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序章 6

 愛川は友達として振る舞うための情報を大越と共有しあった。

 だが、愛川には覚える情報が多かったこともあり、大越から教わった事を全て覚え切ることはできなかった。

 そのため、大越は特徴的な部分などの最低限の情報だけ教えて、何度か愛川に復唱させて覚えることになる。


(頭の中で言葉が、渦巻いている感じが……)


 愛川の脳内でどこと無く回りすぎて、平衡感覚を失った時の酔いに近いものを感じていた。


「大丈夫? 頭に詰め込むようなことして悪いけど、これくらいは覚えていかないとやっていけないからね」


 大越は黄色の髪を揺らしながら、覗き込む動作を見せる。

 大越の顔を見ると、顔色もまずいことをしたということが浮かび上がっていた。

 愛川も顔色を変えて、問題ないことを表現しながら言葉にも表す。


「何とか……大丈夫」


 その愛川と大越はある部屋へと向かっていた。

 その場所にはまもなく着く予定であり、これから愛川と大越にも必要となる場所でもあった。


「ここで、間違いないわね」


 大越は部屋に割り振られた番号を見て、間違いがないことを確認した。

 二人は目的の場所へとたどり着いたのだ。


「ここが……サークルの場所?」


「そう、なんでも不可思議な化け物や妖怪を退治するなんて言うサークルなのよ」


 愛川が場所について話すと、大越から解説が入る。

 共有情報を教わった後は講義を挟んで、サークルの拠点となる場所へと向かうことになっていた。

 それがここだ。


「世間一般から見れば、おかしなサークルだと思われるでしょ。でも、こういうサークルもあるものなんだよね」


「そうだね……でも……」


 続けて大越から解説が入り、愛川も理解はしてると話す。

 こういう場所に行くことも愛川は事前に知っていた。

 が、話が有っても不安な部分が切り捨てられない。


「私たちって……」


 愛川は周りに大越以外の人がいないことを確認して、大越の耳の傍で言葉を伝える。

 大越もここからの内容は周りに伝えられないものと分かって愛川に耳打ちをした。


「だから、よその味方が化者だったなんて予想付かないでしょ? 灯台下暗しっていうのこういうこと」


「あー」


 自分の仲のいい知り合いが実は敵だったらそう考えると確かに直前まで気付かない。

 愛川は大越の言葉に納得をした。


(とうだいもとくらし……何だろう、日本では名前の後に氏っていうから誰かの名前なのかな?)


