人魚捜索 8
引き続き調査の話。前半柄池視点、後半愛川視点。
古賀松と御堂、大空と八雲、そしてもう一組の方も同様に歩いて調査を進めていた。
その組は海に近い道で店の方に向かって歩みを進めていた。
ただ、店と言っても場所そのものを知らないことから、行き当たりばったりの捜査ではあるのだが。
「この方向で合っているのか……?」
「この周辺は俺も詳しく知らないから、俺も分からないな……」
龍富は声から戸惑いを隠せず、柄池もまた困惑の様子で龍富の声に応える。
各々の考えで決めた行動ではあるも、やはり、周囲の場所に関する知識がないとこうも戸惑ってしまう。
「ともかく、立ち止まっていてもしょうがないし、今は脚を動かそう」
柄池は移動しながら、龍富に移動を促すように言葉を送る龍富も歩いてはいるものの、このままこの方向へ歩いていいのかと言葉に出ないも表情で分かる顔をしていた。
(まぁ、一回店を訪ねただけでしばらく歩いているだけだしな……)
柄池は内側の心情で現状を振り返っていた。
一つづつ虱潰しに探す作業のため、店にいないという情報が一つ出るだけでも、小さな成果の一つになる。
だが、店そのものにたどり着かない。
今の現状は全く成果が出てないに等しい状態とも言えるのである。
これでは歩くことに戸惑いが出ても無理は言えない。
「みんな、大丈夫かな……?」
「分からないな……もしかすると、誰かがもう探す人が要る場所に向かっている可能性もあるし、他から連絡がない現状ではね」
龍富は皆の進行状況を気になると言葉で表すと、柄池は分からないと言葉で返す。
その龍富は、柄池の返答が思ったことと違ったのか、小さな戸惑いを顔で表す。
「ああ、そっちじゃないんだ、ガット」
質問の答えに違う答えが返ってきた。
龍富は質問の意味を別の意味で捉えていると柄池に話す。
柄池は不意に疑問が湧いてくる。
「化者なんかに襲われてないといいんだが、ってことで聞いたんだよ」
「ああ、そういう」
龍富は化者のことで不安があったと柄池に指摘し、柄池は合点がいったと言葉で伝えた。
「最初は組まないで個々人で調査って話だったけど、念のためにってことで、二組で別れたよな」
龍富は確認の意味を込めて柄池に二組に分かれたことも説明をする。
「大丈夫……だよな?」
そして、その行動と他の組への不安についてを柄池に確認を聞く言葉を送った。
「大丈夫さ。俺もその時その意見に賛成したし、何かあったら連絡できるようにって提案したのが、リュートだったろ? ちょっと心配が過ぎると思うよ」
不安を語る龍富に柄池は心配いらないとの言葉を伝える。
龍富はこういう風に自分のことに不安になることが、今まで何度かあるのだ。
「そうか……それとさ、もう一ついいか?」
不安は取り除けたようだが、まだ別のことで不安が残っていたようで龍富は不安の積もった声で疑問を投げる。
「何か?」
「愛川さんのことだけど、どう思う?」
柄池の質問を受け入れる声に対し、龍富は愛川のことについての意見を求める声を出す。
「どう……? ああ、化者かって?」
「そう。俺はあの夜の時の化者だと思って行ったんだけど、今となっては違う気もするし、もしかしたら本当にってことも考えてしまうし……」
一瞬聞いた内容に疑問があったが、すぐに柄池は内容のことで理解の声を出す。
龍富はあの時に愛川を化者だと思って、斬りかかろうとしたことについて語った。
柄池としてはその場で目撃していた訳ではないので、どうしても愛川が化者か否かは答えられないのである。
答えられないが、ただし別の問題については柄池は答えることが出来た。
「そうだな……俺はそうやって疑うと、いざって時に信じられなくなるから化者かって話は考えない方が自分にとってもいいと思うよ」
柄池は龍富へと進言した。
龍富にとって求める答えは化者か否かそれは柄池に答えられないも、今の龍富がすべき事は言えるのである。
「少なくとも、今の愛川さんはこうやって味方であるのは間違いないし、化者であろうと敵だと思わないで行動するべきじゃないか?」
柄池は龍富のやるべきことについて指摘をした。
その指摘を聞き、龍富は前を向きながら上に視線をあげて、考えるそぶりを見せる。
「……確かに……そうだな。本人に化者か聞ける話でもないし、疑わずにいるのが一番いいのかもな」
「そうそう」
龍富は若干納得のいかないような間が見え隠れするも、柄池の答えに納得の意思を言葉で伝え、柄池はそれでいいと声で伝える。
満足できる答えは出せない、それは柄池だけでなく、龍富も分かっていての質問なのも柄池には分かっていた。
「愛川さんについては化者かと疑うのはやめだ」
龍富はうなずいた後、柄池だけでなく自らにも言い聞かせるように声を出した。
その時柄池は移動しながら、目に飛び込んでくる建物があった。
「あ! あれは店だな。たぶん書店かな?」
「ああ、やっとか……こんなに長い歩道だったなんてな……」
柄池は店の発見を伝えるとともに龍富はやっとの思いでたどり着いたとため息交じりの言葉を出す。
「聞き込みが終わったら、少しぐらいは休みたいな」
「あまり店を回ってないから急ぎたいところだけど、流石に歩いてばっかだったしな、何分か休憩はするか」
柄池が休みの提案をして、龍富もまたその提案に乗りながら二人は店への道を歩いた。
そしてもう一つの二人組、愛川と大越も同様に店を探していたのであった。
ただし、調査の仕方は一味違っていた。
「ねぇ、どう? 来海ちゃん」
愛川が鼻を少し上にあげて、臭いの感度を集中させている大越に調子をうかがう。
