クエスト:幼馴染をゲットせよ①
ヒロインって言われて最初に頭に思い浮かぶのはだいたい幼馴染キャラです。ファンタジーなら王女や貴族、異種族も基本ですよね。学園モノなら転校生と委員長、生徒会長に担任(顧問)教師。部活の先輩も最近は鉄板? 目標は7人です。
さて、ハードモードを終えて帰った俺はマードックさんにひたすら怒られた。
具体的にどれぐらいかと言うと、今日は一睡もしてないよ。
昨日の獣人幼女巫女さん御一行とはサクっと縁を切るべく、名乗りもせずに帰ることにした。
護衛さんらは全員再起動に成功して戦力としてカウントできるようになったこと、この街に、他の仲間がいることが「もう大丈夫」の理由だ。それにクエストボードの『女の子を暴漢から助けよう』はクリア済みになっていたし、俺の手助けする範囲はあれで十分ということじゃないだろうか。
武器・防具は無くても、なんとかするだろう。
今回の件について考えてみる。
よく考えたらセレスティアにすら名乗ってないんだよね。何気に酷いコミュ障である。
顔も見せてないので、セレスティアの言う「神気」とやらを観る力は例外として、まず見つかることはないだろう。たぶん。
時間ギリギリだったからで焦って突っ走ったが、冷静になってしまえば偉い人に関わるのは美味しくない。黒幕については、自力解決を期待する方向で。
今回の件ですら1から10まで俺が助けなきゃなんともならないのであれば、本当に一生面倒を見る羽目になるってことだからねぇ。立場捨てたところで、一生厄介事がついてまわる生まれと≪特殊能力≫みたいだし。
よくよく考えれば、≪祖魔神の仮面≫を装備してたのにこっちの情報を読み取るってのはどんだけチートなんだろう。ボスモンスター並みである。
もう会うことはないだろうから、これ以上気にしてもしょうがないけど。
念の為に白楼族について調べようかな?
徹夜したあとでも仕事はやらなきゃいけない。荷物運びに倉庫へ向かう。
眠くてフラフラするけど、マードックさんは休みをくれない。普通、徹夜明けの子供を働かせることはしないと思うんだ。あのおっさん、自分が大丈夫だからと思ってこっちの辛さを理解してくれない。きっと「これも社会の厳しさを教えるため」とか考えてないか?
昨日は走り回ったこともあって相当眠い。死ぬぞマジで。
午前中はあまりの眠さに普段の半分ぐらいしか荷物を運べなかった。ノルマをこなせないと、給金が貰えなくなる。昼休憩は少しでも寝て体力回復して午後の仕事に備えよう。
Zzzzzzz……
「……て、……起きて」
倉庫の隅っこで仮眠をとっていると、時間なのだろう、誰かがゆすって起こそうとしている。
なんか気持ちいい。微睡む時間を堪能する。
「あうう、起きてくれない~~」
……やっぱりニートに戻ったほうがいい。好きな時間に寝て、好きなだけ遊ぶ。お金はあるんだ、引きこもっても生きていける…………
ガンッ!!!!!!
「イテェ!!!」
「さっさと起きやがれクソガキ!!」
頭に鈍い痛みが走り、目を覚ませば仁王立ちする同僚のおっさん。
そしておっさんの足にしがみつき隠れる少女。
かなり強めに殴り起こされたようだ。HPが1323から2も減っている。思わず声が出たけど、あんまり痛くないのはお約束である。たぶん。
「すみません、すぐに仕事に戻ります」
寝ぼけていたこっちが悪いのは明白なので、謝って仕事を再開する。
「おう、さっさと行け。……ミュー、お前は向こうの手伝いに行け」
おっさんにしがみついていた少女、ミュー?はトテトテと走り去った。なんとなく、俺はそれを目で追いかけてしまった。
「おう、お前、ミューゼルに気があるのか?」
「いえ、全く」
おっさんはなぜか俺を睨みつけ、変なことを聞いてきた。
いや、目で追っただけじゃないか。なぜそうなる。
「うん、うちのミューは世界一可愛いからな。見蕩れるのも無理はねぇ。欲しけりゃマードックの100倍稼げる男になってからプロポーズしな。そしたら少しは考えてやってもいいぜ」
……このおっさん、さっきの娘の父親なんだろうけど、親馬鹿だ。人の話を聞いちゃいねぇ。
ミューゼル(ミューは多分愛称だろう)は俺よりわずかに身長が高い。これぐらいの年なら女子の方が身長は高い気もするし、たぶん同年代なのだろう。銀髪ツインテール碧眼で、親馬鹿の贔屓目を無視しても可愛いのは否定しない。おとなしい系? 少しオドオドしていたのは人見知りか? 小学校時代の女子のことなんてろくに覚えていない。あんなもんかね?
あー、睡眠不足で頭が上手く回らない。
変なフラグが立った気もするけど、とりあえず仕事をしよう。
「……ま、今度からこっちに顔を出すようになるから、たまには相手をしてやってくれ」
こっちが益体もないことを考えている間もずっと娘自慢をしていたおっさんが最後にそう締めくくった。
このあと、仕事をしながら周囲に気を配ってみたが、ミューを見かけることもなく終わった。
午後の仕事はペースを上げて頑張ったので、なんとかノルマをこなして給金をもらうことができた。
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