サークルの出会い 13
夜の話、続きです。前半御堂視点、後半大空視点。
これでこの章の夜の話は終わりです。
御堂の方もまた他にもう一人一緒の部屋で寝ることとなっていた。
御堂の状況は寝間着替わりのジャージを着て既にベッドで横になっている。
「……」
同じ部屋の八雲も既にベッドに寝ている状態で部屋自体も真っ暗であった。
(俺じゃなくてもっとかっこいい人間がここにいれば、もっと話は有ったろうな)
御堂はベッドで天井を見ながら、呟いていた。
実質、八雲との会話は無いに等しく、自らの行動について等の当たり前のことを何回か話しただけだ。
(打ち解けた話なんて夢で見ることでもないしありえない話だ)
御堂は雑念を払うように思考の中で言葉を振るい、御堂は目を閉じて寝ようとした。
時間が経ち御堂の脳内は思考がぼやけ始めて、そろそろ睡眠に入ると自覚もできていた。
そこで御堂は違和感に気付いた。
何か御堂の体に力がかかるような感覚。
金縛りとは違う、だが、何か覚えのある感覚。
御堂が思い出したことはその感覚は人間から受ける力。
これは腕が誰かに上から押さえ込まれる感覚だ。
では誰だ。
「なんなんだ……」
御堂は疑問を口にして目を開ける。
そこにいた人物は予想外でもあり、ある意味、予想も可能の範囲でもある人物であった。
「……」
それは八雲であった。
八雲は御堂の顔を眺めて、仰向けの御堂の上部空間を占有していた。
「えっ!? いや……何やっているの?」
御堂はまさかの人物に驚きと疑問混じりの声を挙げる。
部屋にいる以上は八雲以外はありえないが、その八雲がまさかの行動に御堂は驚くしかなかった。
「こうしてみたらどうなるか気になったのと、後伝えることも忘れていたから」
八雲は先ほどの御堂の疑問に答えた。
表情は暗くて分からなかったが、笑みを浮かべているような印象を御堂は感じ取る。
さらに八雲は御堂の眼の前に人差し指をかざして見せる。
「伝えておくことだけど、私ね、これからあなたのことを」
続けての言葉で八雲は途中で途切らせてしまう。
次の言葉が思い浮かばないのか、八雲は御堂への視線を外して思考をしていた。
「えっと……なんという言葉だったかしら……ろ……ろ……ろっ……」
八雲は言葉を思い出そうと声に出して見るも頭までは出かかっている状況であった。
(何か俺もそれかもしれない言葉を出したほうがいいのかな?)
御堂は困った様子の八雲に何か助け舟を出そうか考えていた。
だが、何を言いたいか御堂も掴みかねている状況で下手に言ってまずいことになるのも八雲には悪い。
その思いから御堂は下手に言えなかった。
「あ、そうだ。ろっくおん! ろっくおんね。これから私はあなたをろっくおんしたからこれからもよろしく」
八雲は御堂にかざした手を再度かざしてようやく出た言葉で御堂に伝えた。
「ああ、それを言いたくて……え? 何で俺を?」
「あなたが面白そうだと思ったからよ。いい反応をするからね」
御堂の疑問に八雲は答える。
八雲の答えに御堂は腑に落ちない感情を覚えていた。
(俺って何か気に入られることしたか?)
