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天狗と誘拐と女性と 26

白河視点

 柄池を誘拐した件で女将は退魔師に連行されることとなる。

 このことで周囲を別の退魔師が別件でいたということで、連行までにそう時間はかからなかった。

 連行は龍富の立会いの元で行われて、その場での問題は起こることはなかった。

 そして、今では旅館の居間で8人は過ごしていた。


「……さて、どうするか?」


 龍富はふと、これからのことを呟く。

 8人というのは古賀松を抜いて白河を入れた人数であるのだ。


「マツの奴は……どこ行ったんだろうね……?」


 窓を見て大空は言葉を出す。

 古賀松はこうして居間にいる前に一人で歩いてくると話したのだ。

 大空は一人で行くことを止めようとしたもの、そっとしてほしいと古賀松から返事が来て、何も言い返せずであった。


「分からない……どこへ行ったか予想出来ないし……」


「気になるなら、私が行ってもいいわよ? 私なら特に気に触ることはないだろうし」


 下を向きつつ大越は分からないと話し、対して八雲は本で下半分の顔を隠して行っても構わないと話す。


「いや、いい。そこまではしなくても……」


「あら、そう……」


 大空は八雲の提案に遠慮の意を伝えて、八雲は理解の意を伝えた。

 空気は重く、とてもじゃないが賑やかの表現は誰が見ても当てられない。

 白河はこの雰囲気を払拭したい気持ちはあった。


(あの女将……氷村さんが連行されてだものね。雰囲気はこうなっても当然だし……)


 気まずい雰囲気に押されつつも白河は口に出せない言葉を心の中にしまう。

 食い違いが起きたまま意見を進められてはこうはなるだろう。


「あー……こんな雰囲気だけど……皆ちょっといいかな?」


 言いにくい雰囲気の中をかき分けるよう白河は皆に向けて話し始めた。

 皆は白河に視線を向ける。


「こんな雰囲気だけど、と言うよりもだからこそさ、皆で……何処か行ってみない? 食事だったら私が8人の皆の分を奢るから」


 雰囲気のせいで白河はぎこちない言葉で食事の提案をする。

 この後の退魔師同盟の行動は分からないが、食事で奢る事にすればなんとか行けると踏んでの言葉であった。

 一瞬の沈黙。

 言葉はその後でなかった。


(あー……やっちゃったー? なんとかこの雰囲気をって思ったけど……あーこれは……)


 苦笑いの中、心の中で白河は現状を呟く。

 完全に下手を打ったようだ。


「えっと……まあ……その……嬉しいんですけど、その誘いは……」


「あー! 柄池君! えっとねー! 私もね!その意見はダメかなって思うのー! 言った後だけど……」


 こちらの言葉はありがたいと感じながらも申し訳なさがある声で柄池は話し、白河は無意識に任せて弁明を図った。

 ともかくなんとかしたいとの一心で。


「まあ、いつまでもこんな雰囲気はよくないってのも事実だし」


「……その、実は、俺もそう思っていた」


 小さく笑いながら大空は良くない雰囲気だと語り、龍富も小さい声で申し訳ない様子で同意を伝える。

 大なり小なり龍富は自らの決断でのこの結果を理解してはいるようだ。


「じゃあ、この雰囲気はもうやめってことで、自由時間の続きをやる事にしないか? 時間そのものはまだ残っているわけだし」


 雰囲気の払拭を、と御堂は次のやることを提案する。

 時間は夕方にはまだなっていない。

 周辺を歩くなら、時間は取れる可能性もある。


「それでいっちゃっていいんじゃ? マッツは直接なり、電話なりで伝えればいいし」


「私も賛成」


 続いて大越も賛成の意見を言葉に出し、愛川もまた賛成の意見が出る。

 二人の声も明るさを帯びていて、反対意見はこの場で出なかった。


「それで行こうか。マッツには俺から伝えておくから、それと……」


 まとめの意見を柄池は出す。

 この場に先程までの暗い雰囲気はなかった。


「白河さんのおかげでこの雰囲気を払えました、ありがとうございます。後はこっちがなんとかしようと思います」


 続けてと柄池は白河に頭を下げて礼を伝える。


「ああ、いいのよ。私もこの雰囲気は取っ払いたいから」


 柄池からのお礼に遠慮の言葉を白河は返した。

 その言葉の裏ではこう考えていた。


(良かったー! 取っ払えたこともだけど、つい8人を食事なんて威勢のいいことを言っちゃったし、本当に奢らなくてよかったー!)


