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第2話



「どういうことですか?」


 少し間が空いてから、私はそう尋ねる。そう尋ねるしかなかった。


「仕えるという言い方が悪かったかな。僕の元で仕事をしてほしいということ」

「仕事を……」


 悪くないかもしれない。そう思った。ちょうどこれからどうしようかと考えていたところだったのだ。生きていくには、お金を稼がなければならない。私はもう一人ぼっちなんだし、稼げるのは私しかいない。特にやりたい仕事も見つからなかったし、そう言ってくれるのならば……


「仕事ってどんな内容なんですか?それによって決めようと思います」

「仕事内容は簡単なものだよ」


 そう言って男性が取り出したのは、真っ白な本。


「この本を配るだけだよ」

「その本……!」

「そう。君がお祖母さんからもらった魔法の本と同じものだ」

「えっ?」


 同じものって……魔法の本ってそんなにたくさん存在するものなの?

 その時、私はあることを思い出した。かつての夫であったアランの言葉だ。確か、アランに魔法の本のことがバレた時、彼はこう言っていた。




『魔法の本の存在は知っていた。この世に存在するってことはね。でも、それをセシア……君が持っていたとはね』



 この発言の意味を、私はしっかりと理解が出来ていなかったのだ。きっと彼は、いくつか存在する魔法の本の内の1冊を、私が持っていることに驚いていたのだ。


「流石はセシア。理解が早いようで何よりだよ」


 私の顔を見て満足そうな笑みを浮かべるその人。その笑顔に背筋が冷えるのが分かった。


「この世に魔法の本は3冊存在する。その内の1冊は君が。あとの2冊はまだ僕の手元に。つまり、残りの2冊を誰に渡すか、1冊目の所有者であった君に見極めてほしいんだ。君以上の欲望を叶えようとする人物を。そして、その人にこの魔法の本を渡し、監視を続けてほしいということだ」

「……監視?ということは、私がその本を持っていた時も知らない内に監視されていたということ?」

「当たり前だよ。まあ、君の場合監視は最初の方だけで十分だったみたいだけどね。そうだろ?」


 彼はそう言いながら、再び小鳥たちを撫でる。


「……え、待って。もしかして、その小鳥たちが私の監視役だったってこと……?」


 私の言葉に、彼は意味ありげな笑みを浮かべる。小鳥たちは俯いてしまっている。


「そうだよ。君のお祖母さんに……魔法の本を渡したのも彼女たちだ。」

「……う、そ。待って、じゃああなたたちは初めから私たちがこうなってしまうことを分かってその本を渡したっていうこと!?」

「初めから分かっていた訳じゃないよ。ただ、この子たちは僕の為にこの本を渡したんだ。君のお祖母さんにね」

「お祖母ちゃんに……?」

「そう。本来のターゲットは君のお祖母さんの方だったんだ。それなのに彼女は、その魔法の本を君に渡した。足の不自由な、外にも出られない、一切友だちもいない……可哀想な君にね」


 頭がうまく働かない。


「彼女は本当に優しそうな人だった。だからこそ、可哀想な君の為にと色んな願いを書き込むと考えていたのだけど、予想を遥かに上回っていたよ。欲望にまみれた君に渡すとはね」


「……やめて」


「この本をお祖母さんが所有していたらどうなっていただろうね」


「やめてよ」


「きっと今とは違う結果が待っていたに違いない」


「やめてってば!!」


 私が大きな声を出したことで、彼はまた笑顔を浮かべていた。何もかもを見透かしたような目。情けなくて、目に涙が浮かんできた。


「帰ります」

「何言ってるの。帰ったって無駄だよ」

「無駄じゃないです」

「無駄だよ。だって帰っても君に希望はないし、待っているのは孤独だけだ。僕の言葉を毎日のように思い出しては、もがき苦しむだけだ。」

「……」

「どうせ同じようにもがき苦しむのなら、僕の元でそうなればいい。そして、その恨みを次の魔法の本の所有者に向けるんだ」


 悪魔の囁きは止まらない。


「セシア」


何も聞きたくない。でも耳を塞ぐことすらままならない。その人は、そのまま私の側まで来ると耳元で囁いた。


「僕に仕えろ」


 魔法がかかっているかのようなその言葉。ずっしりと私の中に沈んでいく。そして、私の心はその言葉に縛り付けられてしまった。

 自分で意識しないままに、こくんと頷いてしまっていた。耳元で彼がフッと笑うのが聞こえた。きっとその笑顔はひどく美しいことだろう。彼は、私の頭をポンと撫でると呟いた。


「よし、良い子だ」


 こうして、私の新しい生活が始まるのだった。



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