人魚捜索 7
調査の話。前半御堂視点、後半大空視点。
その後御堂は短時間で探す人の絵を仕上げて、聞き込み用の参考資料を用意出来た。
また、柄池は人魚への聞き込みで情報の量自体は多くはなかったが、有力な情報はいくつか手に入った。
一つはバイトのために陸に行っている可能性が高いこと。
いつみーから聞いた話では探す人はバイトをしたいと陸に上がる前からよく言っていたようで、更には陸で売っている物が欲しいからとも言っていた。
その点から陸に上がって、バイトをしている可能性は高い。
もう一つはそれほど遠くには行ってないこと。
探す人が二人の人魚が知らないところに行っている期間はその日の夜までで丸一日以上知らない場所にいることは今までなかったとの話である。
陸に上がり始めた人魚が大移動をすることも想像しづらく、人魚もその可能性は低いとも言っていたのだ。
有力な点はこれで全て。
人魚達も事前に探ってはいたようだが、他の人魚に聞いても手掛かりは掴めなかったようであった。
その事からみんなは二人組で脚を使った調査をしようと言うことになった。
「本当に絵を描いてくれたおかげで他の知り合いにもスムーズに話を通せたぜ。サンキュー、サブロー、きっと俺たちが一番早くにその子を見つけられそうだぞ」
「ああ、どういたしまして」
御堂と二人で探すことになって、移動しながら古賀松は御堂に礼を言うと、御堂もまた移動しながら特に嫌な顔をせず返答をした。
この二人になった理由は行動しやすい組み合わせと言うことでこうなったのだ。
(妥当といえば、この組み合わせは妥当だよな)
古賀松と組むことになって御堂は組み合わせの心持ちを内側で留める。
正直言えばこのサークルの中で特別な程仲のいい人もいない。
その中で組むとすれば、古賀松しかいないだろう。
もう一人組む可能性のある人もいるが、それでも古賀松の方と組む可能性が高い。
それに古賀松と組んでも御堂は嫌な顔をしないので、それも理由に含まれるだろう。
「俺たちも脚を動かさないとな。知り合いだけに任せるのも悪いし」
その古賀松は移動を続けながら御堂へ言葉を掛けて先を行く。
今回古賀松は調査の周辺地域に知り合いがいると言うので、その知り合いにも調査の協力を先ほど頼んでいたのだ。
その結果こちらの出だしは少々遅れたが、人手が増えた事から些細な問題であった。
「そう言えばさ、聖華ちゃんのこと聞いたんだけどさ」
古賀松は後ろの御堂へと視線を向けながら話を振った。
八雲の話を振ると言うことは次の話題が何か御堂には理解出来た。
「聖華ちゃんの高校って確かサブローと同じ高校だったよな」
「ああ、そうだけど」
古賀松は御堂の予想した話題を確かに振ってきて、御堂はそれに肯定の意見を出す。
御堂の考える一緒に組む可能性がある人は同じ高校の八雲だ。
「しかも物静かで中々に知的な人だと、周りからミステリアスな人だって言われてるあの子だけど、なんか知っていることはない?」
「いや、特には」
「おお、そうだと……って知らないのかよ?」
古賀松の振りに御堂は否定を伝えると、古賀松は予想外だったと言葉でも反応をする。
「そりゃ、違うクラスだったし」
「まあそうだったかもしれないけど、同じ高校に三年間一緒ではあるだろ? 知ってることの一つは……」
御堂は違うクラスだったためと付け加えると、古賀松からは何とかと粘りを見せていた。
確かに三年間一緒同じ高校であれば、何かしらの情報はあったかもしれない。
「八雲さんな、三年の時に転校してきた人なんだよ。だから、入ってきたときは話題になったけど、それっきり情報は入らなくなったんだ。受験勉強で周りはそこまでの余裕がなかったから」
「ああ、そういうことでか。そこは俺も初耳だったな。その時期に転校とは……」
御堂は八雲のことについて話すと古賀松も納得がいったようで、八雲のことについて話すという雰囲気はなくなってきていた。
「それじゃあ、なんで転校してきたかは分かる?」
「そこは知らないな、本人に直接聞くしかない気もするね」
古賀松はさらに質問をしてきたが、御堂はそれも知らないと伝えた。
古賀松もさらなる質問をすることはなく、八雲について深く聞くか悩んでいる様子も見受けられた。
そこで、古賀松のスマホに連絡を知らせる着信音が周りを響く。
「あー、はい。どうだ? そっちの方」
スマホの応対を始めた古賀松は移動を止めて連絡相手にスマホを通じて会話を始める。
連絡相手との会話を少しするうちに古賀松の表情はすぐに変わることとなる。
「おい、サブロー」
古賀松は御堂に声をかける。
「喜べ。早速見つかったってよ」
笑みを浮かべて古賀松は目的の人物が見つかったと報告をした。
もう一方の方でもまた脚を使った聞き込みをやっていた。
この組みは小さな店の入り口で店員に話を持ちかけている最中だ。
「あの、すいません。こんな子を探しているんですけどご存知でしょうか?」
大空はこの店の店員に御堂作のスマホの絵を見せて質問をする。