 所持金の点では不安があったのにかかわらず言ってしまった白河は、奢る必要がない事に心の中で喜んでもいた。

 笑顔の裏にもう一つ喜べることもあってのことだ。


「それじゃあ、俺はマッツを探して伝えるから。面と向かってこれは言ったほうがいいからね」


 古賀松を探すとの柄池の言葉。

 そう言って柄池は居間から出ると、女将の右腕の中年女性に蜂会う事になる。


「おや、柄池君じゃないか?」


「あ、女将さんの右腕さん……」


 小さく驚いた中年女性が言葉を出すと、柄池もまた小さく驚いて声を返す。

 その柄池の柄池の声には気まずさもあった。

 白河も柄池と中年女性が会話しているところは見ていたので、中年女性の面識はあった。


「おばちゃんでいいってことよ、それよりもこいつさ、こいつ」


 その中年女性、もとい右腕は物陰から言葉と共に何かを引っ張ってくる。

 その何かは周りを驚かせるに十分である。


「マッツ……! 戻ってきて……」


 柄池の先程よりも大きい驚きの声。

 八雲は分からないが、白河を含む周りも驚きの表情が浮かぶ。

 古賀松は柄池の言葉に悪いと思いながらも沈黙で対応していた。


「しょぼくれていたからね、その子。ほら、一言いいな!」


「あだっ!」


 強い口調の右腕の言葉と共に、右腕は古賀松の背中をひと叩きすると、古賀松は痛みの声が漏れる。

 その後少しの間が空き古賀松から声が出る。


「その、俺にも悪いところはあった……すまん」


「マッツ……その様子ならいいけど……その……」


「おお、女将と退魔師の件だろい? それは私も耳に入れてるし、遠慮なく話しな」


 古賀松の謝罪、柄池の心配の声、そしてその後に右腕の口から退魔師の事が出ると言う驚かせる言葉が出た。


「え!? 知っていたの?」


「連れてった退魔師から話は聞いたよ。それと女将のことは柄池君たちが来る前からも知っているよ、雪女だってことを」


 右腕の言葉に愛川から驚きの言葉が釣り上げられ、更に右腕から雪女の言葉までが出てくる。


「あら? そこまでも?」


「女将の両親が亡くなる前に教えてくれたのよ。女将が後天的に化者へ変わったかもってね」


 これには八雲からも反応の言葉が釣り出されて、知った経緯を右腕はその後に話した。


「私は女将を責めるつもりも無ければ、逆に柄池君たちを責めるつもりだってないからね。誰も責められない騒動だってあるってことさ」


 女将の件での柄池の反応で悟ったのか、柄池へのフォローを話す。

 心なしか柄池もほんの少し表情が柔らかくなったように白河の目には見えた。


「だから、元気出しな。女将不在だって旅館も潰れないように私はやっていけるから」


「あ……その……本当に……」


 右腕からまとめとして柄池、それだけでなく周りの皆へと心配無用との言葉をかける。

 それからの柄池の言葉にはどう言えばいいかと戸惑いが隠せていなかった。


「おっと、謝りは無しだよ。そんな言葉を聞くために言ってるんじゃないから。それと、夜まで泊まるんだし、夕食で元気つけてもらうからね。期待しなよ!」


 右腕は先回るかのように謝る必要はないと話して励ます。


「その……ありがとうございます!」


 柄池は頭を下げて、礼を言った。


「あ……俺が言うのもあれですが、他の退魔師にもいい旅館だって話しますので……父さんにも言っておきます!」


「お! 嬉しいよ! 家族揃ってまたおいで! 団体もお待ちかねだよ!」


 龍富も何か旅館のためにと話すと、右腕は胸を軽く叩いて歓迎の声を出す。

 その右腕の行動に白河は驚かされる。


(すごい肝だわ……恐れ入ったわ)


 恨み辛みを微塵も出さずに、しっかりと励ます、その行動には驚きの言葉を心の中で留めておくこととなる。

 それから、白河を含めた9人は夜までの時間を過ごすこととなった。

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