御堂は疑問を内側に留めて思考していた。
今まで八雲にした行動でこんなことを起こす要因はあったかと。
「それじゃあ、伝えることは終わりだから、今日は休みましょう」
「あ……そうだね……」
八雲は御堂に告げて返事を聞いた後、自らのベッドへと戻っていった。
戻った八雲はシーツに包まり、就寝に移る。
(なんかあったかな。気に入られる行動……)
御堂は本来なら寝る行動に移りたかったが、八雲の行動の理由が気になり思考を巡らせていた。
その思考の末、一つの取った行動が御堂の頭に浮かび上がる。
(携帯の入力を手伝ったけか。でも、あれは大したことでもないし、それくらいで気に入られてもおかしいことだよな)
御堂の脳内で思い浮かび上がったことが、八雲に携帯の入力を手伝った件であった。
ただ、これは八雲の反応もわからず、更には兄に何度か携帯とスマホの扱いを教えたことがあるため、それから気に入られる反応を得ることは御堂には考えにくかった。
(これ以上考えてもダメそうだし。今日は寝たほうがいいかも)
結論が出なかった御堂は疑問への回答を諦めて寝ることへ専念した。
こうして御堂は夜を過ごした。
もう一つの部屋で大空は寝間着代わりのジャージでベッドの上に横になっていた。
「しかし、今日は予想以上にあっけなかったな。もっと戦っても良かったんだが」
横になりながら大空は言葉の最後に軽い笑いを付け足した。
「なんだ? 消化不良か? 元気なこって」
それを同じ部屋にいる古賀松は不満なのかと問いかけた。
大空は質問に応えようと体を起こす。
「まあな。合流後に先鋭体ってのと戦いを見るとね、あたしもいけるんじゃって思えてね。それからさ、消化不良なのは」
大空は会話とともに腕を回し、体もまだ動けると示した。
危険が及ぶということで合流後は龍富が戦いを引き受けていたのだ。
その戦闘で先鋭体との戦いを大空は見てから戦えない理由には、理解はありながらも不満は若干湧いていた。
「そりゃ、頼もしい。戦えそうなのはこのサークルでは貴重だしな」
「松も戦うことになるかもしれないけどな」
「かもな」
古賀松は戦力のことについて大空を評価し、大空は古賀松も戦力の一つと話すと古賀松はそれに同意した。
「これから強い敵が出て来ても任せられそうだよな、朱鷺子は」
古賀松はこれからのことでも期待を寄せる言葉を大空にかけた。
大空はその期待を受け入れようと、言葉を述べようとしていた。
(強い敵ねぇ……)
だが、大空は言葉に詰まり、内側で思い止まっていた。
実際に大空は龍富の戦いを見ていた。
化者慣れした者の戦いを。
少なくとも、化者との戦いは龍富の方が確実に強い。
その結果があってか、大空はこれからの戦いに不安がないとは言えなかった。
「どうかしたか?」
古賀松は大空の様子を見てか、疑問を投げかける。
確かに不安はあったが、とるべき手段は今の状況でも多様なうえに
実際にどんな敵が来るかもまだ分かってない状況で悩んでいてもみみっちい事である。
(これは今考えてもらしくないことだな)
大空は先程浮かんだ悩みを心の奥でなかったことにして済ませた。
「返事が遅れて悪いね。これから強い敵が来てもあたしが倒していくから心配ないさ」
「はは、ならいいんだ」
大空は心の迷いを言葉とともに消し飛ばすと、古賀松も笑いながら投げた疑問を止めにした。
「あと一つ言っておくけどな」
古賀松は横になりながら呟くように大空へと言葉を向ける。
「あんまり、無理すんなよ」
大空へと顔が見れないように背を向けて横になり、古賀松はやや神妙な言葉を向けた。
その突然変わった妙な雰囲気に大空は言葉に迷ってしまう。
「……えっと、その、なんか……お前でも、そんな言葉かけれるんだな、ははは……」
言葉に迷った大空はなんでもいいからと言葉を早急に選んだものの、一拍置いた後の結果は古賀松のため息であった。
「あのなーせっかくの心配をぶち壊された気分なんだけどなー。うんとか、そうだなとかそういった言葉が出なかったのかよ」
古賀松は起き上がるとともに大空に詰め寄りつつ、呆れと怒り交じりの言葉を放つ。
「な、なんだよ、悪かったな。突然空気が変わったから言葉に迷ったんだよ」
「ふふーん。そーか。それだったら特別にそういうことにしておいてあげるぜ。特別にー」
大空の言及に古賀松は見苦しい言い訳と受け取ってしまう。
言葉の後に古賀松は自分のベッドへと戻りつつ、勝ち誇った顔で大空の方へと一度視線を向ける。
その行動は大空の怒りを焚付けるのに十分であった。
「あ、その面気に入らないね。なんで、勝手に都合のいい解釈しているんだよ。あたしは本当に言葉が迷ったんだから。それだけは言っとくからな」
「おー、そういう時に朱鷺子はいつも照れ隠しするって分かってるんだぜ。ま、朱鷺子の意思は汲み取ってやるからこれで文句なしだろ」
大空は怒り交じりの言葉に古賀松のベッドに近づき、古賀松は颯爽とベッドのシーツをかけて言葉で強引に会話の止めを図る。
「その意志の汲み取りに問題があるんだけどなーお前、絶対に間違った汲み取り方してる。だから勝手に寝るな!」
大空は言葉とともに古賀松の肩を掴んで引き起こした。
こちらの部屋の就寝はもう少し後になってのこととなる。