威力偵察:エルフと学園
目を覚ましたらすでに昼に近い時間だった。
何かいい夢を見ていた気もするが……。
何故か、思い出せない。
夢だから仕方がないか。
昼食は屋敷で食べる事にする。
今朝顔を出さなかった事、急に昼飯を要求された事で厨房スタッフから嫌な顔をされたが、今度仕事を手伝う約束をして誤魔化す。
リアの事が気になり周りの人に聞いてみたが、何人かにニヤニヤされるだけで何も情報を得る事は無かった。
マップを確認すれば姿は見当たらず、今日もどこかに行っているのだろう。探すには昨日同様歩き回るしかないが、あまり効率がいいとは言えないし、他の事を優先すべきだと優先順位を下げる事にする。
とりあえずレミットさんに会えないかを聞きに、エルフのコミュニティに顔を出す事にした。
エルフたちのところに行けば、レミットさんが俺を待っていた。言伝を頼んだエルフさん、グッジョブ。
レミットさんと最後に会った御霊送りの儀式(仮)から約3週間。あの時と比べて健康そうな印象を受ける。
金髪に艶があり、肌は血色がいい。表情も、何と表現すればいいか分らないが、力がある、といった感じがする。
近くに駆け寄り、顔を合わせる。身長は俺の方が20cm以上低いので、見上げる形になる。
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
「アルヴィースさん、頭を上げてください。あの時お世話になったのは私の方ですから、そんな、気を使わなくても結構ですよ」
軽い挨拶のつもりで頭を下げたのだが、恐縮されてしまった。
慌ててパタパタと手を振る姿は年相応(?)で可愛らしいが、あまり無駄に時間を使うのも勿体ないので、前のように喫茶店に誘う事にした。
「立ち話よりも、どこか落ち着いた場所に移動しませんか? 知り合いからお勧めの喫茶店を聞いたんですけど、その店はケーキが美味しいらしいですよ」
俺のセリフに、レミットさんは少し身構えた。あれ? あんまり信用されていない?
喫茶店、というのは悪くない選択肢だと聞いている。お互いの部屋というのは、性格的なものにもよるが、相当親しくないと入れない、入れないのが一般的だという。だから喫茶店のようなオープンで明るい場所というのはちょっとした逢引に使われ……だからか。
思い返せば、しつこく付きまとわれた事に始まり、仲間を亡くした人なのだ。そういった匂いのする誘いは失策だったな。
「あ、いえ、その、だいじょうぶです。喫茶店、行きましょう!」
俺が己の失策に気が付き黙ってしまうと、レミットさんが重くなりかけた場の雰囲気を壊すように努めて明るく言う。
取り繕った感が半端ないが、お互い言葉遊びや駆け引きといった巧言令色には縁のない身だ。無駄に気を使わせてしまったな。
とにかく、喫茶店行きを了承してくれたのだし、今はお店に向かうとしよう。
場所は昨日ミューゼルから聞いたところなので、外れる事は無いだろう、たぶん。
街の南区にあるという喫茶店「シークレットガーデン」。ミューゼルの薦めた喫茶店の中でも一番の人気店らしい。
彼女も2回しか行った事がないのだが、シフォンケーキは絶品で、すぐに売り切れる人気商品らしい。
そこまで凄いのかと思い、レミットさんと一緒にその店まで足を運んだのだが。
お店はとにかく込んでいた。
お薦めというだけあって、固定客も多いのだろう。若い娘さん達がこれでもかというほど集まっていた。
時間は大体14時ぐらい。オヤツにはちょっと早いのだが、15時にはもっと込むことが予想されるので、早めに動く人が多いのだろう。
「人気店と聞いてはいたけど、これほどとは……」
群れというか軍というか。
集まった少女たちの熱気に頬がひくつくのを止める事が出来ない俺がいた。
美味しいものに懸ける乙女の情熱を、完全に見誤っていた。
「席、空きそうにないですね……」
こういったことには興味がなかったのか、彼女も始めてみる光景なのだろう。レミットさんも俺の隣でぼうぜんと立ち尽くしていた。
