人魚捜索 16
前半まで柄池視点。後半から大越視点
柄池は大空に手を貸してもらい、立ち上がった。
脇腹の傷は思ったより深く、立ち上がるのにも苦労があった。
ネックレスの狼男の方を見ると糸が切れたように倒れており、寸前のところまで根性を見せていたようにも今の時点で見えた。
「おっと愛理栖ちゃん、待ちな。まだ立って来る可能性もあるから、一応俺も見に行く」
古賀松は愛川の方へ掌を見せて待ったの言葉をかけた。
愛川に視線を向けると、こっちに寄ろうとしていたのか移動の勢いを消そうと足に力を入れ、余った勢いで少しだけ、前のめりになった愛川の姿があった。
その後に寝ているネックレスの狼男の元へ古賀松は行く。
「悪かったな、遅れてしまって。怪我は……脇腹以外ないのか?」
「ああ、脇腹以外はない」
大空の謝りの言葉の後、柄池は傷のある脇腹を手で押さえて返答をする。
「あと、まだ終わってはいないんだ。リュートの方も戦って」
柄池は戦いは終着してないと伝えて、龍富が戦っている方へと視線を向ける。
すると、龍富は既に寝ている熊の狼男の前で片手に錠をかけ終えていた。
「あっちの方も終わったようだよ」
「しかし、サイレントアタックって割には、行きだけしか音がなかったな。サイレント片道切符の方がまだ似合うかもしれん」
大空は言葉で終わったことを伝え、龍富は狼男に言葉をかけて、もう片方の手にも錠をかけ終える。
「こっちも解決ってことで良いぜ。軽く叩いても反応なし。愛理栖ちゃんもこっち来て良いよ」
古賀松の方もネックレスの狼男がしばらく起きないことを伝えて、愛川に手招きする。
これで周辺の戦闘は終着を迎えることになった。
柄池の目に写る範囲では、だが。
「そうか……でも、まだ他にも狼男がいてサブロー達が戦ってたんだけど、そっちってどうなってるか分かる?」
「いや、そっちは分からないし……そっちの方が不味くないか?」
柄池は御堂達のことを言葉でも気がかりにすると、大空は分からないと答えて、そちらを心配した。
御堂達三人は遠距離用の銃しか持たない。
大空達は関わってないとなれば、状況は不味いことになっている可能性が高い。
「おっと、俺には近づかない方がいいぜ。俺も狼男かもしれないし、夜は危ないことに……」
「もう……そんな冗談を」
古賀松は言葉と共に手で待ったと冗談交じりに伝える。
愛川はその冗談に気が紛れたようで、少し張り詰めていた空気が抜けたようであった。
「ってことは、急いで向かった方がいいと」
「そうなるね。連絡システムの方は入ってないかな」
大空は急ぐ必要性を言葉でも説くと、柄池は同意もしてスマホを見る。
スマホには御堂、大越、八雲からの連絡は入っていなかった。
となると、電話をかける暇もあちらにはないであろうから、こちらから場所を探すしかない。
「おい、マツ。終わってないよ。まだ戦うことになるぞ」
「おっ、そうか。それじゃ急ぐとするか」
大空は古賀松に声をかけると、状況も把握できていたのか古賀松はすぐに行けると伝えた。
「愛川さん、リュート、サブロー達を探しにいこう」
「そうだな。だが、俺は錠をつけてないオオカミ男にも錠をかけないといけないんで、後から俺も行く」
柄池は二人に提案はするも、龍富は別のやるべき事をやると話した。
倒した化者にも錠をつけることは倒した後に逃げないようにするため大事なので、そちらもやる必要があった。
「ああ、それもだ。じゃあ、悪いけど……愛川さんはリュートの手伝い出来る? 銃弾も三回使ったから、愛川さんも戦わせられないからね」
「あー……そうだね、うん、手伝った方がいいよね」
そこで思いついたのが、愛川にも手伝ってもらう事であり、それを柄池は口にする。
愛川は渋る様子もあったが、引き受けてくれた。
愛川と龍富を一緒にするのは好ましくない事だが、
錠をつけることは大きな作業ではないので、おそらくは大丈夫だろう。
それに、銃を三回分使った以上、愛川は戦えない事から同行するのは龍富との方がいいのもある。
龍富と愛川に悪いことかもしれないが、危険を避ける以上はこうするしかない。
(頼む……捕まってないでくれよ)
柄池は切に思いながら、移動を始めた。
大越達は柄池の指示で逃げて行き、追いつかれると踏んで、茂みに隠れることとなる。
