サークルの出会い 15
大越視点
初めてのサークル活動を終えてから何日か過ぎていき、大越は特に大ごとも無く過ごしていた。
化者である自分と同じ立場の友人も出来て、ある程度は不安も解消されていたのだ。
高校時代は化者の友人なんてものは存在せず、自分と同じ境遇の人がいたとしてもそれをみつけるのも不可能に近いことである。
そのため、相川の存在は大越にとっても大きいものである。
その大越は今、大学の廊下を歩き、愛川との待ち合わせの場所に向かっている最中だ。
「時間は……大丈夫だね」
大越はスマホの時刻を確認しつつ呟く。
今向かっている場所は以前愛川との隠密の会話をした場所であり、今回も二人きりの会話をするためだ。
その場所に向かうのに歩いても時間の余裕があった。
「愛理栖ちゃんの事だから時間を見つけて話を聞かないと」
大越は歩きながら話の重要性を確認するように呟く。
実際、初めてのサークル会議で大越が聞いていないとんでも事を愛川は喋っていたのだから、釘刺しと愛川に起こった事を確認するためにも二人きりの話は必要としていた。
呟きながら大越は校舎の外へと出て、目的地までもう少しのところにいた。
(本当にこの場所はありがたいわね。周りはほぼ人の気配がないし)
大越は心の中で言葉を呟き、待ち合わせの場所に向かう。
あの場所は手入れもされてなく、更には人通りもない建物が二つあり、建物が生み出す隙間で隠れた話をするのに偶然適していたのだ。
建物は使われている様子も大越が確認できた範囲ではない様子で、どういう目的でここに残っているかは大越には分からなかった。
再度、大越が周囲を見渡しても、人の気配がないほどにだ。
大越は隙間を通っていくと以前話をしていた場所に愛川はまだ来てなく、大越のみが存在することになる。
「時間はまだ早いようだし、待っていようかな」
スマホの時刻を確認して大越は時間に余裕があることを言葉に出す。
そして、少し時間を過ごすと足音が聞こえて、愛川が来た。
「あ、来海ちゃん。早く来たんだ」
「うん。あと、周りに人はいなかった?」
愛川の声に応じて、大越は質問をする。
質問に愛川は二回縦に頷いて答えとした。
「じゃあ、ここで話して大丈夫だね」
「ところで今日の話って何? ここで話すことっていうと……」
周囲の確認を大越は声にも出すと、次は愛川から質問が来る。
「そうね、二人だけにしか話せないこと、化者絡みのことね。特にあなたのことについて、ね」
大越の返答に愛川は疑問の表情で自分自身を指差す。
「愛理栖ちゃんはね。勝手に化者の事を他の人に言いそうだから、私が他の人に言ったことを確認してあげるの。私のこともばれる危険もあるし、そうすれば大丈夫でしょ」
「そこまでぇ? 大丈夫だし、必要ないことだと思うけど……たぶん」
大越が細かい補足をすると、愛川は話の重要性に疑問を投げる。
愛川は疑問を投げたが、必要な話だと内心では分かっているようで愛川が視線を逸らして申し訳なさそうな声色なのが、心象の証となる。
前回のサークルの話し合いで大越も知らないことを愛川が勝手に話したことを悪かったとは思っているようだ。
「いいから、話しなさい。まずは私のいない間に会った人を話す」
「あ、はーい……」
大越は距離を詰めて、やや強い口調で愛川に要求する。
愛川は渋々と要求を受け入れた。
「まずは、サークル活動があった日に……いや、私と愛理栖ちゃんが初めて話して、別れて以降のことから話してもらうわ」
この大越の言葉から愛川は会った人について話すこととなる。
「……これで全員かな」
愛川はあの時から会った人について話し終えた。
大越の聞いた範囲では柄池と他サークルの人たち、同学年の人から話しかけられたとのこと。
「聞いた範囲では大丈夫そうね」
そして話の内容自体も大越は確認を取り、問題ない話だとも愛川に伝える。
「ただ……心配事はあるのよね、柄池君のことで」
大越は顎に指で触れて、上半身を横に少しだけひねりながら心配を言葉にする。
愛川は心配事の内容が思い浮かんでなさそうな表情である。
「一緒に勉強することはいいけど、龍富君と一緒の場合もあるってことは不安なのよ」
不安内容を大越は愛川に説明する。
大越は柄池と愛川だけであれば、最悪の状況はすぐに起こらないと踏んでいるが、龍富までいる場合は最悪の状況も大越がいない間に起こるかもと踏んでいる。
愛川の正体がバレて揉め事になるという最悪の状況を。
「あー……確かにありえるけど、うん、大丈夫だよ、きっと……」
