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第1話


「……確かこの辺に」

「ちょっと……!もう少し急げないの?」

「待ってよ、あと少しだから」


 自室から聞こえてくる、ひそひそと話をする声。……おかしいな。自室というか、この家には私しかいないはずなんだけど。

 ということは、つまり……泥棒?


「あった……!これだ」


 何かを見つけた様子。やっぱり泥棒だ。

 危機的な状況だけど、落ち着いている自分がいた。もう少しここで聞き耳をたてておこうか?それとも……


 ガチャンッ!!


 思いきり音を立てて扉を開くと、固まる2人と……いや、固まる2羽と目が合った。


「何してるの」


 私の言葉に2羽はごまかすように笑顔を作る。何も答えようとはしない。2羽から目をそらすことなくさらに尋ねる。


「分かった、質問を変える。それをどうしようとしているの?」


 小鳥たちが必死に隠そうとしているのは一冊の本。タイトルも何も書かれていない、少し薄汚れた本。その本は、私の祖母からもらった……


「その本だけは渡さないから」

「……わ、渡さないって……まるで私たちが盗もうとしているような言い方じゃない」

「盗もうとしてるでしょ」

「そんな冷たい目で見ないでよ。私たち友だちでしょ?」

「友だちなら、どうしてその本を探していたのか……教えてくれるよね」


 重い空気のまま会話が途切れてしまう。小鳥たちは、お互いに目を合わせながら焦っている様だ。私はいまだに2羽から目をそらさずに、鋭い目付きで睨み続ける。


「ねえ」


 私がもう一度口を開くと、小鳥たちはその本からようやく離れた。そのまま、その本を取りに行こうとしたその時──


「──教えてあげるから少し眠っていて。セシア」

「へ?」


 すると、急に視界が眩み、私はその場に倒れ込んだ。そのまま意識が遠退いていく。小鳥たちが、再び本の上に乗ったところで私の意識は途絶えた。



***



 少しだけ前のことを思い出していた。願いの叶う本を、祖母からもらった時のこと。その本に願って、動かなかった足が動くようになった。初めての友だちができた。外に出ることができるようになった。一生を共にしたいと思える人に出会い、そして別れた。あの本のお陰で色んな経験をした。


 そして、あの本のせいで私は全てを失った。


 私の夫になったあの人も、私の大好きだった祖母も……。皆いなくなった。私は、一人ぼっちになってしまった。


 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 全てはあの本のせいだ。そう考えてしまうから、私はいつまで経っても変わることができない。

 それなら私はどうすれば良かったの?もっと、誰かの為になる願いを叶えてもらえば良かった?一気に願いを叶えてもらわず、少しずつ叶えてもらえば良かった?……そもそも、あの本に、魔法の本に出会っていなければ?


 考えても考えても答えは出てこないし、もう過ぎてしまったことだ。私はこれから、後悔の日々を送るしかないのだ。魔法の本はもう使えないし、私のまわりには誰もいないのだから。

 結局私には華やかな生活より、地味な生活が似合っているのだろう。

 だから、これは仕方のないことなの。


 そこまで考えていた時、パチリと目が開いた。


「……え?」


 そのまま辺りを見回す。全く身に覚えのない場所だ。部屋の中にいるようだけど場違いだよね?高級そうな絨毯に、家具の数々。大きいサイズのベッドは、私の体を優しく包み込んで離さない。

 とりあえず、上半身を起こしもう一度周りを確認する。何度見ても見覚えのない景色だ。

 何をしていたんだっけ?確か、自分の部屋に入ろうとした時に話し声が聞こえてきて、それで中に入ったらあの小鳥たちがいて……


 ガチャリ


 重たそうなドアが静かに開く。とっさに寝たふりをしようとしたが間に合わず、そのままの状態で扉を見るしかなかった。


「目が覚めたんだね」


 優しい声色に少し安心している自分がいた。扉を開けたのは、やはり知らない人。スラッとした体に、きれいな銀髪。どこか落ち着きのあるその男の人。男性だけど、本当に綺麗な人だ。この人一体何歳なんだろうか。私より若くも見えるけど、同い年くらいかな?よく分からないな。

 そして、その男性の肩で何かが動いているのが見えた。何だろう?そう考えていると、それが遠慮がちに私の方を覗き込んだ。


「あ、小鳥たち」

「セシア乱暴なことしてごめんね」

「ごめんなさいね」


 知った顔が見えたことにさらに安心する。いや、でもその知った顔に拐われたのだから本当はもっと焦るべきなのかもしれないけどね。

 私がそう考えていた時、男の人が口を開いた。


「セシア、君のことはこの子たちから聞いていたよ」


 そう言いながら、愛しそうに小鳥たちを撫でる。映画のワンシーンみたい。この人動作の一つ一つが綺麗だ。女の私が嫉妬してしまうほどに美しい。


「君は僕の側にいるべきだ」

「……へ?」

「だからこの子たちと同じように僕に仕えてくれないか?」


 彼の言葉に、私はしばらくの間開いた口が塞がらなかった。



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