隠れると言ってもただの時間稼ぎにしかならず、結局見つかって戦うことになった。
そして今は撃たれた方の狼男と対面中である。
「全く手間どうもんだ。人質も丁重に扱わないといけないし傷もつけられねぇ」
狼男は愚痴をこぼしつつ、歩み寄って来た。
「それもお前達が人質になれば問題ないがな」
狼男は笑みを浮かべ、三人にそれぞれ視線を送った。
「人質にはならないわよ!」
大越は人質への要求を叫んで蹴った。
そんなこっちが不利になる要求なんて飲めるわけがない。
「そう言ってられるのも」
狼男の言葉の最中に御堂はすぐさま銃を構えて、引き金を引いた。
「おっと危ねえ……」
狼男はすぐさま避けて、危ないと口にする。
避けなければ当たっていただろうが、これで御堂は3回分の銃弾を使い切ったはずだ。
(これで、攻撃出来るのは私と八雲さんだけ……)
大越は攻撃可能な人を心の中で確認して、銃を構えていた。
倒せないのなら倒せる人が来るまで時間を稼ぐこともできるはずだ。
「喋っているのに勝手するとはなかなかの姑息男じゃあないか。それだけが取り柄か? んー?」
狼男は御堂に向けて罵声をかけた。
御堂は顔には出さず、ただ黙っているだけであった。
対して狼男は罵声を続けるわけでなく、今度は黙っている御堂を見続けていた。
「……しかしお前、まさかだが……」
狼男はまさかとの言葉を放つ何か気づいたことがあるのかと大越は勘ぐる。
「もしかして姑息男のお前」
「や、やれる! 俺だってやれるんだ! やってやる!」
狼男の言葉の最中に御堂は叫ぶとともに拳を構えて突っ込んで行った。
「ちょっと、サブロー!」
大越の声に茎耳を持たず、狼男へ走って行った。
「はい、正義面はだまるー」
狼男は虫を払うが如く、掌を横に振って御堂を叩く。
御堂はバランスを崩して、派手に倒れてしまった。
「お前は狭いパソコンの中だけで満足してな。パソコン小僧」
倒れた御堂へと狼男は視線と罵声を放つ。
更に狼男は払った掌を振って、再び口を開く。
「ったく、仲間だからって待たなければ、敵と戦わず俺たちのやることは終わらせられたのによ。大野木なんて100円も返せねーやつ待たなくていいのによ」
狼男はあちら側での事情で何やら愚痴を吐いていた。
化者一人に対し、こちらは女子二人。
狼男としてはもう誰かを連れて行くだけで終わりなのだろう。
大越は御堂を見る。
御堂も伸びているようで、現状は戦力としては数えられない。
(私と八雲さんでなんとかしないと)
大越は意思を強めて、銃を握る。
今の状況で銃を当てる自信が薄い方だが、状況を打破するしかない以上慎重に使わないといけない。
「さて人質だが……男なんかより力のなさそうな女がいいよな、暴れられちゃ面倒だし」
そう言うと狼男は御堂には目をかけず、大越に視線をやった、
かと思えば視線を動かして、八雲に目をかけた。
その八雲は本で表情を隠して佇んでいた。
狼男は八雲に向きを変えて、歩み寄る。
「さあ、そこの本の嬢ちゃん。大人しくしてくれないかい?」
狼男は言葉とともに歩を進め、八雲は下がって狼男から距離を離す。
「大人しくしなかったら?」
「無理やり捕まえるさ。自分が化者じゃない事を後悔して捕まっておけな」
八雲の問いに狼男は当然との意味も含んだ言葉を返す。
大越にも言葉がなくても狼男のやることは分かっていた。
八雲は何を思ったか、目を閉じてまた開く。
大越は判断の正否を考えず、銃を狼男に向けた。
「逃げて! 八雲さん!」
声と共に大越は二発銃弾を放った。
しかし大越に視線を向けた狼男は最初の一発は動かずにかわし、次の銃弾は自身を横にずらしてかわす。
「おやおや、そんな命中率じゃ一回出直して貰いたくなるぜ。出直している間に攫っちゃうけどよー」
「うっ……」
狼男の罵声に大越は呻くような声を出すしかなかった。
狼男は更に八雲に近づき、八雲は木の真後ろにまで下がっていた。
大越にも攻撃手段はもうない。
猫に変わると言っても、その後の周りの反応が良くない場合もある以上、迂闊にはこの手段が使えない。
(こんな状況、どうしたら……)
大越には心の中で呟き、悩みの重さに表情が苦悶に染まっていることが理解できた。
それでも、八雲と狼男の距離は容赦なく縮まる。