「愛理栖ちゃんが慎重にことを運んでくれるなら、ね」
愛川は問題にしてないと口にすると、大越は視線を愛川に戻して言葉を向ける。
それに応じて愛川は苦笑いの声で返事をする形となる。
「私も同行なんてことはさすがに良くないって分かるから、今のところは私からこれ以上の関わりはしないわ。慎重に行動すること」
「あ、はーい」
大越の対応は取り敢えず様子見と伝えると、愛川は不安が外れたことがわかるくらいに明るい声で返答する。
(いまはこの段階でとどめておくか)
大越は心の中で妥協を声にする。
このままほっとけない状況へと変わるのであれば、もっと踏み込んだ行動へと移るかもしれないが、愛川のことも考えてまずはこのままという行動にした。
「それにしても、愛理栖ちゃんって触れた相手の気持ちも分かるんだね」
「そうなの。あ、でも、私の意思で読む読まないは制御効くからそこは安心してね」
大越は片付けた話題から愛川のことについての話題へ変えると愛川も続いてくれた。
「その力って誰かから使い方を教えてくれたの?」
「半分くらいは自分の力でなんとかしたよ。後は理子お姉ちゃんからアドバイスを受けて使える形へいけた感じ。お姉ちゃん二人いて、二人ともサキュバスだからね」
「ああ、そうやって身につけたんだ」
疑問を投げた大越は愛川の答えに納得の言葉を出す。
「私なんか両親揃って人間だったから化者としての力の使い方なんて教われなかったのよ」
「あー、それは大変……あれ? それって? 普通だったらどっちかが化者じゃ?」
大越が説明をすると愛川は気苦労を汲み取った声で返すも、すぐさま愛川の声は疑問の色へと変わった。
「普通だったらね。私は特殊な場合で、遠い先祖が化者だったの。言わば、後天的化者ね、私」
「そう言う場合もあるんだ。それじゃあ、力の使い方ってどうやって……?」
大越の説明は愛川に納得を生み出し、次の声としてさらなる疑問の声を生み出す。
「最初の体の異変が猫の声を聞けるようになったからね。詳しいことは周りの猫が教えてくれたわ、力の事、先祖の事と化者の存在も含めて」
「そっか……大事が立て続けでその時大変だったでしょ?」
大越の言葉に感じたことがあってか、愛川は心配の声を大越にかける。
その言葉をきっかけに大越から自らが大きく変わった。
あの日の記憶が意図せず、心をよぎっていく。
「……ほんとね、大変だったわ。世界が反転するってこう言うことだったのね。普通の人間かも意識する時間もなく異質の人間へと急に変わってしまったからね」
大越はかつての記憶をなぞるかのように言葉を紡いでいく。
病気かと思えばそれ以上に深刻なことで、化者だとバレればどんな過酷なことがあるかわからない以上必要以上に慎重にならなければいけなかった。
化者へと変わった日、あの日から大越は化者としての自分と一人で向かいあって生活しないといけなかった。
「……ほんと……大変なことだったな」
大越は視線を上へと外して、苦笑いと言葉で過去のよぎりを締めた。
ここで何を言えばいいか、戸惑っていた様子の愛川は口を開く。
「えっと……その……化者でもさ、普通の人間よりも出来ることは多いはずだし、普通の人間以上に楽しめることはきっとあるよ……多分だけど……」
愛川は大越の気苦労を取り除けそうな言葉を選んで口にしてくれた。
(……ああ、ダメね。愛理栖ちゃんに心配してもらうために話したわけでないのに気遣ってもらうなんて……)
内心で大越は重い雰囲気にしてしまったことを咎める。
ふとした思いで愛川にも重い空気に付き合わせてしまうのは流石に良くない。
「ごめんね、急に変な話にすげ替えちゃって」
「あ、私は全然構わないから。悪いことしたって思う必要はないからね」
大越は両の手の平を合わせて行動と言葉で愛川に謝ると、対して愛川は手を振って。
気に病むことはないと言葉でも意思表示をする。
そんな愛川の言葉に、幾らか気が楽になったのも事実であった。
「ありがとね。確かに化者になって以前以上に出来ることは増えたから、悪いことばかりではないわ。例えば、猫以外にも化られる姿があるってとこね。それと、猫になったときは体毛も自由に選べるところも」
大越は先ほどの振り返った。
記憶を払うように愛川へと言葉をかける。
「それと、この話から切り替えたいから、良ければだけど、ここに来た理由って何か教えてくれるかな?」
「いいよ。私のことも話しておきたいかなって思っていたから」
大越の提案に愛川は快く引き受けてくれた。




