サークルの出会い 9
今回のみ御堂視点です
古賀松の提案で大空と八雲、そして御堂は四人の組みとなって行動することになった。
(まさか俺に指名がくるとは)
御堂自身、自分がここで行動することになるとは思っていなかった。
御堂が残ると人数に隔たりもあり体力的にも余裕があって、ここでの行動に問題はないも、この組みでの行動に御堂は合わないとは思っていたのだ。
「所でサブローと聖華ちゃんはまだまだ歩ける?」
古賀松は先頭を歩きつつ、二人の方へ向き話を振った。
「ああ、大丈夫だ」
「ええ、まだ歩けるわ」
御堂が返答し、八雲も同様に返答をした。
御堂はまだ余裕もあり、今の状態で走っても苦にならないくらいである。
八雲も余裕の顔色を見せていた。
と言っても顔の下半分は本で隠れていて表情は分かりづらかったが、苦しい様子がないことは見て分かった。
「じゃあ、何かあっても動けそうか。マツが余計なことしたら怒鳴って止めても私が許すからな」
大空は笑いながら歩きつつ、話をしていた。
「おいおい、ひでぇこと言わないでくれよ。でも、俺が余計なことしないようにブロックしてもらうことに二人には期待はしてるぜ」
「え、ああ」
赤の他人にいえば怒られそうな話を古賀松は軽くいなして、御堂と八雲に話を振る。
御堂はその話に相槌を打った。
話の内容からして、古賀松と大空は長い付き合いがあると御堂は推測できる。
「ちょっと待った」
大空は後ろに手を出しつつ、低い声を上げた。
「いる」
大空は一言だけ呟き、御堂は大空の脇から密かに覗き込む。
視界に入るはゴツゴツとした岩が人の形を象った岩の集合体が道を横断していた。
柄池たちの言っていた土の精と言われるものであろう。
その土の精はこちらに顔の正面と思われる部分を突如向けてきた。
「うわっ!!」
御堂は土の精の視線に驚きを受けて声を上げてしまう。
純粋な敵意の視線。
相手の顔は人間とは違うもの、今までに受けたことのない視線は御堂を驚かせて腰を引かせるのに十分であった。
すでにあちらはこっちの存在に気づいて、重い音を立ててこちらに向かっていた。
「ま、このまま迎え撃つのも、あたしにはあっているけどね」
大空の声は怯えた色が微塵もなくむしろやる気が溢れてるともいえた。
「あちゃー、奇襲って手もあったけどな」
「いいよ、このまま迎え撃つさ」
古賀松は残念の言葉を呟き、大空は今日手に入れた警棒を準備しつつ話した。
大空は気を落とした様子はないが、古賀松も言葉の内容とは逆の気分がにじみ出ていた。
「……その、済まない」
御堂は失態に対しての謝罪を低い声で表した。
ただ、その謝罪は誰が聞いたか、その空気を振り払うかのように大空は土の精へと駆けて行く。
「さて、どれ位強いか確認するよ!」
言葉と共に大空は警棒を横に振るう。
土の精は近づいた大空に拳にあたる部分で斜め上から殴りかかった。
しかし大空は警棒の手を途中で止め、姿勢を低くして土の精の拳と反対方向の脇に潜り込むことで拳の届く範囲から逃げた。
「そらっ!」
声と共に地に手を付けて、大空は蹴りを土の精の脇へと差し込む。
これを受けた土の精は少しだけよろめくが、すぐに態勢を整えられる。
「小手調べだったけど、やっぱり手応えはほとんどないか」
大空は予想できていた内との言葉で攻撃を締めた。
喧嘩慣れしていると話を自らしていたが、ここまで余裕のある対応が出来ているとは御堂は思わなかった。
「どうだ? 俺も助太刀したほうがいいか?」
「いや、あたし一人の方がいい。あっちの一撃は重いし、硬いから下手に手を出す方が危ないよ」
古賀松は警棒を取り出しながら大空へと言葉をかけると、広げた掌を古賀松の方へと向けて大空は制止の意向を伝える。
土の精の攻撃をかわしながらの言葉だ。
「そっか、なら手を出すまでではないか」
古賀松は声と共に一歩下がると大空は警棒にスイッチを入れた。
すると、警棒は青い電流をまとい始めて、破壊力を研ぎ澄ませたようにバチバチと警戒音を撒き散らす。
恐れることがあるかわからないが、土の精はそれに怯えることなく、大空に殴るもその動作よりも早く警棒の突きを土の精に向けた。
「そらっ!!」
大空は声と共に突きを当てると、土の精は大きくよろめいた。
先ほどの蹴りよりも効き目はあると土の精の反応が物語る。
「さて、まだまだ電流が流れているからもう一発当たんなよ!」
大空は警棒で再度攻撃する準備を進めて声を上げた。
古賀松は戦いを見守るように眺めて、八雲もまた本で顔の下を隠して眺めていた。
御堂もまた何もすることがなく見ている行動しかない状態である。
土の精は再び重い腕を後方に下げて攻撃を仕掛けようとしていた。
その時、土の精の上半身が若干向きを変えたようにも御堂は感じた。
(……?)
