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序章 3

 空を飛んでいたときに愛川は男性の声を聴く。

 声は若い人のようだが、声色はあまりよろしくない。

 愛川は急なことで、移動の勢いを殺しきれず、予想した停止位置よりも大きく横にずれることになる。

 位置のずれ以外には難なく止まることが出来た愛川は声の主へと視線を向ける声は愛川と同年代の男性から発せられ、黒い髪で刀を持っていた。


「な、何か……?」


 愛川は男性に用件を尋ねると、男性の様子からある程度予想できた。

 悪い返事が返ってくる。


「なんでサキュバスなんかがこの時間帯にいるんだ?」


 刀はまだ鞘に収まっているもの、明らかにこちらを敵視している事が男性の様子と声から分かる。


「夜の空気に当たりたいから……だと問題あるかな?」


 生命力の確保というと、なんだか悪いことを引き起こしそうな予感がして、愛川はそのことだけを隠した。

 実際に生命力を分けてもらうことは悪いことでないと指導役からも聞いている上に姉もやっていることだ。

 だが、それでも男性の雰囲気からそれは許してくれそうにないと踏んで敢えて隠そうとした。

 男性は愛川の答えに言葉を重ねる。


「サキュバスってのは本当にいい加減だな。そんな事を言って、どうせ生命力を他人から奪いたいだけだろ」


「えっ、それってダメなことではないはずだけど」


 男性は生命力を頂く事が禁止されている様ないいようである。

 男性は愛川の疑問に答える形で会話を続ける。


「そうだ。日本に少数のサキュバスがいて許可を得てから生命力を奪っているならそこまで気を立てる事じゃないさ」


 男性は一拍を置いて言葉を続ける。


「だが今の状況は全然違う。許可を得ないで生命力を奪っているサキュバスが多くいるんだよ! だから、お前もここでお縄だ!」


「ええっ!? そんなぁ!」


 男性はこちらを捕縛したいような物言いである。

 そんな状況だとは聞いてない上に理不尽な判断だ。

 愛川は男性の理不尽に不平の声を漏らして、さらにもう一言付け加えようとする。


「そもそも、私が生命力を奪うって言っても--」


「言い訳は何度も聞いた」


 愛川の言葉に男性は強引に割りこみ、言葉を差し込む。

 更に男性はこう続ける。


「今まで何度もサキュバスを捕まえてな、似たような言い訳ばかりを言うんだ。言い訳を聞いて見逃した場合もあるにはあるが、全部生命力が欲しいだけの奴だったよ」


 男性は言葉を紡ぎつつ、刀に手をかけようとしてこう言った。


「だからさっさと捕まりな」


 次の瞬間、男性は上へと飛んで、愛川との距離を一気に詰めた。

 そして、男性は刀を愛川に振ろうとする。


「危なっ!」


 愛川は声とともに攻撃をかわした。

 そんなことしていいのか。

 そんなことが許されるのか。

 男性の行動を非難したいのだが、そんな言葉が通じる相手ではなさそうだ。

 ならば愛川のやることはひとつだけ。


(隙を見て逃げるしか……!)


 逃げの方に全ての力を注いでは、逃げ切ることはできそうにない。

 現に男性の身体能力は高い方だ。

 そのため、愛川は覚悟を決めて戦うことを決意した。


(それにこっちだって反撃手段がないわけじゃないんだから)


 男性に悟られないよう内で呟きつつ、滞空したまま高度を下げて応戦する。

 男性もその行動を見てか、すぐさま愛川に切りかかった。

 愛川はその斬撃を後方へと下がり、避ける行動に出る。


(よく見てかわしていけば、あとはあれで隙が……)


 愛川は行動の手はずを整えて、相手の攻撃を避けていた。

 手はずとしては、相手の隙を作って手の届かないところへと逃げる。

 具体的には上空。

 ただ、上空までに一気に飛ぶようになれば、相応の力を蓄える時間として、愛川にも隙が出来てしまう。

 それで、男性の隙が必要なのだ。

 戦闘に入る前に、先手必勝と一気に上空へ飛ぶ手段もできたのだが、それは相手も警戒している様子であるのでその時は愛川にできなかった。

 その愛川のとっている手段は攻撃するそぶりを見せつつ、かわす方に力を入れている状況だ。

 と、ここで、愛川の視界に男性は攻撃が来ると予想したのか、防御の姿勢に入る様子を見せる。


(隙ができた……!)


