サークルの出会い 4
今回のみ御堂視点です
こうして今回サークルの初めての任務の話は終わった。
部屋割りについては柄池がくじを作って当日に決めると言うことに纏まる。
そして、今現在はサークルのメンバーで連絡先を確保していたところだ。
御堂は6人と連絡先を交換し、終わっていたところだ。
「しかし、サブローも大変なことになっているな」
「今まではきつかったけど、なんとかやってこれたからな。今回はもう、こうするしかないようだが」
御堂は柄池と連絡先を交換して軽く雑談をしていた。
雑談には御堂の境遇から両者苦笑いの表情であった。
「申し訳ないんだけど、今のところ、打つ手がなさそうなんで、うちの仲間ってことで我慢してくれる?」
「そんなに悪いことしたような顔はしなくていいさ。俺もどうしようもないのは同じだから」
柄池が両手を合わせて謝罪の意を込めながら頼み、御堂はそれを許諾する。
御堂としても柄池が悪い人間だと思えなかったので、少なくともリーダーの存在が厄介になるとは思わない。
そのため、ここにいて助かる部分はあった。
「後は八雲さんと連絡先を交換すれば」
御堂が交換していない人は八雲だけだ。
これが終われば解散ということになる。
他の皆は交換の時に雑談が長くなったのか、連絡先の交換自体が終わった様子に見えない。
少なくとも愛川と大越は2人ぐらいしか交換していないのに雑談続きだ。
御堂が状況について述べると柄池から反応があった。
「八雲さんと、かい?」
「ああ、他の人はもう交換済み」
柄池の確認に御堂は答えた。
「八雲さんだけど、俺がさっき行った時は後にしたほうがいいって言われてね、何か訳がありそうだったから後回しにしていたんだけど」
柄池は八雲について話しながら、八雲の方へと視線を送る。
御堂もその視線を追うと皆から離れたところで座って本を読んでいた。
「何か問題があったら聞いてくれると助かるんだけど、解決できそうにないって時は俺に話してみて、その時は俺がなんとかしてみるから。俺もまだ全員とはやってなくて」
「ああ、分かった」
柄池の頼みを御堂は了解し柄池は古賀松と大空、龍富のいる場所へと向かっていく。
龍富は古賀松に先ほどから捕まって会話に混ぜられていたようだ。
御堂は八雲の方へと歩いて行き声をかける。
「えっと、八雲さん……いいかな?」
御堂の声に八雲は本を見ながら応答する。
「あなたは他の人と交換が済んだようね」
「え? ああ」
御堂は八雲の言葉に意表を突かれた。
八雲の第一声は後回しにしてと言われるものだと思っていたからだ。
八雲は本を隣の椅子に置いて自分の服のポケットへと手を入れる。
「私ね、連絡先の交換を後回しにしていたでしょ。理由はこれなのよ」
そう言った八雲はポケットに入れた手を出して御堂に見せた。
それはスマホではなく二つ折りの携帯であった。
(これは何年も前の携帯だ……)
御堂の声は八雲を不快にさせないようにと内心に閉まった。
「この携帯のせいでね、連絡先の交換が手間取るのよ。終わった人からならその人にさほど迷惑をかけないでしょ」
「ああ、確かに……」
八雲の解説に御堂は納得する。
他の皆の交換状況を察するに終わった人から交換したほうが良さそうだ。
だが、その納得は完全ではなかった。
「って、ちょっと待って」
この話に御堂は待ったを入れた。
八雲は何かと言わんばかりの表情で答える。
「その携帯ってすぐ連絡先を交換できないのか、確認したいんだけどもしよかったら八雲さんの携帯を見てもいいかな? 八雲さんの携帯にある個人情報を見ることになると思うけど」
「良いわよ、大それたものは入ってないから」
御堂の頼みは八雲は抵抗なく受け入れた。
基本的にスマホは赤外線でお互いの連絡先を交換できるが、何年か前の携帯でもそれは可能なはずである。
