罠発動:添い寝とケーキ
しっかり何かありました。
帰ってきてから遅めの夕飯を食べ、そのあとしばらくケーキの仕込みやアイテム制作に時間を費やしていると、来客を告げる声が。
やってきたのはターシャさんとキーリさん。
仕事用の服装二人を案内してきた女兵士さんは、俺の事を蔑むような眼で見、いや、面白いのを見る目で見ている。
……ここ、貴族区画の領主邸なんですけど? どうやって門を潜ったのさ!?
話を聞けば、ここまでこれたのは今までにお忍びで来たお客さんの伝手を使ったとのこと。
ゴシップなんてのは、もみ消すのは簡単そうに見えて難しい。ある程度のラインから身内と情報合戦をする事になるから、“貴族の権威”による力押しが出来ない。だと言うのに、彼女たちのような値段の安い店だと貴族も油断してしまうようだ。ちなみに高いお店は相応のお金が必要になるので、こっそり行く事ができなかったりする。金の動きでバレるのが一般的だとか。
一夫多妻であっても花街で女を買うのは奥さんには許しがたい事というのが一般的。
だって、奥さんでは満足できないって言われるようなものだから。特に貴族で複数の嫁さんがいるとその怒り具合は顕著になる。
逆に独り身の時に行く分には全く怒られないのは、経験値稼ぎをしている、という認識だからだとか。
女心は良く分からん。
日本みたいに一夫一妻の方が分かりやすくていい。
こうやって娼婦談義を聞いて誤魔化そうとしているが、二人がここに来たのはそんな理由ではない。
この二人は、添い寝をしに来たというのだ。
「断ったよね!?」と涙目で抗議すれば、「いいじゃない、減るもんじゃないし」「もう周りのひとには言ってあるわよ~」と絶望的なお言葉をいただきましたよ!
っていうかキーリさん! 周りに言ったって何さ!? もう広まってるよね? 否定しようにも否定できなくなってるよね!? 何でこんな事になるのさコンチクショウ!!
俺が頭を抱えていると、アウラさんがやってきた。
「アル君ばんわ~。うは~、本当に綺麗な人、引っ掛けてきたわね~」
「あらあら、ありがと~。でも~、お嬢さんも可愛いじゃない~」
アウラさんはキーリさんに捕まってしまった。
アウラさんはそう背が高くない。よって、キーリさんの胸に顔をうずめる事になるのだが。
二人とも巨……たいへん女性らしい体つきなので、横で見ているとのぼせそうになる。だってもう、ムニムニと二人のアレが形を変えて時々見えてはいけない物まで見えるとなると、思わずガン見してしまうのもしょうがないと思う。
肩にポンと手がおかれる。
振り向けばいい顔をしたターシャさんが笑顔を向けていた。
ああうん。眼福であることは否定しない。
けど、開き直るにはまだまだ修練の足りない俺は頭を抱える事になった。
フラフラになったアウラさんは、言伝すると帰っていった。そろそろお風呂のお湯を落としたいので、さっさと風呂に入るよう言いに来たらしい。
それを聞いた二人は一緒に入ると言うが、全力で拒否した。
そのむかしティアやマリィと一緒にお風呂に入っていた俺ではあるがこの二人と一緒に入れるほどのレベルには到達していない。
ここは、何と言われようと絶対に譲らなかった。
風呂に入る前に≪施錠≫で侵入者を防ぐ。
少しぬるかったので、火の魔法を使い軽く沸かしてから風呂を堪能する。
精神的に疲れていたからか、熱い湯に心を癒される。
少し長湯になった気もするが、しょうがないだろう。
……部屋に戻りたくなかったとか、そんな事実は無い。
心を癒し、部屋に戻ってきたら、そこは混沌と化していた。
最近顔を見なかったリアと、ティアと、迦月ご一行と、ターシャさん達が微妙な空気を醸し出していた。
険悪とか、そういう事は無い。
ただ、牽制しているというかちょっと拗ねているとか、面白がっているか、よく分からない空気。
ティアは俺のベッドにもぐりこみ。もう寝ている。現在時刻は23時前。ティアが起きているのは辛いだろうから、これは……分かるかっ! 普通に考えたらターシャさん達が来た22時にはもう寝ていたはずである。なんでわざわざ人が風呂に行っている間に来て、いきなり寝ている!?
