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退魔士試験 11

大越視点

「よくも、俺の手を血で染めやがったなぁ!」


 赤田松はその言葉と共に別の手でポン太を払ったのであった。


「ポン太!!」


 大越の言葉からポン太の名が出る。

 払われたポン太は受け身もとれず、地に伏せることとなる。

 まだ、ポン太には息があるようだ。


「下手な真似しなければ、こんな目に合わなかったのによ。俺の手をこんなにまでしやがって……」


 赤田松は手を前に出してポン太から受けた損害を言葉と共に周りに見せつける。

 そこで、黄菊松から声が挙がる。


「赤田松の旦那、いいですか?」


「なんだ? 俺の気分もまだ完全には晴れてねぇんだがよ」


 一言あると黄菊松からの言葉に赤田松は何かと言葉の受け入れを示す。

 気分は晴れてないと言いながらも、赤田松は苛立ちはそれほど見せずに黄菊松の方を見る。


「化けた旦那の手は元からその色ですし、血も出てません」


 黄菊松の追及の言葉。

 確かにポン太から噛まれていたものの、赤田松の手から血は少しも出ている様子はない。

 元から赤い手だったのもあるが、大越の嗅覚からも察するに血の匂いは確かにない。


「……」


 赤田松は無言で噛まれた手を自らの視界に持ってくる。


「この猫は本当にやってくれるな。俺たちの隙を狙って船の猫を逃がすなんてよ」


 噛まれた被害についての言葉はなかったかのように赤田松は言葉でも振舞う。

 大越も何か言うべきかと思ったが、とりあえず何も言わない方がいいと判断する。


「それに全員が逃げたわけでもないし、まだそっちの二匹もいるからな。こいつら捕らえれば逃げた損失もチャラだ」


「まぁ、そうですね。たぶん」


 逃げた分は何とかなると赤田松は失態に対してのフォローをすると、黄菊松も一応の同意もする。

 赤田松の確信の表情に対して、黄菊松は微妙そうな顔であったことは大越には何も言えなかった。

 ともかく、新井兄妹もこのままだと捕らえられることは確定なので、危機的な状況に変わりはないのである。


(このまま待っても、龍富君たちは来ない可能性が高いし、私がやるしかない……)


 状況の整理のためと、大越は心の中の言葉とともに呟く。

 最悪なパターンは龍富たちが来る前に、大越も含めて新井兄妹がさらわれるということ。

 近くには愛川もいるが、最後の最後まで愛川をこの戦闘に加えることは控えた方がいいだろう。

 愛川の銃の技術もそうだが、最悪なパターンに備えて、愛川をこの場に残した方が最悪な状況を挽回できる可能性が上がるためだ。


(それに、この状況をこれ以上黙っているのはもう遠慮したいのよね! ポン太も他の猫もあんなことをされちゃ!)


 大越は銃を再度構えて心の言葉を呟く。

 銃の残弾は後一つ、状況は危うい。

 だが、そんなことはポン太や新井兄妹のこの状況になった怒りに比べれば些細に見える。


 物陰にひそめる愛川は無言で大越を見上げる。

 私も出るべきかとの意思を持った視線で。


(大丈夫。まだ、待っていいから)


