第1話 双子は唄う
都内某所のビルの屋上
「今日は誰を殺そうか」
「今日は誰を救おうか」
二人の少女は黒髪をなびかせながら獲物を探すような目で街を見渡す。
そしてゆっくりと「見つけた」と呟くと手を繋いでビルから飛び降りた。
「さぁ今日もダンスを踊りましょう!!」
「さぁ今日もアナタと唄いましょう!!」
そして二人は唄うようにこう言った。
「「【寂しい寂しいアリスベル。アナタの家には入れない。近寄らないで。近づいて】」」
「「【アナタは一人のアリスベル。独りぼっちのアリスベル。だからここには誰もいない】」」
数十キロに広がる魔方陣が写る。明るかった街が一瞬で光を失った。暗闇の中で少女はまた言葉を紡いだ。
「「【アナタは堕ちるのアリンシア。だけどアナタは大丈夫】」」
落下の勢いがなくなる。少女達はゆっくりと地面に落ちた。
「アナタが今日の相手なの?」
少女が目の前にいる男に聞いた。
男は口の端を吊り上げて頷いた。
「そうアナタも敵なのね。なら殺しましょうかアリス?」
「そうしようかアリア」
そして二人はまた手を繋いで男を睨み付けた。
すると男は笑って魔法を使い始めた。
「【アナタは唄うのアリスベル。アナタは笑うのアリスベル】」
「【アナタは止まるの何時までも。だから動くな動かすな】」
アリスが詠唱した瞬間に甲高い声が響い。そして男の足元にはアリアが唱えた魔法があった。
男はその場から飛び退いた。
アリアはそれを待っていたかのようにトドメの魔法を使った。
「【ワタシはウソつきアリンシア。だからアナタは正直者ね。アナタは正直者だけどたまにはウソもつかないと】」
空中にいる男の後ろに魔方陣が現れる。
「【ワタシはウソつきアリンシア。アナタは誰も救えない】」
魔方陣から黒い槍が飛び出てくる。容赦なく男を貫いた。
そしてどこからともなく声が聞こえた。終了の合図だ。
『勝利者 アリス・アリア。敗北者 栗宮徹』
その声が響いた時には少女達はもうそこにはいなかった