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「えぇっと……こう?」
「違う違う!! 本当にお嬢は料理以外不器用だなぁー」
既定の仕事を終わらせて、ハリネズミ一家の部屋に行くのがここ数日の習慣となっている。
祭りにただ料理を提供するだけでは、味気ないから、ハリネズミ兄妹にアクセサリー制作を頼んでいる。その手伝いをしようにも、私にはどうにも不向きなようだった。
彼らは小さな針を駆使してレースを編み上げ、木の実に纏わせていく。
その職人技に、私はすっかり目線を奪われた。
「お嬢がいると進まないから木の実探してきてよ。結構量がギリギリなんだ」
体良く厄介払いされた私は、少しふて腐れながら外に出た。
しかし、城の周囲にある木々は木の実をつけるような種類ではない。
しばらく探し回ったけれど、使えそうなものはなかった。
なんとリオに報告しよう……。手先も器用じゃなくて、木の実も見つけられない自分があまりにも不甲斐なかった。
肩を落としながら、城に戻るといつも以上に不機嫌なロージアが烏の姿で待ち構えていた。
今、彼と関わるには荷が重い。
気付かれぬよう、そっと階段を登ろうとするが、さすがに見逃しはされなかった。
「おんな、ねずみどもとあそんでたのしいか?」
「至って真面目なんですけど、楽しいですよ? ロージアさんも如何ですか?」
ふん、と鼻を鳴らしながら私の目の前まで飛んできた。
「いいかおんな、おまえはりょうりができるからなっとくした。だけどネズミどもはきらいだ」
「……でも、ハリネズミさんたちの作るものは本当に可愛くて。きっとロージアさんにも気に入ってもらえると思いますよ? 見てみます?」
私はすでに仕上がった品物を保管している場所までロージアを案内した。
予定の7割くらいは完成したチョーカーやブレスレット、ヘアゴムなどがラッピングを待つ状態で、箱の中に収まっている。
テーブルの上に箱を持ち上げ、その中から一つを取り出す。
深緑の木の実と白いレースのブレスレットは、ロージアの首回りにちょうどいいと思ったからだ。
「これなんて素敵ですよ?」
「や、やめろおんな!!」
少し無理矢理に、彼の首元に巻いてあげると、サイズもぴったり。色味もしっくりときている。
「うん、素敵です」
「あれ、お嬢とロージアさん、こんなところで何してるの?」
「!!」
新たな完成品をこの部屋まで運んできたリオとリコと鉢合わせた。
ハリネズミ一家とは殆ど関わりを持たないロージアはとても気まずそうにしている。
「ロージアさんにも、2人が作ったものプレゼントしようかと思って」
「へぇー、よく似合いますね。かっこいい!!」
リコがにこり、と微笑みながらそういうと、ロージアは突然羽を大きく広げ、レースを切ろうと暴れ回る。
「あ、ロージアさん!! 駄目です!!!」
その言葉も虚しく、彼の羽が、品物が入った箱にあたり、それは地面へと勢いよく落下し、中の物が飛び出す。
運悪く、その場所はロージアが暴れている場所で、追い打ちをかけるように乾いた音と共に割れる音が聞こえる。
慌ててロージアをその場から引き離し、品物を確認すると、そこにあるはずの木の実は半分近く粉々に割れてしまっていた。
「これは……どうにかなる?リオ」
「……無理だ。作りながら入れ込んだ物だから。それにレースはあるけど木の実は……」
ぐっ、と拳を握り、唇を噛み締めながら、必死に耐えようとしているリオ。
現状がまだ理解できていないリコ。
その二匹を抱えて優しく撫でてやる。
頑張ってきたものが目の前で一瞬で壊されることがどれだけ悲しいか、その気持ちに寄り添うことしかできなかった。
「……おれはわるくない」
「ロージアさん……」
「おれはわるくない!!」
そう叫びながら、勢いよく飛び立ち何処かへ行ってしまった。
残された私は、2人には見えないように抱きしめたまま、その場に散らばる残骸を拾い集めた。