不器用な
連れは、ぐちゃぐちゃの泣き顔で繋いでいた手を振り払い、服を握り締めた。
「契約の下において命令する。――あなたは帰りなさい」
連れの胸板に波紋をたれながら、掌を沈めた。
出血はなく、抵抗するために手足を暴れる連れを抱きしめて押さえ込む。
(ずるい……)
涙が自然と流れてた。
あえて契約を持ち出した。
それが優しさだと解るからずるいと思うしかなかった。
強い睡魔に引かれて行く意識で無力な自身に悔しさを感じた。
沈めた指先に神経を集中させ、金属のような冷たい感触を感じる。
側面で指先を素早く動かす。
「帰りなさい」
諭すような優しい声色で耳元で囁く。
カチンと鍵が合った時の音を耳がとらえた。
連れの動きがピタリと止まる。
それは連れの意識がなくなった事を示していた。
砂のように指先、爪先から崩れ始めた。
胸板から手を抜くと、形を留めることなく崩れた。
「どうか、されましたか?」
「いや、なんでもない」
少女は、頭を傾げて違和感を覚えるが何か分からなかった。
少女が案内したのは、砂漠には不釣合いなものだった。
人は作った最後の建造物であり彼らがいたという証。
天まで届きそうな高層ビルだ。
ガラスのドアが少女の魔法で開かれ続く。
入るのを確認すると扉は閉じた。