大空への攻撃の予備動作の一つだと判断して気に留めてはいなかったが、御堂は違和感を感じていた。
その最中に大空は警棒での突きを繰り出そうとする。
土の精もまた応戦しようと拳を振るおうとした。
その拳は大空に向けてはいなかったが。
「え?」
土の精が御堂の方へと腕を振り下ろすと、御堂から不意をつかれた言葉が飛び出す。
そして、振り下ろされた腕から分離した岩三つが飛んでくる。
それは離れた御堂へと向かっていった。
「あ……」
飛んだ岩を視線で追った大空は飛んだ先を見て声を漏らす。
御堂は速度のある岩が来ると予測出来なかったことから、避ける動作を取れずにいた。
「避け--」
古賀松から指示が来る。
それでも飛んだ岩は古賀松の言葉を途中までしか言わせなかった。
「うわぁっ!!」
御堂は声と共に上半身を強引に後ろに倒した急な動作で受け身なく地面に倒れ、
背中に痛みを感じる。
しかし、痛みはそれだけで岩を寸のところで交わすことは出来た。
(危なかった……)
御堂は空を見上げて危機を去った。
感傷に浸かっていた御堂が一息着いた後に電流が走る大きな音が聞こえて、岩が崩れる音も耳に入った。
御堂は突然の危機回避にしばらく起き上がれなかったが、後に御堂の耳に徐々に大きくなる足音が聞こえてきた。
「大丈夫?」
しゃがみながら御堂の顔を覗き込み、声をかけた人は八雲だった。
「……あ、ああ、かなり驚いたけど」
御堂は質問に答えたが、まだ立ち上がることは出来なかった。
「おいおい、危ない避け方だったが、立てるか?」
「ああ、そろそろ立てるはず」
古賀松の心配の声も御堂の耳に入るが、御堂は手を地につけて声を上げた。
そして、ゆっくりと上体を起こして上半身だけでも動かせることを表す。
古賀松もそれを見て安心の息を吐く。
「こっちは終わったけど、御堂は無事かい?」
「この通り、無事ではあるかな」
大空の問いに御堂が答えると大空もまた安心の息を吐いた。
「しかし、驚いたもんだな。自分の一部を投げ飛ばせるとは。あたしに投げるならまだ対応出来たけどこうもなったとはな」
「俺に投げて来るとは思わなかったよ、本当に」
大空の会話に御堂は返答した後乾いた笑い声を出した。
古賀松はポケットを探る動作を見せると、取り出して耳元に当てた。
「どうかした、柄池? ああ、こっちは土の精を倒したところだ」
古賀松に電話が来たようだ。
相手は柄池のようだ。
「そんな声を出すなよ。朱鷺子一人でやったんだぜ。すごいだろ」
柄池が結果報告に驚いた様子が声から分かり、古賀松は電話を通じての会話を続ける。
古賀松の声はどことなく喜びや誇らしげな感情が混じっていた。
「ん? そりゃ本当か? ……分った。伝えておく」
古賀松の疑問と思考の後、声に神妙な色が染まったようであった。
「おい、みんな。一度撤収だってさ」
古賀松はスマホを切りながら、他の皆へと告げた。
何か柄池に言われての行動だろう。
それに対して大空が先に声をかけた。
「なんかあったのか?」
「それがさっきのよりも厄介な敵が出たってことでな。引き返したほうがいいって柄池が」
大空の疑問を古賀松は会話の内容も踏まえて答えた。
御堂は動けるようにと立ち上がる動作に入る。
「そう言うんじゃ、引いたほうがいいかね」
「わたしは撤収でいいと思うわ」
大空、八雲は意見に同調することになる。
「俺も異議はないかな」
御堂もこの意見に問題はなくそれを言葉にした。
「じゃあ、撤収撤収。怪しい所には手を出さないようにな」
上にかざした手を振って、古賀松は撤収の声を上げる。
八雲は本を持ちながら元来た道へと方向を合わせて足を進め、大空も同じ方向へと進行した。
御堂も同様に行こうとはしていたが、足が重く歩みが止まっていた。
(結局、足を引っ張っただけだな)
御堂は今回の失態を心で浮かべて、反省していた。
御堂のやったことは相手にこちらの存在を気づかせ、奇襲の機会を奪って攻め込ませただけだ。
このことで御堂は重い気持ちを抱えることになる。
その間、古賀松は御堂のそばにより御堂の耳の近くへと移動した。
「ちょっといいか?」
「え? なんだ……?」
古賀松は小さな声で会話を始め、御堂も会話で状況を察して小声で会話し始める。
「聖華ちゃんのスカートの中は見えたか? 結構短いスカート履いてたからどうかと」
「ばっ! そんなの見えるか!」
古賀松のしょうもない話に御堂は小さいながらも強い口調の声で否定する。
それを聞いた古賀松はホッとした息を吐き、話を続ける。
「こう言う反応ができるってことは思ったより元気そうだな。浮かない表情だったから気になってな」
古賀松の言葉に御堂は視界を逸らして、今までの表情を知られたことに気づく。
「その……なんか悪いな」
「気にするな、今とさっきのことも含めてな。運が悪いや、気分が優れないやでやってしまう失敗もあるから、次から頑張って行こうぜ」
そう言いながら手を上に降りつつ、大空たちが歩いた方向へと歩いて行った。
(マッツて言うのは思ったより悪い奴じゃなさそうだな)
御堂は思った言葉を内に留めて評価をした。
表面上では軽率な人間に見えるが、中身は割と他人の内面に気遣える人間の可能性があった。
「おいおい、ぼっとしてるとはぐれるぜ。他の二人は先に行ったぞ」
「あ、ああ。今急ぐから」
古賀松の声に御堂は急ぐことを伝えて足早に移動した。