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天狗と誘拐と女性と 33.5

愛川視点

「悩み……ですか……」


 悩みが有ればと話すように後鳥羽は呼びかけて、愛川も言葉を出す。

 悩みに近いものは愛川の中にはある。


「あると言えばある……ような気もする。店長さんに話すべきかも……これは……」


「あら? なら話は聞くわよ。それじゃあ、後鳥羽ちゃんレジとか任せられる?」


 微妙な愛川の解答だが、それを近くに来た店長は話を聞くと言葉でも受け入れる。

 話だけでも聞いてくれればと思って愛川は言葉に出したのだ。

 それが良い方向にも向かってくれることはありがたかった。


「はい、少しの間でしょうし、任せておいてください」


「すいません。私のために……ありがとうございます」


 後鳥羽は仕事の方は引き受けると話し、愛川は二人に向けて頭を下げて礼の言葉を出す。

 それから店長と愛川は客席から離れ、別室へと移動を始めた。


「それじゃあ、休憩室の方で聞くわよ。こっち」


 愛川が店長の後をついていくと、店長は休憩室と書かれた部屋へ顔を向けて、ここでと話す。

 断る理由もない愛川は店長が部屋に入っていく様を同じように行動でなぞっていった。


「それで悩みは何かしら? 全部は対応できないけど、怪しい奴からの護衛は大歓迎よ」


「怪しい奴からってことではないです。ただ、どうしたら良いかって悩んでいて」


 愛川が入った事を確認した店長は部屋のドアを閉めて愛川の悩みについて聞き出す。

 護衛については違うと話して、愛川は悩みについても言葉に加える。

 休憩室は畳で覆われたところがあって二人はそこに座ることにした。


(店長が護衛してくれるなんて流石にないし、冗談として言ったんだよね)


 店長の話を軽く笑いながら、冗談と愛川の心の中で判断する。

 店長は割とぽわぽわした雰囲気の人でたまに休みについて間違う人である事から、店長が護衛は愛川として考えられなかった。

 このように悩みも対処してくれて良い人であるが、護衛としては申し訳ないが頼りないのが愛川が持つ印象だ。


「あら、そう。でも、話してみるだけでも気持ちは楽になるかもしれないから、ちょっとしたことでも話してみたらどう?」


「そうですね……実は気になる人がいるのですけど……その人、色々な人から誘われることに気づいてしまって」


「あらあら、それでそれで?」


 店長からの提案に愛川も答えると、店長は頷いて話をさらに受け入れると言葉でも示す。

 愛川の悩みは柄池のことで、理子に言われて何かしようとは考えていた。

 それで何をすべきかとまでは思い浮かばなく、悩んではいたが。


「私からも誘ってみようかと思うのですけど、何をすれば? って思って」


「そう言うこと。なら、うちに連れて来ても良いのよ」


 どうしようかと愛川は悩んでいる事を話すと、店長はすぐさま具体的な答えを出してくれた。


「え? 良いのですか?」


「うちは喫茶店よ、お客様を持てなさないと。それと、あなたの友人でしょうから、特別に何かサービスくらいはしても良いわよ」


 店長の店を巻き込んでの解決策に愛川は戸惑いと驚きの混ざった声を出して、店長はサービスもすると答えてくれる。


「店長。ありがとうございます」


「ただ悪いけど、サービス自体は何度もできないからね。お客様を連れてくるのは歓迎だけど」


 愛川は店長に頭を下げて礼を言う。

 店長は何度もサービスはできないと話すが、愛川には十分なサポートである。

 柄池には勉強の方でお世話になっていることから、それのお礼ということで店に誘ってもいいかもしれない。


「はい。こうして話を聞いてくれるだけでありがたいので、今回だけでも十分です」


「あら、そう。じゃあ、気になる人をまずは誘って、かしらね。うちは定休日以外はいつでもいいから、気になる人が来れそうなら私にも教えて」


 サポートは十分と愛川が話すと、店長はいつでも連れて来ていいとも話す。

 それに続けて店長はさらにと話す。


「ところで、よければ教えて欲しいのだけど……」


「はい? 何でしょうか?」


 教えて欲しいと言葉に出す店長に愛川は何かと聞き返す。

 ここまでしてもらった店長には割と余程酷いこと以外は受け入れられる状態であった。


「その人が気になる理由ってあるの? 私、気になるの、そこ」


「そこですか……」


 店長が聞くことは柄池が気になる理由、愛川も言葉に出せたが、無意識に当たり障りのない言葉で過ごす。

 話せないことはないが、話すとなると愛川自身恥ずかしいところもあった。


「えっと……その人、優しい人で私に対して最初ノートを見せてくれるだけでなく勉強も教えてくれるんです。それ以降も勉強を何度も教えてくれて、それと……せ」


 それでもと愛川は理由を話す。

 しかし、愛川には生命力を分けてくれそうだと口の中まで言葉がでかかっていた。


「せっ……せっ、く、世界を救いそうな人、それくらい心の広い人かもしれないって感じたんです」


 間一髪のところで、生命力という言葉を別の置き換えて愛川は話せたのであった。


「そうか、親切で優しい人なのね。ならこっちはフォローもするし、頑張りなさいよ!」


「はい! 頑張ります!」


 店長は激励をして、愛川はそれに言葉で答える形をとった。

 その後、今日の仕事は気合を入れて働くこととなる。

 結果は空回りも多かったが、周りは笑ってフォローもしてくれたのであった。

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