わずかな可能性として八雲がそれを見落としているというパターンもあり得る話だ。
「じゃあ、ちょっと借りるよ」
御堂が八雲に手を伸ばすと、八雲は携帯を遠慮なく渡した。
御堂としても個人情報は記憶することは避けて、ざっと見るつもりだ。
御堂は八雲の携帯画面を見て連絡先の交換機能を確認する。
少しの間、御堂は携帯の操作をしていて確認の結果が得られた。
(これは予想以上に古い型だな……手入力でしか連絡先を入れることが出来ないタイプだ)
御堂は内心で八雲の携帯に驚くことになる。
あまりにも古い携帯でこれをどういう手段で入手したかが気になるくらいだ。
「やっぱり、八雲さんの言った通りすぐには交換できそうにないな」
「そう……」
八雲は御堂の報告を落胆した様子もなく、結果の確認を言葉にする。
ただ、今回の連絡先をすぐに入れる手段は断たれてはいない。
「良ければ、俺が他のみんなの連絡先を入れる?ここからは八雲さんの携帯の連絡先も俺が覗くことになるけど」
「あら、それじゃお願いしていい?連絡先は見ても構わないわ」
御堂の頼みをまた八雲は抵抗なく受け入れてくれた。
御堂は八雲の携帯に似た種類をよく操作していた時期もあって素早い情報入力も容易いことであった。
(でも、ここまで快く頼みを聞いてくれるなんて……)
普通であれば抵抗の一つもありそうな頼みであったが、御堂はここまですんなりいけたことに御堂は逆に不安になっていた。
御堂は八雲の連絡先の一覧を開くと、ここまで快く引き受けてくれた理由を大方理解する。
(連絡先が一人だけ……おそらく、携帯をほとんど使ってないから大切な情報もそれほど入ってないんだ)
御堂は言葉を心に留める。
八雲の携帯に登録された連絡先は一人だけ。
その連絡先も番号から見て使用できるか怪しいもの。
(この人って一体……?)
御堂は八雲に異質を感じていた。
連絡先が入ってないなら単純に友人がいないというよくあるパターン……ではないが、たまにいるようなそういう人だと察することが出来る。
しかし、一人だけの使えるかも怪しい番号がそのままあるということは御堂にとって疑問であり、八雲という人物への深い探求をそそる要素にもなっている。
(でも……あまり探るのはこの人にとっても良くないよな)
御堂は内心で自制をかけて携帯への入力に移る。
実際に御堂は探る手掛かりをこの手に持っているが、それから探ることは八雲にとっても気分はよくないはずだ。
言葉では了承をしているが、携帯を隅々調べることは周りから見てもいいものではない。
御堂は欲を操作で紛らわせて、制御を図った。
少しの間があって御堂は操作に集中し八雲への連絡先の入力は終わった。
「よし、終わったよ」
「あら、もう終わったの? 助かったわ」
御堂は八雲に終了を告げて、持っていた携帯を八雲に返す。
八雲はここまで早いものかと予想外の反応を言葉でも表した。
「あと、八雲さんの連絡先は俺が皆に入れておくから、これで相互に連絡が取れると思うよ。その方がいいよね?」
「ここまでやってくれるなんて助かるわ、ありがと」
御堂は他のみんなへの連絡先の入力もやると伝え、八雲はその礼を言う。
少なくとも、八雲よりは御堂の方が入力速度が速いことから、そしてさほどの労力を使うことでないこともあって御堂はこの手段を選んだのだ。
「それじゃあ、俺は八雲さんの連絡先を他のみんなに入れるから」
「ええ、お願いするわ」
御堂は八雲に離れることを告げて柄池の元へと歩みを進めた。
それに対して八雲は頼みを言葉で示して手元の本へと手にかけた。
それから、御堂は柄池に八雲とあったことを話して、みんなに八雲の連絡先を入れた。
そして八雲は部屋から出てもいい状況であったのだが、しばらくその場で本を読んでいて、御堂が部屋を出るまで本を読みつつ、その場で留まっていたのであった。