偵察任務:迦月、成長
ミューゼルと別れてから、またリアを探し学園内をうろつく。
腹ごなしの運動にちょうどいい具合なので、ただの散策になっている気もするが気にしてはいけない。回復しきったスタミナを消費すべく≪穏形≫は全力、フラフラと歩く。
屋台の中にはおいしそうなものもたくさんあり買い食いをしたいと思うが、お腹一杯でこれ以上食べるのは無理だから、泣く泣く諦める。
しばらく歩くと露店と屋台のエリアを抜け、戦闘訓練施設が並ぶエリアになる。
ここで体力を消費し、空腹になった連中を相手にするから屋台に食いものが並ぶのだ。新人なら食欲を失うが、慣れた連中は腹が減ったと声をあげて笑うほど余裕がある。俺とは一ケタ違う量を平らげるのは当たり前、20倍近く食べる連中、どこにそれだけ入るんだよ? なぜそんな連中が大量にいるんだよ? この街の食糧事情は大丈夫か?
訓練場には時間が時間だから、食事と食事休憩を終え、剣や槍を手に技を磨き合う学生がたくさんいる。……半分以上おっさんじゃねぇかとは言ってはいけない。年齢制限に上限のない学園だからね。若くないのは仕方がない。現実世界にも還暦過ぎた大学生がいたとか聞いた気もするが、こちらの高齢化には及ばない。
剣と槍の近接攻撃職がひしめくエリアには、迦月の姿もあった。莉理さんはいるけど、楓さんはいない。遠距離攻撃職だけに別行動のようだ。
迦月と莉理さんはタッグで別の学生と戦っている。
相手は30ぐらいのおっさんタッグで、二人とも「それなりに」強いと思う。
迦月たちは「かなり」強いので、一方的な展開になるかと思えばそうでもない。迦月たちは何らかの制限を課しているようで、押してはいるけど苦戦に近い。訓練だから、多少の負荷が欲しいんだろうね。
たぶん迦月は「移動系のスキル・戦技の使用禁止」で莉理さんは「防御系のスキル・戦技禁止」だと思う。
自分の一番得意な事を封じてワンランク上の戦い方を模索しているんだろうね。得意戦術が一つでは、それを封じられた瞬間に終わるし。だったら封じる事が出来ないレベルに、というのは無茶振りも大概にしろ、と言われる話だからね。
しばらく歩くのを止め、遠くから戦いぶりを見ている。
迦月は足を止めて「手の速さ」、手数で勝負している。相手の攻撃に自分の攻撃を合わせ、弾き、逸らし、流す。ずらした攻撃を最小限の体術で攻撃を回避する。
俺とやった時は攻撃される前に攻撃というスタイルだったので一回弾幕を張るだけで封殺できた。それをどうにかするために、攻撃されながらも動けるように進化するようだ。方向性は近いし、きっと噛み合うだろう。
刀は相手の攻撃をそのまま受ければ簡単に折れ曲がったりする危険がある。耐久値の低さは同ランクのどの武器にも劣る刀。その刀の耐久値を削られる事無く防げるようになるのはどれくらい先なんだろうね。俺の渡した刀なら、時間経過で回復するけど。むしろ相手の武器を切り裂けるだろうが。
今のところ、打ち合って小さな刃毀はあるものの、特に大きな歪みがあるように見えないし、上手く出来ている。いつから練習しているか知らないが、なかなかすごい成長である。
莉理さんは逆に相手の攻撃を潰す技術、つまり防御手段の強化に走ったようで。
莉理さんにとって攻撃は「ダメージを与える」ではなく、「相手の攻撃を潰す」為の手段だ。
防御系スキル・戦技は使わない。しかし、攻撃用の戦技で相手の攻撃を潰し、防御とする。おまけでダメージも入るだろうが、結局は防御方法の拡充と言う事。
あれは防ぎきれない攻撃には有効なやり方だからね。今は武器攻撃への対策ってことで、細かく相手の邪魔をするように、攻撃の「出」を潰している。
攻撃の予備動作を潰す、攻撃の出始め威力の低いうちに受け切る、武器を持つ手を狙う。そんな戦術。
リーチのある槍はそのリーチゆえに動きが大きく、行動ごとの間も大きい。
突きに関しては攻撃が点で防ぎにくいとか連続突きは神速とか漫画などで言われるけど、大きい武器は重量や慣性との戦いだからそんな事は無い。重い分突ききった後の動きを止めるのに使う力は大きく、槍を引くときも同様。短剣を同じように動かす方がずっと使う力が少なくて済む。動きを細かく早くしようと思えば小さい武器の方が断然有利なのだ。
槍で相手の行動を阻害するのは、相手に狙いを読まれてしまえばかなりピンチになるリスクがある。
魔法を併用すればいくらでも方法はあるんだけど、この場では「頑張れ」としか言いようがない。
今も相手の剣を一回防げるのだが、その次の攻撃に対応しきれずダメージを貰っている。石突きを上手く使うとか、攻撃中に握る位置を変える練習をした方がいいんじゃないかな?
