未熟な作家から、愛すべきキャラ(バカ)達へ
「おいおい、こんな内容だから売れねぇんだよ」
「貴方、自分の才能の無さを自覚してはどうかしら」
もう、こんな調子で一時間なじられっぱなしである。流石の私も心が折れそうだ。
なかなか百点満点の小説が書けない事は自覚しているつもりだが、ここまで直接ボコボコに言われると、泣きたくなってくる。というかすでに泣いている。涙も枯れそうだ。
私は小説家を生業としているものだが、なかなか芽も出ず、デビューしてからも鳴かず飛ばずの状態が続いている。だからこそ書く内容は未熟だし、文章の表現や、展開に納得の出来るものが無いときもある。それは理解している。だが…しかしだ。
「やっぱり、俺みたいなかっこいい主人公は、もっとこうド派手にバーンドーンと魔法でもぶっぱなさねぇと!」
「もう少し、私を崇め称える愚民共は登場しないのかしら。貴方、発想が貧困なのよ」
何故、自分の書いた小説の登場人物に、説教をかまされねばならんのだ。
あとこれは恋愛小説なので、お前らの全て意見は却下だ。
まあ、なんの事はない。自分の産み出したキャラクター達についてもっと理解したいと考えて眠り、朝起きた。そしたら何故か、自分の書いた小説のキャラクターと話せるようになる能力に目覚めていた。それだけだ。
「おいオイィ、無視か?あんまり調子こいてると…わかってんのか?」
「話も聞けないなんて…まだ犬の方が聞き分けがよくてよ?」
ただ何故か、想定していたキャラの性格と著しく異なっていることが問題である。私のアレックスとジェニファーはそんなしゃべり方はしないはずだ。
「いやでも君たちね…これ純恋愛小説だから、バトル要素も奴隷制度も採用できないんだよ…。それにアレックス、君は知的で機転の利く好青年だ。あまり下品な言葉使いは慎んでくれ。あとジェニファー、君ももっとおしとやかな、優しい女性なんだ。人を傷つけるような発言は控えてくれ」
「ハァ?なんでテメェの指示に従わなきゃいけねーんだ?」
「この私にこんな地味臭い芋の様な娘の役割を押し付けるなんて…貴方、小説だけじゃなく、キャスティングでもカスみたいな男ね」
私は自分で産み出し役割を与えたはずのキャラ達に、それぞれ自分の役割を説き、そして思いっきり否定される。なんなのだこれは。表現の自由はどこへ行ったのか。
「てか、恋愛小説ってなんだよ。俺はもっと胸踊る冒険がしてぇのよ。ビッグになりてぇの」
「今時の流行は異世界転生とかなのよ。ただでさえ録な物も書けないのに、流行にも乗らないなんて。モテないくせにシコシコと恋愛小説とか、貴方気持ち悪いわよ」
「異世界物はライバルも多いから難しいんだ。あとジェニファーは人を傷つける発言は控えなさいといったでしょうが!」
作品の作風にまで口を出してくる。さっきから私の作品を私のキャラクターに全否定されているのだ。こんな作家は早々居まい。作家冥利に尽きる。もう嬉しすぎて、またうっすら涙が溢れてきた。あとさっきから馬鹿にしすぎだろこのくそアマ。
「つーかよぉ、恋愛するならこいつじゃないとダメなわけ?俺、第三章で出てきた、ローズちゃんの方が超好みなんだけど?あの顔と体たまんねぇわ」
「んまぁ!私の方こそこんな下品な男願い下げよ!私と釣り合う…最低でも一国の王子とじゃないと、私、出ないわよこんな小説。貴方、なんでこんな男を産み出したのかしら!?」
「産み出したけど、産み出して無いんだよな…」
そして話の展開にまでいちゃもんを付けだした。よく作家がキャラクターたちが勝手に動き出しましたとか表現するけど、こう言うことなのか。今正に実感している。
しかし、もう我慢の限界である。何故にここまで言われなきゃならんのだ。
「おい…君たちいい加減に」
「けどまあ…頑張ってんじゃねーの?」
「まあ、愚図なりにね」
怒鳴ろうとしたら、急に言葉を遮られた。唐突なヨイショに辟易する。
「毎日遅くまで考えては書き、勉強しては書き…お前なりに俺たちを輝かそうとしてくれてんだろ?」
「結果が伴っていないとはいえ、まあ良い心がけではなくて?」
「な…なんだよ急に」
「面白いものが書きたい。読者に読んでもらいたい。その気持ちだけはマジ伝わってくる。だからこそ、更に一歩なんだぜ」
「小説に無駄な一文も、文字も必要ない。ただ繋ぐだけの文章なんて存在しない。全て対し全力投球し、私たち全てのキャラクター、展開に全力で命を注ぎ込みなさい」
「き…君たち」
確かに書きたいシーンとかの為に、繋ぐだけの文を書いてしまっていたような気がする。唯でさえ未熟なのに、締め切りに追われるあまり、一文字一文字に魂を込めることができていただろうか。
そんな当たり前のことさえ忘れていたのだ。
「…すまない、私は、君たちを百パーセント輝かす事が出来ていなかったのかもしてない。もっと真剣に、自分の小説と向き合わなければならなかった」
「分かりゃイイのよ。…たく、世話の焼ける野郎だぜ」
「私の手を煩わせるなんて、まったくどうしようもないわね、貴方って」
もしかしてさっきまでのやり取りも、こいつらなりにアドバイスをくれていたのだろうか。無茶苦茶な要求ばっかりだったけど。けれど彼らなりに考えてくれていたのだとしたら…
「ありがとう、二人とも。私、頑張って最高の小説を書いてみせるよ」
「…けっ!頑張れよ」
「まあ、精々精進することね。期待しないで待ってるわ」
そう言うと、ふっと視界が一瞬暗転し、声が聞こえなくなった。今思えば幻聴だったのかもしれない、思い込みだったのかもしれない。けれどそれども良い。きっと半人前の私を見かねて、激励に来てくれたのだろう。そう思う事にした。
私は再び机に向かう。あのくそ生意気な二人を驚かせるような小説を書いてやるんだ。
けど…ちょっぴり仕返しするくらい良いか。そう思いながら私はペン走らせた。
未熟な私から、私の産み出した愛すべきバカ共達へ…
ある夜のベットの中。どこか遠くで、キスとかふざけるなとか、あの男一言言ってやらないととか、聞こえた様な気がした。
私はほんのちょっぴり、次の日起きるのが楽しみになった。
短編小説は難しい…。未熟な私に良ければアドバイスお願い致します。