誰か手引きして無いだろうな。
リアは何か白い箱を大事そうに抱えている。抱えたまま、ターシャさん達を警戒している。
リアについては俺も少し話したい事があるのでちょうど良かった。
が、なぜターシャさん達を警戒しているかは謎である。
迦月たちは、野次馬だ。
リアとターシャさんが牽制し合うのを3人で面白そうに見ている。
ああ、うん。まったく行動が理解できない。少なくとも迦月はゴシップ好きという感じはしなかったし、莉理さんは論外。楓さんだけならたぶん理解できたと思う。納得は別だが。
俺を娯楽扱いする素振りは今まで無かったし、この3人の行動は全く読めない。
この追加の5人、キーリさんの流した情報に引っかかってここに来たんだろうけど、俺の予想の範疇を超えている。
お願いだから、誰か説明してください。
「寝ている子に関しては、この場にいないメイドさん?が連れてきたわよ」
マリィさんの仕業ですか。
「妾達はリアの付添いじゃな。このような事になるとは思っておらなんだが」
「補足するけど、来客中とは知らなかったわよ? リアちゃんも同じね」
迦月たちがこの場に来たのは偶然か。
少なくとも、からかいに来た訳ではなさそうだ。ちょっと安心した。
「……」
リアは俺の質問にプイっと顔をそむけた。
完全に拗ねていらっしゃる。
「アル君、ちょっとお姉さんのお願い、聞いてくれないかしら」
「一口、一口だけでいいんです~」
何も言わないリアに替わり、ターシャさんとキーリさんが俺に上目使いでお願いする。あんまり気にならないのは年れ、なんでもありません。
とにかく、この二人はリアの持っている箱に意識を向けている。
「一口」という事は、中身は食べ物関係? とりあえず聞いてみる。
「シークレットガーデンのケーキ! まだ一回も食べた事無いの!!」
「並ぶ時間なんてぇ、ありませんから~」
どうやらリアは俺が今日行こうとした店のケーキを買ってきたらしい。
で、俺からケーキの話をされていた二人は、「食べたい!」と思っていたところに現物を持ちこまれ、我慢しきれなくなった訳ですね。
なんでリアがケーキを買ってきたのかは知らないけど、それは2個しかないらしい。
俺と一緒に食べようとしているって解釈で間違いないと思う。
だとすると、この二人には涙をのんでもらうしかない訳で……。
考えをまとめ、二人の方を向く。
期待してキラキラしている瞳を向けられるが、ここはバッサリ切り捨てる。
「ごめん、それ、無理」
俺の言葉に「絶望した!」というか、世界が終わったかのような悲痛な表情をする二人。
リアは安堵したように息を吐き、迦月たちは驚いたような、感心したような目で俺を見ている。
「代わりに、明日の朝一でケーキを焼く予定だから。それを食べて我慢して」
救済策に力無く返事をする二人。
こうなると添い寝とかどうでもよくなってしまう訳で、二人はトボトボと客間に向かった。
しかしとても失礼な話である。
俺のケーキは有名店のケーキと同格という自負がある。明日焼くケーキはミューゼル戦を想定して材料もいいものを使った自信作。劣ると言う事は決してない。
それを明日ターシャさん達に分からせてやらねばなるまい。
結果オーライだが、リアのおかげで助かった。礼を言うのも変な話なのでそこには触れないが、ケーキに関しては少し大げさにお礼を言うべきだろう。
迦月たちはこの結果を見届けると満足して帰っていった。
夜中に二人で食べたケーキは評判通りとても美味しく、二人で食べたからこそ幸せな気分になった。もちろん、心の中で自分のケーキはこのケーキに負けてないと思えたので、変に引っかかる事も無く普通に味を楽しめた。
その後ティアをなんとなく寝ているフィリスの隣に置いていく。
たまにはこういうのもアリだろう。この間の仕返しだ。
なんとなく≪施錠≫を窓とドアにかけておく。
やるべき事を全部終えたので、一人ベッドに横になる。
今日も疲れた。ゆっくり寝よう。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
8月9日 誤字修正
× kの二人は →
○ この二人は