 その心の意思を大越は笑顔に乗せるとともに、愛川の前で手のひらを見せる。

 愛川は頷いて了解を伝える。

 するとこの状況で、ポン太から動きを見せた。


「ポン太……!」


 大越がポン太の名を呼ぶ。

 ポン太は立ち上がろうとしていた、足をふらつかせながら。

 ダメージはまだ残っているようだ。


「待ちなさい……! その痛みで立つのは……」


「いくら頑丈なあなただって……次攻撃されたら……どうなるか……」


 石動はポン太に向けての制止の言葉を出し、白根も次はまずいと話す。

 石動も白根もダメージが大きく、今は立ち上がるのも困難のようだ。

 それでもポン太はふらつく体をしっかり足で支えて、赤田松たちを見据える。


「フウゥー!」


 恐れの様子を微塵も見せずに、ポン太は威嚇の声を出した。


「ダメだよ……無理なんかしちゃ……!」


 威嚇した後のよろめくポン太に大越は無意識の内から言葉が出た。

 よろめいた後、ポン太は再度姿勢を立て直す。


「おし、ならば俺が直に相手してやろうじゃないか」


 赤田松はゆっくりと歩いてポン太へと近づく。

 それでもポン太は下がることなく、姿勢も変えなかった。


「ポン太! 逃げて!」


 逃げるよう大越は声を張る。

 残弾は一つ、しかも銃が効かない赤田松が近づく。

 大越は声を出す以外何もできなかった。


「おらよ!」


 声と共に赤田松がすくうようにこん棒を振るうと、ポン太は避けることなく宙を舞う。


「おっ、この行き先は……」


 額に手をかざして遮光しつつ、黄菊松はポン太のいく先を眺める。

 大越、石動、白根は唖然としていた。

 そして、愛川も我慢できなかったのか物陰から覗くように見て、光景に唖然とする。


 ポン太は声一つ出さずに飛ばされたこともあってだ。


「ナイスシュート。こりゃゴルフの才能あるかもしれませんね、旦那」


 宙を舞ったポン太は船上に落ちいていき、飛ばした赤田松の腕を黄菊松は評価する。

 落下するときには船と物がぶつかる音だけしかしなかった。

 まるで塊が着地したかのように。


「バレちゃ仕方ねぇ、実はゴルフの練習も密かにしてたんだよ。週4で練習してたんだ」


「お、そりゃすごいです! プロゴルファーも夢じゃないですよ! ははは!」


 その光景の傍、まるで部外者だと話しているかのように赤田松はゴルフをしていたと語る。

 黄菊松もプロゴルファーも行けると同じく部外者かのように話す。

 船の上で動かないポン太をあの二人は見て笑っていたのだ。


「……」


 大越は無言で視線を下げていた。

 怒りはさっきまであった。

 だが、その怒りも消える。


 大越は物陰を飛び越えて、着地をする。


「来海ちゃん……私も覚悟決めたから」


 愛川も同時に物陰から姿を現して、声と共に大越の隣に移動する。


「一つ、あんたたちに聞くわ。こんなことしてなんも思わない?」


 大越は視線を下げたまま、質問を投げる。

 怒りはない、だが、今までにない感情はあった。


「こんなことして、だって?」


「ないだろ? そりゃ草刈るのと同じ作業なんだしよ。この島は金になる草を刈って持っていくようなもんだぜ」


 黄菊松、赤田松の順に答える。

 二人は答えた後にまた笑っていた。

 何を言おうが、大越の行動は変わらなかったが。


「まさか……あなたたち?」


 白根は雰囲気で察したのか、言葉でも大越たちの行動を理解した。


「待ちなさい! 今あなたたちがそんなことをすれば、仲間がきたらどうするのですか!?」


「いいわよ。もう、私だって覚悟決めたんだから」


 石動の言葉に大越は静かな口調で答える。


「私が戦います! だから、あなたたちが本気を出す必要は!」


「バレる覚悟はもうできているから」


 石動の言葉に耳を貸さず、大越は話す。

 大越は赤田松たちを見据えた。


 横に位置する愛川も今まで見たことのない表情をする。

 きっと大越と同じ顔であろう。


「もう誰に見られたっていいわ、あの姿は」


「この姿を見られても、それでも……!」


 大越が一歩踏んで、声を出す。

 続いて、愛川も一歩踏んで、声を出す。

 そして、もう一歩を二人で同時に踏んだ。


「あんたたちに! 勝手なことをされたくないから!」


 大越と愛川は声と共に最後の一歩を力強く踏むと、共に化けた。


 愛川は翼と尾を出したサキュバスの姿を。

 大越は猫耳と鋭い爪を生やした人に近い猫の化者の姿を。

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