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ロージアへの罰も解けた頃、私は今の生活に順応していくのを感じていた。
元の世界にいた頃より、自分の時間を持てている。けれどそれと同時に、手持ち無沙汰でもある。
1日1回、少量のご飯を作るだけで、自分の存在価値は満たされてしまう。果たしてこれでいいのだろうか。
すっかり社畜根性が根付いている私には、それがどうにも納得がいかなかった。
レヴィナギア様の魔法により、常に整えられたこの城は、料理以外には本当に何もやることがない。
「……なにか副業でもしようかな」
そう思案しながら、いつも通り厨房へと向かった。
厨房に入ると、勝手口で仁王立ちしているロージアが視界に入った。
今日も人の姿の彼は、私からは見えないものに、酷くご立腹だった。
「全く、レヴィナギア様の許可もなくこの城に入ろうとは……次に来たら家族諸共つつき回してやる!!」
「違うんです!! わたくしめ達は、そちらの人間のお嬢様に用があった為、馳せ参じたまで。どうか面通りの許可を」
すっ、とロージアの横から顔を出すと、ハリネズミの家族が4匹が立ちながらこちらを見上げていた。
見た目はごく普通のハリネズミでも、恐らく彼らもまた魔族なのだろう。
「私に用とは?」
「おい女、この城の中に入れることは許さないぞ!!」
私との会話を意地でも断絶させようと、無理矢理に勝手口を閉めようとするロージアを必死に制止する。
私が作ったものを毎日食べているせいか、魔力が増した状態を安定させた為、こうして人の姿でいることが増えた。
それが、今ほど厄介で面倒臭いと思ったことはない。
「私が外に出ますから!! ロージアさんは引っ込んでてくださいっ!!」
なんとか体をすり抜け外に出て、乱れた息を整えたあと、家族の中でも一番大きいハリネズミに声をかけた。
「……何だかすみません失礼なことを」
「いえ、こちらも突然押し掛けてしまい申し訳ありませんでした」
ぺこりと、礼儀正しくお辞儀する様子を見て、ぜひロージアに爪の垢を一年分でも今すぐ定期購入して飲ませてやりたいと思う。
魔界にも常識を兼ね備えた魔族が住んでいると知って、ほっとした。
「人間のお嬢様がレヴィナギア様のお城に滞在されているという噂を聞きまして、どうかお願いを聞いてくださらないかと思い、家族でやってきたのです。どうか……私の子供を救ってやっては下さいませんか?」
母ハリネズミはそっと、手に持っていた布をめくると、そこには気持ちよさそうに眠った子供のハリネズミがいた。
その子を私の方へ差し出すので、優しく慎重に受け取った。
「この子は生まれてから1度も目を覚ましません……。実は、前にレヴィナギア様にお願いして診て頂いたんですが悪いところは見つからなくて……心因性の何かが理由だろうということでした。
そういうこともあって、あまりレヴィナギア様に面通りのお願いもしづらくて……」
「私にお願いというのは……料理ですか?」
「そうです。そのお力があれば、この子も目を覚ますかもしれない」
未だに、何故私が作るものが魔族にそんな効果があるのか分からない。
分からないけれど、私の手でこの家族が幸せになるのなら、迷いはなかった。
「分かりました、作ります。もちろんレヴィナギア様にも内緒で」