少女たちにはこの光景が当たり前で、すでにいつもの事なのだろう。相席を駆使して予備の椅子一つ余らせない、完璧な布陣で店を埋め尽くしている。
待っている客もその倍の数がいて、俺たちが店に入るのに1時間は待たされるのが目に見えている。
これは選択を誤ったか。
誘いに続き、店選びも失敗。
女の子とのデートはとにかく難しい。予習が必要という噂話も聞いたが、事実だったらしい。
事前調査の必要性を強く認識した。
ただ、完全に無駄足にならないように≪遠視≫でシフォンケーキを≪鑑定≫しておく。
……評価は10レベル。しかも視界にあるやつ全部が。俺と同レベルかよ。品質もいいし、負ける事は無くても勝つこともできないな、あれは。
微妙に負けた気分になりながらも、近場で別の店を選んで入る。
≪直感≫頼みではあるが、たぶん外れではないお店。多少店内が暗く、ディスプレイが地味なので人気は無いが、味には関係ないし。
まずは二人分のケーキセットを頼む。
少し高額とも思える値段のそれを頼むと、レミットさんが慌てて俺を止めるがこの程度の金額なら奢りでも気にならないレベルなので笑顔でスルーした。
後で払う事になると割り勘にしそうな雰囲気があったので、事前に金貨を2枚渡してお釣り不要と告げる。レミットさんは何か諦めた雰囲気なのだが、気が付かないふりをしておこう。
まずは互いの近況を伝え合う。
俺の方は迦月との決闘、シエルさんの身請けなど、あまり大きい声で言えない内容なので、多少ぼかしながら話す。同じ学園の人と戦ってみたとか、ちょっと冒険者の真似事をしてみたとか、その程度までで。
レミットさんはあれから精神的な部分のリハビリという事で、座学を中心にだが学園に通う事にしたようだ。最初は実戦どころか訓練も危うかったけど、今ではなんとかなりそうという感覚をつかみかけているらしい。
そうなると、今後の予定が気になるので聞いてみる。
仲間を失ったことでエルフの森に帰る心算だったのだが、最期の別れに励まされた事を思い出し、学園で納得できるまで学んでいく予定みたいだ。
元々エルフがこの学園に来るのは、最低限の戦闘能力を身につけることに加え、仲間との別れを経験する為でもあるらしい。
エルフというのは意外と好奇心が強いらしい。その好奇心を満たす為にこの学園で人間の仲間と仲良くなり、卒業後も冒険者として共に戦い、死別れか引退か、とにかく一緒にいられなくなるまで冒険する。仲間との別れを経験したエルフは人間と距離を置く事が正解だと実体験を持って理解するので、森で静かに暮らす事を理想だと信じて生きるのが一般的なのだとか。
エルフが森から出ないのは経験則として寿命の差、考え方の違いを理解しているからなのか。
ラノベのエルフって閉鎖的で人間を拒絶するが故の無知をイメージしてしまうが、この世界のエルフは人間を理解するから拒絶し、距離を置く、と。
こっちの方が仲良くなる難易度高いよなぁ。
ふと思ったのだが、帰る心算だったというのは人間に対して距離を取りたくなったという事で、残るように思ったのは人間をもっと知ろうとするのか、仲良くなろうと思うのか。そういう心の変化ではないだろうか?
この件をとりあえず程度の軽い気持ちで聞くのは躊躇われるので、記憶の端に留めておく。
話を誤魔化すように授業の事とか、担当教官の話をする。
レミットさんは魔法関係の授業を多めに取っているらしく、俺の授業を受け持つ教官、タントリス氏にはあまり反応してくれなかった。あの人は剣士系の特化型だからね。クラスの一つに聖騎士取ってるみたいで、神聖魔法と回復魔法の中級までは使えるみたいだけど、あまり意味は無い。かなり優秀なのだが、精霊魔法が使えなければ話のネタにもならないようです。
出されたケーキに舌鼓を打ちながらの会話は2時間ほどで終わる。
クエストは進まなかったので次に会った時には上手く誘導できるよう、皆に相談しよう。
なお、ケーキは値段相応、かなり美味しかったと記しておく。
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