああ、本当らしい。ただし、お互いが同じ気持ちでなければ一生結ばれないらしいけど……」


 同じ気持ちか……

 俺は一抹の不安を感じながらもこの絶好のチャンスを利用することを考えた。


「紅葉ちゃんでも誘って行ってみたらどうだい?」

「なっ、何を言い出すんだっ、いきなり……」

俺は直憲に図星を突かれて驚きの表情を浮かべた。


「あれ?違ったのかい?僕はてっきり紅葉ちゃんのことを好きなんだと思っていたんだけどな……」

「ばっ、馬鹿言うなっ。紅葉とは単なる幼馴染でそんな関係じゃないっ」

 俺は咄嗟のことでつい口から出任せを言ってしまった。

 本当は直憲の言う通りなのだが、恥ずかしくて本心を言うことができなかった。そう俺はこういう場面で自分の気持ちに素直になれない性格だった。


「そうなのかい?」

 直憲は神妙な面持ちで首を傾げていた。


 すまねえな、直憲。紅葉にきちんと告白できたら、その時はちゃんと謝るから……

 俺は心の中で直憲にお詫びを述べた。まさか、この嘘が後に自分の首を絞めることになろうとはこの時には思いも寄らなかった。


「……紅葉、ちょっと良いか?」

 俺は放課後になるとさっそく直憲から教えてもらった神社に紅葉を誘うために声を掛けた。


「何?何か用?」

 紅葉は振り返ると俺の方へと近づいてきた。


「暇ならばちょっと付き合ってほしい所があるんだけど……」

「今から?ん~別にいいけど……一体何所に連れて行くつもり?」

「それは……着いてからのお楽しみっていうことで……」

 俺は何となく目的地をはぐらかした。もしも紅葉があの神社の噂を知っていれば断られる可能性があるかもしれないと思ったからだ。


「……まぁ、良いわ。大地のことを信じて付き合ってあげる」

 紅葉は肩の力を抜くと俺の提案を受け入れてくれた。


「それじゃ、行こう……」

 俺は紅葉の前を歩くと彼女を連れて山の上にある神社を目指して歩き始めた。


「随分と人気のない所に連れて行くのね」

「ちょっとこの神社に用があってさ……」

 俺は石段を登りながら神社の方を指出した。


「はぁ……面倒臭いわね」

 紅葉は渋い顔を浮かべていたが、それでも俺の後に付いて来てくれた。


「それで……こんな所にあたしを連れて来て一体何の用?」

 紅葉は俺の顔をジッと見つめると自らの顔を近づけてきた。


「えっと……その……あれだっ」

 俺は紅葉の顔をまともに見ることができなかった。彼女の顔を見ていると胸が苦しくて上手く言葉が口から出せない。


「あれって何よ?あたしはエスパーか何かなの?言いたいことがあるなら何時もみたいにはっきりと言いなさいよ」

 紅葉はじれったい俺に対して怒りを募らせていた。


「それはだな……えっと……」

 俺は紅葉の前に立つとどうしても緊張してしまい、言いたいことを言うことができなかった。


「お前って……最近、俺ん家に来てないじゃん?」

「はあ?」

 紅葉は眉間にしわを寄せると呆れた表情を浮かべた。


「だから……うちの母ちゃんが寂しがっててさ……」

 だあああ、違うっ!違うっ!そうじゃないだろっ!

 俺が彼女に伝えたいのはそんなどうでもいいことではなかった。


「ふ~ん……わざわざ、そんなくだらないことを伝えたくてこんな面倒臭い場所まで呼び出したわけ?」

 紅葉は怪訝そうな表情を浮かべると俺の顔を見つめてきた。


「ああ……」

 俺は紅葉の視線が熱すぎて思わず顔を叛けた。


「そっか……それだけなんだね……」

 紅葉は暗い表情を浮かべると神社の賽銭箱の方に顔を向けた。


「そっ、そうだっ。折角、神社まで来たんだし、神様に何か願い事でもしないか?」

 俺は気まずい雰囲気を打破するため、紅葉に参拝することを提案してみた。


「願い事?」

「ああ、ここは神社なんだしさ」

「……それもそうね。折角だし……」

 紅葉は財布から100円玉を取り出すと賽銭箱の中へと放り投げた。


「それじゃ、俺も……」

 俺は紅葉の横に並んで立つと同じように100円玉を取り出して賽銭箱の中へと放り投げた。


 どうか……神様……彼女に俺の気持ちが理解できますように……

 俺は紅葉との仲を取り持ってもらえるように無我夢中で神様に懇願した。


「……それじゃ、行きましょうか?」

 紅葉は顔を上げると俺の方に視線を向けてきた。


「……そうだな。神様に願い事もしたし、そろそろ家に帰るか?」

 俺は後ろ髪を引かれつつも踵を返すと家へと向った。


「そういえば……大地は神様に一体何をお願いしたの?」

 帰り道、紅葉は興味津々な様子で俺の願い事について訊ねてきた。


「別に……なんだっていいだろ?そういうお前の方こそ何をお願いしたんだ?」

 俺は自分の本心を隠したくて反対に紅葉の願い事について聞き返した。


「あたし?」

 紅葉は鳩のように目を丸くさせると首を傾げた。


「そうだよ。お前の願い事って何なんだ?」

「それは……秘密よっ」

 紅葉は口許を緩めると小悪魔のような意地悪な笑みを浮かべた。


 うっ……可愛い……

 俺はそんな紅葉の笑顔を見て不覚にも心を奪われてしまった。彼女のこういう何気ない仕草に俺は惚れていた。


「それに……乙女の秘密を暴こうなんて無粋もいいところよ」

 紅葉は肩まで伸びた髪に手を掛けると軽く靡かせた。彼女の髪から放たれたシャンプーの甘美な香りが俺の鼻を刺激した。何とも嗅ぐわしい香りだった。


 次こそは……絶対にっ、告白してやるっ!

 俺は紅葉の放つ残り香を吸い込みながら今度こそは彼女に告白することを密かに決意した。


「そうだった……」

 紅葉は急に足を止めると俺の方に顔を向けてきた。


「なっ、なんだよ?」

 俺は紅葉の突然の行動に思わず心臓の鼓動を高鳴らせた。


「お母さんによろしくね。その内また遊びにいくと思うから……」

 紅葉は無邪気な笑顔を浮かべながら手を振った。そして、自分の家の中へと入っていった。


「本当に……俺の気持ちを持て弄ぶ女だぜ……」

 俺は張り裂けそうな心臓を落ち着かせながら静かに家の扉を開いた。


 紅葉の誕生日まであと一週間か……

 それまでには何とかしなければ……

 俺は何としても紅葉の誕生日までに告白することを決心していた。


※次回はヒロインの紅葉の視点で物語を始めます

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