 愛川に些細な疑問を残したが、大越は会話の続きを話す。


「それに私たちがその人に悪いことをする予定なんてないんだから、化者だって隠すにしてもばれて問題はないと思わない?」


「それもそうよね……大丈夫だよね」


 大越の言葉に愛川は安全を確認する。

 愛川の言葉には昨夜のこともあってか、不安を押し留める意味もあった。


「そろそろ部屋に入ろう」


 大越は内密話を終わらせる意味も含めて、愛川との顔の距離を離して声の音量をあげ、愛川との会話を仕切り直して部屋のドアへと向かう。


「そうね、ここでこうしても仕方ないし」


 大越の意見に同意して、愛川も後を追った。

 追った先で大越はドアを開けて部屋の中にいる人物へ声をかけた。


「すみません、ここのサークルのことですが……」


「あれ? このサークルに?! ああ、どうぞ!」


 大越の声を受けて、男性の驚きと喜びの混ざった声が返ってくる。

 愛川には帰ってきた声に引っかかるものがあったがそのまま、部屋へと進んでいく大越の後へと続いた。

 大越は部屋でもう一つ声を響かせた。


「あの、入会を考えているのですが……」


「ああ、歓迎だよ。一人ってことで--」


 男性の会話の途中で愛川は自らの姿を入口から覗かせる。

 すると、男性は言葉の途中で訂正をすることになる。


「っと……二人ってところかな? 二人でも歓迎だよ」


 愛川は部屋の様子を見る。

 オレンジ色の髪の男性は席に座りながら、こちらに体の方向を向けていた。

 その後に愛川は驚くことがあった。


「あ!」


 愛川の驚きも男性へすぐに移ることになる。


「え……嘘!? 君もなの?」


 二人の驚きは全く同じであった。

 それは二人が昨日知り合って、ノートを写して勉強も教えてくれた間柄であったからだ。

 その驚きに大越は確認をとる。


「あれ? 愛理栖ちゃんはこの人と知り合い?」


「あ、うん。昨日ノート写してくれて、勉強も教えてくれた人なの」


 愛川は男性へと向きを変えてお礼を述べる。


「昨日は本当にありがとうね、おかげで助かったわ」


「ああ、お安い御用だよ。また、なんかあったら言ってね」


 男性は愛川のお礼に嫌悪の欠片もない声で返した。

 その声に愛川も自然と気分がよくなった。

 その様子を大越は少しにやけているような表情で見つめていた。

 男性は言葉を終えた後、隣の方へと体の向きを変えて声を出す。


「おい、リュート! 起きろ! 入会希望が女性二人だぞ!」


 隣にも男性がいたようで男性は顔を伏せて寝ていた男性を起こしにかかる。

 すると、男性は顔をあげて周りの様子を見渡す。


「……なにぃ!! 本当にこんなサークルに来たのか?」


 黒い髪の寝ていた男性は遅れながらも状況を把握して驚きの声を上げた。


「そうだよ! やっぱり、俺が呼びかけておいて正解だったろ?」


 驚きの声にオレンジ髪の男性は対応する。

 どうも、サークルの呼びかけの提案はオレンジ髪の男性のようだ。

 だが愛川にとって黒い髪の男性がその様子を見る様に驚きを隠せなかった。


「あ……」


 愛川の驚きは声に漏れる。

 声に漏らしてまずいかもしれない。

 そのままばれるかもしれない。

 それでも、声が漏れてしまっていた。


「昨日の夜まで化者を追っていて寝不足の様子だけど、見間違いじゃないぞ。俺も女性二人だって確認しているからな」


 オレンジ髪の男性は続けて黒い髪の男性に話しかけていた。

 同時に愛川は黒い髪の男性が昨夜愛川を追いかけまわした退魔師であると確認して、男性の話という裏付けまで取れてしまった。

 愛川は大越を見るとなにかよからぬ予感を察知した様子を見て、愛川自身の顔色が変わっているのだと判断した。

 愛川はここまでの男性二人の話を聞いていて、気になることが浮上してくる。

 その聞きたくないことでもあったが、確認しなければまずいという心情から愛川は口を開いて言葉にしていた。


「あの……二人の間柄は……どのような……?」


 自ら声を発して愛川自身の声が恐怖をまとっていることを理解してしまう。

 オレンジ髪の男性はその様子を気にすることなく、愛川の疑問に答えた。


「俺とリュートの関係? そりゃ、小中高と付き合いの長い友達だよ」


「んーそうだな。ほんと長い付き合いだよ」


 オレンジ、黒色の髪の順に男性たちは友人だと答える。

 水と油の交じった如き驚き。

 そして、今の愛川の心情を例えるならば、

 救いの神様と地獄の閻魔が仲良く肩を並べているそんな光景を見てしまったような感じであった。


「そ……そうなんですかー」


 苦い虫でも口に入れたような笑みで愛川は男性の解答に言葉を添える。

 大越も愛川の状況がなんとなくわかったような表情でもあった。

 もしかすると、愛川と同じ言葉を添えていたかもしれない。

 愛川はこの状況に内心に留めた愚痴を

 吐くしかなかった。


(これから……これからどうなっちゃうんだろ……?)


 サークルに入るメンバーは自分を含めて四人。

 化者であり、自分とも理解がある大越、昨日助け舟を出してくれた親切なオレンジ色の髪の男性、そしてもう一人、昨夜自分に襲い掛かってきた自分の化物の姿を敵視しているであろう退魔師である黒髪の男性。

 不安要素だけでなく自分を救ってくれる要素もある。

 だが、それでも退魔師の男性という不安要素があった愛川にはその大きな不安に苛まれていた。

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