浮島の日常
「一人のときに限ってこんな大群で来なくても良いではないか……。嫌がらせか、嫌がらせなのかっ!」
はぁーと一息分のため息を吐き、歩き出す。
壁掛けの鏡の横にかけていた藍色の紐で漆黒の長髪を頭の天辺で一纏めにし、万民の誰もが息を呑む中性的な顔は、疲れきっていた表情を浮かべていた。
漆黒の双眸が捉える。
「我がしっかりせねばならぬっ!」
ぱんと両頬を叩き気合いを入れ、仕事モードに切り換える。
無表情をつくると、芸術性の高い人形のように思う。
誰もが見惚れる美人が出来上がる。
(早く戻らぬか、あの戯けが……!)
行ったまま帰って来ない半神に怒りを向けたが、虚しくなるだけだった。
広々としたベランダに姿を見せると、龍たちは頬や腕に纏わり着いて来る。
「納めるが良い」
首から下げていた真っ白な水晶で編まれた数珠を暗闇に投げた。
纏わり付いていた龍は、数珠に飛び掛る。
落ちる事無く、空中で停止して水晶の一つ一つが青白い光を放ち始める。
一体の龍が数珠の一つに触れ、身体にある濃い一色がすり抜けて真っ白な水晶がその色に染まる。
色の濃さが揃った綺麗な虹色になった。
そして、色の抜けた龍は、暗闇へと泳ぎ出し音もなく姿を消した。
龍たちはそれを繰り返す。
数珠玉の数と龍の数を視線のみで数え、足りること確認する。
そして、視線を真下へと移す。
常世という言葉が似合う瑞々しさに溢れている草木が隅々まで手入れされせている中庭が見える。
数体の龍が休めるように蹲っていた。
そして、龍の背中から降りる人の列が確認できた。