「いや、うちにこの子はいないし見てもいないね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
店員はいないと伝えると大空は頭を下げて礼を言った。
大空と組んだもう一人の人、八雲も頭を下げていた。
この店での用事が済んだ二人はその場を離れ、店に接する道路を歩き始める。
今回大空は八雲と組んだわけだが、八雲と組んで問題なく行動できそうなのが大空であったからだ。
もう一つの組みである古賀松と御堂だが、実のところ御堂と八雲を入れ替えても大空としては問題はなかった。
しかし、御堂と八雲には行動しづらくなる可能性もあるのでこの組み合わせになったわけだ。
(サブローは異性と組んで動きづらくなりそうな顔をしているしな……)
御堂の見た印象を大空は心の中で呟いた。
これは大空の偏見が混じっているかもしれない印象で実際は違う可能性もあるかもしれないが、この印象から大空は御堂と組むことはまずいと判断している。
逆に八雲も古賀松とは組めない可能性もあったので結果的にこう言う組み合わせになったのだ。
古賀松自身も実は嫌われている場合の距離の置き方は分かっているのだが、八雲が組んでどうなるかも分からない以上、こう言う組み合わせが安定しているためだ。
「そう言えばさ、八雲って本をよく読むけどさ」
「ええ、そうね」
大空は先を歩きつつ八雲に話しかけ八雲も応対する。
もしかするとこのサークルで、よく組む可能性のある人なので心の距離が遠いと問題もある。
その問題を小さくするために大空は八雲との会話で心の距離を縮めようと言うわけなのだ。
「本を読む以外で何か趣味はあるのか?」
大空は出始めとして趣味について話を深めようとした。
対して八雲は本で顔の半分を覆いながら話を始めた。
「そうね……それ以外だと……人間観察かしらね?」
答えまでに溜めなのか戸惑いなのかどちらにも取れる間があったが、八雲は答える。
「人間観察……ね……」
大空は凶でも引いた時に似た感覚の中言葉を返した。
大空もそう言った趣味の人と触れたことはないからだ。
「なかなか飽きない趣味よ。似たような人達でもある事柄で大きく違う反応をするから」
趣味について補足を八雲はする。
大空は間にその趣味について言葉を挟んで、ただ聞くだけにはしたくはなかったが、思いつく会話内容がなかったため、聞くだけしかできなかった。
「それでこの人はそう言う性格なのかと仮定して、色々な事が起きた時の反応を探って性格について推測していくの」
趣味について、さらに八雲は連なるように捕捉をしていく。
「虫や動物を観察する時と同じ楽しみがあるわね、この趣味は」
八雲は虫と動物の観察するのと同じような感じだと、趣味についてまとめた。
(言っちゃ悪いけど……やっぱり特異な感じだな……)
歩きながらも大空は八雲についての趣味の感想を心の中で留めていた。
ただ、一言でおぞましい印象を持ってしまうような趣味でないことは良かったのだろう。
「それと今のあなたの反応も色々と探って見たくなる反応であるわね」
「へ、へぇー……そうなのか」
八雲は大空の今の反応も見ていたとも意味する言葉で印象は悪くなさそうな話を大空にする。
大空はその言葉にそつのない返答で言葉を返した。
とっつきにくい部分はあるも、見たところ八雲から見た大空の印象は悪くなっている様子がないと大空にはその印象があった。
(その言葉って……虫や動物と同じようにあたしを見てる、と言っているようなものだよな)
大空は浮かべているであろう自分の苦笑いと共に、声には出さないように心の中で言葉を呟く。
それと同時に八雲の言葉の意味について深くは考えないように心の中で決めた。
大空は会話の流れがやりづらいものから、少しでも話が進むようなものへと話題を切り替えようと考える。
「ところで、次は周辺の店を探ってみるか?それとも、少し離れた場所で店を探ってみるか?」
「そうね……私はまだ歩けるから、任せるとだけ」
大空は話題を調査のことに変えて話しづらい流れを変えようと試みる。
それで、八雲は話題を変えることを受け入れるとともに、まだ歩けるとも伝える。
「じゃあ、少し離れた場所の店を探ってみるか? おそらくは、松の知り合い達の情報網でもう見つかっているかもしれないけど、あたしたちが調査しても損ではないだろ」
「ええ、そうしましょう」
大空は離れた場所に探りをすると決めて八雲はその判断に従う。
ここには古賀松の知り合いも結構いるため、その人たちを古賀松は頼りにできるのだ。
大空にもこの周辺の知り合いはいるが、古賀松と被る人も多く古賀松の方で知り合いに連絡することとなっている。
古賀松たちの方が頼りにできるが、それでもこちらの組が動いても足枷にはならないだろうから、大空も足を使って調査することには意味があった。
大空と八雲達はもう少し離れた場所への移動のために歩を進めていった。