でもまあ。前だと「とにかく手数で攻めて守りに入らせる」だけだったから、もうちょっと今のスタイルに慣れるだけでずいぶん違うと思うよ。
二人ともずいぶん成長していて、月の上旬にやった決闘が遠い昔に思えるほど強くなっている。
レベル的にはそう変わらないはずだが、戦闘経験の蓄積から来る戦術の多様性、駆け引きのうまさはそうとう磨かれている。
このぶんだと、次に戦うときは苦戦しそうだ。3対1ならそのうち負けることもあるかもしれない。いやいや、とんでもないね。
20分ほど観戦していただろうか。
何度も戦う4人を見ていると、後ろに人の気配が。≪穏形≫を解除していないので、俺に気が付いた誰かが来たという訳ではない。単純に、ここがあの二人を見守るのにちょうどいいから来た誰かだろう。
「あらあら。アル君もここで見学ですか? 迦月様が気になります?」
「ただの偶然さ。リベンジマッチでもやったら大変な事になると思ってるとこだよ。まだあれから一月も経っていないってのに。どこまで強くなるんだろうね?」
「あら? あの時の負けが悔しいからここまで成長できたのよ。いわば、アル君のおかげなんだから。自慢していいわよ?」
「……何で疑問形かな」
楓さんは俺の隣に腰を下ろすと、肩を並べる様にして迦月たちを見ている。
顔を見合わせる事無く、お互い迦月たちの一挙手一投足を観察する。
「刀に歪なし……ホントに上手く弾くね。あの刀、そこらに売ってる量販品なのに」
「普段は莉理ちゃんの槍を受けてるもの。もっと大変よ?」
「ん? あのおっさんの長剣の方がよっぽどきついって。速さと手数、鋭さの全てが上だし。重さぐらいじゃない、勝ってるの」
「ふっふっふ~。魔法ありで準備万端な莉理ちゃんなのよ。ここみたいに魔法なしの訓練とは違うのよ~。それを、普通の刀で受けることもできるんだから。他にも、私の射った矢を斬る訓練とか。今なら前より戦えるはずよ」
胸を張って自慢する楓さん。
これって、俺に教えていい情報なのかね? 俺との戦いを意識するなら、教えない方が得策なんだけど。
「いいのよ。どうせ身内になるんだから」
?
身内?
「前言っていたクエストって、そういう事なんでしょ? だから大丈夫」
あーあー。
クエストを進める=攻略するってことか。
確かに。あんまり考えていなかったけど、本来ならそういう意味でクエストに臨むんだよね。
「ちょっと違う。俺のは、ゲーマー根性。恋愛感情とかよく分かんないから」
提示され、受けたクエストは全力で挑むけど、恋人が欲しくて頑張っている訳ではない。
だいたい恋人になれるとも思ってないし。今のところ脈はまったく無いはずだし。クエスト攻略とは全く関係ない。
それを言うと、楓さんは残念な子を見る目つきで俺を見る。
なんだよー、と目線で訴えかけるが、痛ましいものを見る目つきにランクダウンした。
そんな目でこっちを見るなら迦月の観察を続けてほしい。
「アル君。君はそういうトコを治さないと、一生経っても恋人できないよ」
「……別に、恋人なんて欲しくないし」
「えっちも出来ないよ」
「……自分、11歳ですから」
「ほぼ毎日一人でしてるくせに~」
「!?」
「白楼族の人から聞いたんだよ。アル君、巨乳好きとか……って、ええ!?」
楓さんは嫌な感じのする笑顔でこちらを見る。
しかし、それを気にする余裕は無い。
いつぞやの、花見での悪夢が甦る。
思わず即時撤退、戦線離脱を行う。後ろで楓さんの驚く声がしたような気もするが、気にしてはいけない。全力で駆け抜けた。
女性の井戸端会議と言うのは恐ろしい。
なんで人の性癖を広めるかなぁ!?
チクショウ、チクショウ、コンチクショーー!!
読んでいただきありがとうございます。
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8月2日 日本誤修正
×いつからは練習しているか知らないが →
○いつから練習しているか知らないが




