契約
最後の龍が触れて姿を消すのを確認すると、数珠はひとりでに首に垂れ下がる。
そして、ベランダの縁に乗って中庭に飛び降りる。
「我は汝らと契約する。我は汝らの守護し、この大地を貸与する」
注目を完全無視し、高らかに宣言するのと同時に掌から無数の小さな蝶が生まれ人々の肩に止まる。
宣言は魔術でそれぞれの異界の言語に変換されている。
戸惑いや怯えの表情を見せている者。
商人は蝶と戯れている。
「三つの約定を命懸けで守れ。一つ、部族間は不可侵、二つ、天寿をまっとうする、三つ、血族を見せる」
怯えている者と戸惑っている者は、きょとんとしていた。
そして、ゆっくりと理解していく。
迫害される事もなく争いもない。
老いて死ぬ事と家族をつくる事を義務付けるのは、神で、見守ってくれるという。
「うぅっ……」
一人の老婆が泣き声を上げながら両膝から崩れるように座り込んだ。
感染病のように、人々は泣き崩れて、頭を下げた。
定住者のみの条件なので、商人は蝶と戯れると握りつぶした。
光の粒子となり、飛散する。
「約定に従うならば、蝶に触れよ。それで良い」
無表情を崩してはいなかったが、声は慈愛に満ちていた。
小刻みする指先でそっと蝶に触れた。
触れた瞬間に飛散し、それぞれの腕に合った腕輪となった。
「契約はなされた。歓迎する、胎かよ」
契約を結ぶまでの流れで心酔した者たちが黒の美人に触れようと掌を伸ばす。
日差しに焼けた掌、皺だらけの掌、白い掌――掌が重なり合い掌の波と人だかりになっていた。
そして、様々な言語が悲鳴のように飛び交う。
きっと意味は同じだろう。