 愛川は心の中で隙を確信する。

 この状況でやることは一つ。

 一気に高い方へと上昇する他ない。

 愛川は地に足を付けて、足に一瞬だけ力を蓄える。

 そして真上だけへと飛ぶ純粋な力へと変換しようと足を動かそうとした。


 その時であった。

 男性は愛川の様子を見越してか、こちらへと飛びかかってきた。


(このまま上に飛べば、逃げられそうだけど)


 愛川は男性の行動に抑止混じりの迷いを感じてしまう。

 このまま飛べば、刀が届く前に逃げ切るところまで距離を離せる可能性はあったからだ。

 だが、愛川は戸惑ったもの、上へと飛ぶ行動に移ろうとした。

 そこで、愛川は男性の刀に刃の色と異なる色が纏わり、付いていることに気付く。


(今でも飛べば逃げ切れるはず)


 内心で愛川は逃げられる可能性を確認して上へ飛ぼうとした。

 男性との距離はギリギリ刀が届かないだろう距離。

 男性は上から叩き落とす動作で愛川に迫っていた。


 だが


「!」


 愛川が飛んだ方向は上でなく、後方であった。

 何しろ、愛川は男性の刀が切る瞬間に伸びていた光景を目撃したからだ。

 刀には先ほどの刃をまとっていた色の力が刀の長さを水増ししていたのだ。

 男性の伸びた刀は振り下ろされるも空を切り、男性には残念の色が顔からにじんでいる。


(もし、あの時に迷いなく飛んでいれば……)


 刀の伸びた部分に触れていたであろう。

 愛川は心の中で先の未来を思っていた。

 力の正体が分からないが、良くないことが起こるのは間違いない。


「危なかった……」


 愛川は尻もちをついた体勢で、空に浮かびながら呟く。

 男性は休みを与えるつもりがなく、愛川に息つく暇もないようさらなる襲撃を仕掛ける。

 愛川はその襲撃を避けて、次の手を考えた。


(上に逃げる方法は警戒されているから、あとはあの方法が……)


 サキュバスにも物理以外の反撃手段があった。

 愛川はその手段は使おうとも考えていたが


「分かっている。サキュバスと視線を合わせてはいけないってことぐらい」


 男性は刀での攻撃を緩めず、愛川に忠告する。

 男性の言う通り、サキュバスは視線を合わせた相手の精神に干渉することが出来る。

 愛川が出来ることは視線を合わせた相手にめまいや軽度の幻覚を起こすこと。

 相手と愛川の距離によっては出来ることも異なるが、大体のサキュバスが出来ることは愛川にも出来た。

 何度もサキュバスを捕らえているというだけあって反撃手段も周知済みのようだ。

 現に男性は愛川の眼でなく首やへそ、足の動きで愛川の動きを見ていた。


「んむっ……」


 男性の攻撃を避け続けながら、愛川の口が自然に歪んでいき感情が声になって漏れてしまう。

 退避経路もうまく使えず、反撃手段も潰されて今の愛川には突破手段が出来ることはない。

 少なくとも今の状況までは。


(そうだ! あれが……)


 突如思い出したことに愛川は突破の糸口を見出した。

 あれなら近くにあったはずだと。


(あれならこの状況を……)


 愛川は思い出したものに希望を見出し、男性の刀をかわした後にすぐに後方へと向きを変えて飛んで行った。


「なっ! 待て!」


 男性は愛川の行動が予想してなかったのか、驚きの声色で愛川を追いかけた。

 駆け出した時間は男性が遅い、しかし、男性の身体能力は飛んで逃げる愛川の距離を少しづつ詰めていくことを可能にしていた。


「ほんと速いなー!」


 愛川は男性の速さに文句を言う。

 あわよくば、追いついてもらいたくなかったが、愛川もそれは予想していた。

 それでも愛川は文句と驚愕の混ざった声を漏らす他なかった。

 時間が経つにつれ、詰まっていく男性と愛川の距離。

 そして男性の刀が届く範囲まで時間はもう持たないだろう。

 前を見ながらも愛川は足音からそれが分かってしまった。


 そのとき、大きな物音が聞こえた。

 一拍置いて愛川はその音を理解する。

 男性が飛んで一気に距離を詰めたと。

 後ろを見れば男性は宙で刀を振り下ろさんばかりの姿。

 今すぐに刀を振り下ろそうとしていた状況。

 そして、男性は刀を振り下ろした。

 だが、その刀は愛川に触れることはなかった。

 愛川が急に直角に曲がることで、コースを変えてきたからだ。


「かわされたか、だが……!」


 男性はかわされたことで全ての手が終わったわけではないと告げる。

 ただ、愛川の行動はそれだけでは終わらない。


 男性の視界には

 鏡、カーブミラーがあり

 その中に愛川が男性を真正面で見ている姿がそこにあったからだ。


「今!」


 愛川の声とともに愛川自身の目が怪しく光る。

 愛川が突破口として期待していたものは、カーブミラーだったのだ。

 視界さえ合えばサキュバスは反撃できる。

 鏡で視線が屈折したとしても男性は愛川の光った視線を受けて、声を出してしまう。


「あっ、そんな!」


 男性は片手で頭を押さえて、力なく着地した。

 長くはないが、男性にめまいを起こしたのだ。


「よし! これで逃げられる!」


 声をあげて愛川は勢いよく逃げの手を打った。

 男性が声をあげるもその距離はどんどん遠くなっていくことが分かる。

 愛川は道に沿って飛んでいきながら、分岐のある道を二度ほど通って男性との距離を突き放した。

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