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けれど、その日の夜。いくら待てどもレヴィナギア様は帰っては来なかった。
部屋の中にいるかもしれないと何度かノックをしてみたけれど、その音は消えていくばかり。
そのまま扉の前で眠ってしまった私の肩には、ブランケットがかけられていた。きっとハリコさんが掛けてくれたのだろう。
後でお礼を言わないと……。
自室に戻る前に、もう1度扉を叩いた。
それもただ虚しく響いただけだった。
その後、いつも通りに仕事をこなしても、食事の時間になってもレヴィナギア様は姿を現わさなかった。
こんなことはここに来てから初めてのことで、私もハリネズミ一家も状況が理解出来なかった。
ただ、ロージアから一言、
「レヴィナギア様は暫く身を隠される」
との事だった。
私の中に湧いてくる謝罪の気持ちも、疑問も何も解決ができないまま、数日が過ぎた。
あの日、扉の前で眠ってしまった私にブランケットを掛けてくれたのはハリコさんではなかった。
まさかと思い、ロージアに聞いてみると
「あ、あぁ…!!俺だ!!どうだ優しいだろう!!」
と、どこか不審に答えてくれた。
あまり好意を持っていない私に、親切をするのが本当は嫌だったのだろうか。
それでもお陰で寒い思いもせず、風邪もひかずにいられたことに感謝をした。
一日の仕事を終えて、いつもより少しだけ早く自分の部屋に戻り、いつもの紅茶を入れながら、この先どうしたものかと考えた。
ロージアにいくら問いただしても、レヴィナギア様の行方は教えてくれなかったし、理由も教えてくれなかった。
砂糖を入れようと、棚に手を伸ばすと小さな箱が目に付いた。
これは、この城に来た日にケーキを送られた魔法のかかった箱だ。
中を開くと、私の送った筈のお礼の手紙はなくなっていた。それはきっとレヴィナギア様の元へ届いたからに違いない。
そこではっ、とした私は近くにあった紙に走り書きをした。
ただ一言、《会いたいです》と。
祈りながら箱を閉じると、数秒後、天井からガタッ、と床の軋む音が聞こえた。
私の部屋の真上は……レヴィナギア様の部屋だ。
今なら、きっと会える。そう思うと自然と部屋をかけだしていた。
「レヴィナギア様、私です!! 扉を開けてください!!」
「……」
「いるのは分かってます!! 開けてくださらないのなら……蹴破りますよ?」
私が勢いをつけようと数歩後ろに下がると、扉がかちゃり、と小さな音をさせて、申し訳なさそうに少しだけ開いた。
部屋の中は以前入った時との違いは無かったけれど、こちらに背を向けているレヴィナギア様の周りを黒の半透明な結晶が覆っている。
それが西日に当たり、キラキラと輝くのが綺麗でもあり、寂しさを感じさせた。
「レヴィナギア様、どうして姿を隠されていたのですか……?」
「……」
「お話下さらないと分かりません。私はただ、貴方と会って話がしたかったんです」
「……ヨナミ、私が怖くはないのか?」
ゆっくり振り返ったレヴィナギア様の顔を見て、私は目を見開いた。
いつもロージア達の前で見せてきた威厳などどこかに消えて、ただ不安が染め上げていたからだ。