大越の反応は少ししてからであった。
「今はダメね……匂いがない」
その大越は探している臭いがないと話した。
他の組は店そのものを虱潰しで探すのに対して、この組が行っていることは人魚の匂いを探すという物だ。
大越は先程の人魚の接近で人魚の匂いは分かっていて、そこから人魚のいそうな場所を探ろうとしているのである。
(まぁ、都合よく人魚発見! ってことはうまくいかないだろうけど、やらないよりは少しでも見つけやすいかもしれないし)
愛川はそううまくはいかないかもと心の中では思っていたが、見つけやすくなればとも心の中で思っていた。
発案自体は愛川からであり、大越は駄目元でやる分にはと乗ってくれたおかげでこう言う行動となった。
匂いを探る行動についてもごまかしは効く上に、もし見つけた場合の言い訳は感で見つけたとも大越は説明する。
とのことで、化者とバレる心配は不要である。
「そう言えばさ、来海ちゃん?」
ふと愛川は人魚と大越の二つで思い浮かべることがあり、そのことで声をかけてみる。
「何か?」
「来海ちゃんって……人魚さんを食べたりしない?」
大越の言葉の後に、愛川は大越についての疑問を投げる。
大越はその後、困惑と呆れが混ざった顔をする。
「な!? なんで私が食べなきゃ?」
「だって猫って魚食べるでしょ?それを考えると……」
大越は驚きも混じった声で愛川に投げかけ、愛川はその疑問を思いついた訳を話す。
化者という言葉は控えて、愛川は伝えるように心がけもしていた。
「食べないし、食べたこともないの! 心配なんていらないから!」
「そう? それなら安心」
大越の答えに、愛川は胸をなでおろして安心を伝える。
見つけて勝手に人魚を食べてしまう事はないと分かり、小さな安心が生まれる。
その様子を見て大越は呆れの表情を浮かべていたのであった。
その後に大越は何かに気づいたように急に別方向へと視線を変えるのであった。
「どうかしたの? 来海ちゃん」
「ちょっと、ついてきてくれる?」
愛川は大越に何かあったかと聞けば、大越は一言だけ話して急に歩く速度を上げてから移動する。
「あ、はーい」
愛川は理解の言葉と共に大越の後についていく。
大越は二、三度の分かれ道を迷うことなく歩き、途中にある店も通り過ぎて行った。
(ちょっと歩くの早いけど……もしかして、これって……)
愛川は、早い移動については内側に押し留めて、おおまかな察しがついてくる。
愛川にもここまでの移動でなんとなくだが、大越の目的が分かってきたため、ここで口を開こうとする。
「来海ちゃん、もしかしてこれって……」
「どうも、匂いで探って正解。人魚の匂いが海からでなく、こっちの方からしてくるの」
愛川はその察しについて質問すると、大越は正解との答えを出した。
探す人魚を見つけた可能性が高い。
「確か探す人ってもっちって呼ばれていたよね? その子なの?」
「そこまでは分からない。でも、行って間違いはないはず」
愛川は探す人魚かと尋ねると、大越は判断できないと答えた。
今回探す人魚はもっちと呼ばれている子で水色の髪をしているとの話である。
大越はしばらく速度を上げて歩いていたが、とある店へと止まることでたどり着いたようだ。
海風の歌声という看板がかかっていて、店の外見は飲食店に近いものがある。
「それじゃ入るわよ」
大越の声とともに店へと入り愛川もついていく。
店の中は女性の歌声が響き渡り、内面も海をイメージとした装飾がされていた。
その中で女性の店員に大越は声を掛ける。
「あの……すみません。人を探しているのですが、店長さんはいらっしゃいますか?」
「あ、はい。分かりました」
大越の質問に店員は店長を呼びに店内の奥に向かっていく。
少しして、店頭と思われる男性が大越の前の位置に立ち止まる。
「人を探しているってことだけど、店員のことでかい?」
「はい。こういう人を探していて……」
店長は小さく首を傾げて質問を確認し、スマホに入った絵を大越は見せながら話す。
店長は少し考えた後、こう答える。
「……居ないかな、こういう子は」
「えっ? そうなんですか?」
店長の答えに愛川は驚きの声を上げる。
この店であれば手がかりの一つは手に入ると思っていたばかりで、愛川はこの答えには期待を裏切られたのだ。
店長は答えてすぐに、その場を離れようとした。
「店長、待ってください。その子もっちって呼ばれて居て、そういう名前の人もいないんですか?」
大越の声に移動していた店長は立ち止まる。
少しの間沈黙があり、その後に店長は口を開く。
「その子だけど、探してくれって頼まれたのかい? 誰から頼まれたのかな?」
「まつりんといつみーって呼ばれている人からですが」
今度は店長からの質問に大越は答える。
それを聞いた店長は頷いた後、大越に言葉を向けた。
「捻くれた答えをして悪かったよ。訳ありの質問はこう対応していてね」
「ん?」
答えない様子であったはずが、店長は急に謝り、愛川はいまいち意味がつかめないでいた。
「もしかして、そのもしかしてですか?」
「そのもしかしてだ。が、ここは人がいるからね。外で話をしたいんだけど、いいかい?」
「はい、分かりました」
店長は話のために場所を移るようにと提案した。
確かにこの店には今の時間帯では人もかなり入っている状況なのだ。
大越もその提案に乗る形となる。
「お探しの子はこの店にいるよ。松林さんを連れてきてくれるかい?」
店長は近くの店員に声もかけて、松林という人に呼びかけるようにした。




