命を犠牲
掌を暗闇に差し出すと、その掌を掴む感触があった。
それを掴んでぐっと引き寄せた。
すると掌から二周りほど小さな掌が現れ胴体、爪先――その姿は額を合わせている幼児だ。
「いつまでもこんな場所にいないで、長く短い生を生きるぞ。いのり」
そして、瞼を開けると晴々とした向日葵のような幼児の笑顔があった。
「ここは途絶えた生がまた続くことを許される。だから、そなたの子孫を残すことも可能だ」
幼児を降ろすと、苦笑いを浮かべて幼児の頭を優しく撫でてやる。
「その年齢とその身体では無理、だな」
「母さんも言っていた。いのりの子供は見られないかもしれないって」
「……命を犠牲し成長することは可能だ」
「命を犠牲?」
「十年犠牲にすればそなたは成人になれる。しかし、その数年で死ぬかもしれんぬ。その腕に子を抱くことは出来ぬかもしれぬぞ」
「やって」
「良いのか?話を理解し判断しろ」
「良い。僕はここにいたって証拠を残したい」
幼児の揺ぎ無い決心を聞くと、下がり気味になっていた顎に指先を添えて上向きにすると、そのまま額に指先を当てた。
幼児の足下からひ真っ白な光が煌めき、身体を包み込むと光の繭となった。
「花は煌びやかに咲き枯れる。枯れるときを狭めろ」
詠唱を終えると光の繭は音もなく消える。
幼児ではなく青年というのにふさわしい体格。
体格の変化に驚きで見開いている薄紫の双眸。
一気に成長をとげた為に爪先まで伸びた緑色の髪。
「大人になってる……」
「どこか不調はあるか?」
「わかんない……」
「目覚めたばかりで理解が追いつかないのであろう。――今は眠れ」
そして、意識を失った。
強制的に眠らせた身体を片腕で担ぐ。
「すまぬな、この場所を我ら以外に知られるわけにはいかぬ」




