強制連行
「まぁ、あれを経験したら迷いも理解できます。そんなお表情を他者に見られたら恐怖心を与えてしまいます」
美人をエスコートする深紅の青年が苦笑いを見せて、美人を宥める。
「私がどれだけ苦労したのかを見ていただろうっ!」
「見ているよ、だから言ってるの。新人さんに気づかれると面倒じゃない」
「そうです。面倒事は、嫌だと毎日のように言っておりますよね?」
笑顔を浮かべて諭すように言っている深紅の青年だが、視線は逆らうなという強い感情を感じる。
(半ギレになってる……)
うっと美人は言葉に詰まり、二人の青年は内心一息漏らした。
二人の青年は、美人をはさんで左右に立つ。
三人の中で美人が一番身長が低い。
二人の青年と美人は頭一つ分の身長差がある。
顔を伏せた美人を二人の青年は、横目でお互いの視線を合わせた。
――これ以上の感情の高ぶりは、面倒事になる。
(強制帰還に変えるけど、良い?)
小柄な青年は、深紅の青年に目配せをして咳払いをした。
合図であり深紅の青年の意思確認だった。
(そうして下さい。補助します)
深紅の青年は、小柄な青年の掌にあったチョークを折って二つに割る。
そして、描きかけの陣を描き始めた。
「すぐに呼ぶから」
美人に言うと、歪になったチョークを持ち直して深紅の青年の反対側を描き始める。
楕円形の内部は色彩がないものの繊細で、鮮やかな美術品を思わせる絵柄や文字がくみあわせてあった。
「よし、完成」
小柄な青年は、手に付いたチョークの粉をパンパンと払い落とした。
床から立ち上がり完成した陣を見回す。
(間違いは……うん、ない)




