幼児の記憶
こつんと、幼児と瞼を閉じ互いの額を合わせる。
じんわりと幼児の高めの体温が額から広がるのと同時に、瞼の暗闇にぼんやりとした風景か広がる。
幼児の小さな伸ばす両手。爪と皮膚の間には、切り傷。
声を出そうと息を吸い込むと、口内からは鉄の味。
唇の端に小さな痛みが走りまた鉄の味と匂い。
ゆらり、ゆらりと水面のように動く視界に写すのは、同じように揺らめく松明とその明かりによって辛うじて見える人々の手で抑えられている一人の女性。
「やめてっ!その子を、いのりを殺さないでっ!」
松明の揺めきで顔がはっきりと見えないが、泣いているのは声ではっきりと解かる。
両手が求めているのは、その女性──母親だった。
「──母さ、」
やっと出せた声は、あまりにも短く小さい。
この母親に届いたのかは解からない。
何の前触れもなく途切れた。
風景は、瞼の闇だけに戻った。
そっと瞼を開けると、幼児の寝顔。
先程見たのものは、この幼児の最期。
外部の記憶はこれで終わっている。
また、幼児の額を当て瞼を閉じる。
同じように暗闇が広がると、奥から無数の泡が浮遊する。
目の前に来る泡がパン、と弾ける。
――どうして?
幼児の声で問いかけ。
「何が?どうしてだ?」
また泡が弾ける。
――ぼくなの?
――ぼくがどうしてここにいるの?
――ぼくは、ぼくが
次々と泡が浮遊し、弾けて声となり問いかけ消えていく。
その問いに答える暇はない。
静かにそれを納まるを待った。
「お前はとても若くして死んだ。そして、その死はとても早すぎた。だから次にはまだ行けぬ。残りの時間で今生を穏やかに、謳歌せよ」




