前哨戦:ミューゼルとお店①
最初に約束を果たそうと、屋敷内を検索するがリアはいなかった。
ならば学園かと思い、そちらに向かう。
リアの行動範囲はかなり狭い。
屋敷にいるか、学園にいるか、買い食いをしに行くか。
屋敷におらず、時間が朝ご飯からそう経っていない今ならば買い食いの線も無い。間違う事もないだろう。
学園に向かう事の多いリアではあるが、何らかの事情がなければ一人でダンジョンに潜る事は無い。実力を隠すためにと、他の人と一緒に潜ることも無い。
やる事はただの散策がメインとなる。他には興味を持った何かをじーっと眺めている事が多く、軽く≪穏形≫しているので普通の人には気が付かれずに時間を潰している。
暇潰しだけに、細かい理由付けなどは無駄なのだ。
だから学園内をうろついていればそのうち会える。ターシャさん達に会うのは夕方ぐらいを考えているので午前中を潰してもかまわない。
マップを使って検索しつつ、目視でもリアを探す。
1時間も探しただろうか?
気が付けば、普段行かないエリアに足を踏み入れている。学園におけるリアの行動範囲は俺のよりも広いので、あえて適当に移動する。
「そこのニイチャン、ダンジョンに潜るなら回復アイテムを見ていかねぇか? 今ならまとめ買いがお得だぜ!」
「ダンジョンで手に入れた珍しい宝石類はいかがですか~? ダンジョン産だけに魔力を帯びた宝石(の原石)が今なら金貨1枚、金貨1枚でご購入できます!」
「店を見て回るのに喉が渇きませんか~! 冷たい飲み物、銅貨2枚からのご提供です~!」
今いる場所は学園商業区。要するに、大規模な購買のようなものだ。
半分は飲食店関係で、残り半分は文房具や雑貨などの小物を扱っている。一部、家具などの大物を扱っている店舗もあるが、そっち系は学園生には需要がないので滅多にない。
普通の店舗の他に学生が自分の作品を売る露店もあるのだが、正直品質が低すぎて話にならない。安い事は安いのだが、自分が手を抜いて作った物の方がまだマシなのでここに来てまで何かしようという気にはならない。
うっとおしい客引きの声を全部無視して人込みを歩く。≪穏形≫を使いながら歩けば、背の低い子供の俺に声をかける人は一気にいなくなる。
本来なら発作の事があるので、こういった場所を歩くのは自殺行為なのだ。が、スキルとは違う直感が、俺にこの場所を歩けと強く言っている。何故か無視できないそれに突き動かされ、こんな危険地帯を歩いている。
「パンケーキ、焼き立てのパンケーキはいかがですか~」
ふと、耳に残る声が聞こえた。
そちらに目を向ければ、1年前に見たあのときよりも成長しているミューゼルの姿がある。白のワンピースにエプロンをつけ、セミロングの髪は商品に落とさぬように髪留めで上にまとめている。
屋台の中、ホットプレートらしき鉄板の端でパンケーキを焼いては客に売っている。それなりに人気があるのか、売れ行きは好調のようだ。作る端から在庫にならず捌けている。同じ鉄板の上で焼かれている焼きそば的な何かは在庫を抱えているというのに、だ。
……時間帯が食事向きじゃないから、味に関わらず売れにくいという事に気が付かなければこのまま無駄に在庫を抱えるんだろうね。俺の胃袋は9割近く満たされているから買う気は無いけど。この時間帯ならオヤツとか、軽くつまめるものにしなくちゃ。もしくはお弁当にしてしまうか。
余計な思考をしてしまったが、この出会いはたぶん運命の女神が気を利かせてくれたんだろう。さっそく活かさせてもらう。服はターシャさんが選んでくれたもの。自分よりも信じられるセンスの持ち主が決めた格好であるので、安心して声をかける事が出来る。
「すみません、俺にもパンケーキ1枚ください」
客なら、見ず知らずでも声をかけるのは当たり前だ。女神様はいい仕事をしてくれる。
銅貨の手持ちは少ないので、銀貨1枚を取り出す。先ほどの客は銅貨のみ、ちょうどで支払っていたのでお釣り切れにはならないだろう。
「ただいま焼いている最中です。少々……」
声をかけられたミューゼルは客が来たという事で笑顔で応対。
しかし、その笑顔が固まり動きが止まる。
「ひっくり返さないと焦げるよー」
調理中に動きを止めるなどあってはならない失態に即座に突っ込む。
言われて再起動したミューゼルは、慌ててパンケーキを焼く事に集中する。どれもちょうどいい焼き加減で、もう片方も同じ状態になったら完成といったところか。
「ああぁ、あの、すみません、少々お待ちください」
こちらに目もくれずパンケーキの焼き加減を見るミューゼル。
ほどなくして焼きあがったパンケーキを包装紙に包み俺に手渡す。
「パンケーキ1枚銅貨3枚になります。焼き立ては熱くなっているので気を付けてください。こちら、お釣り銅貨7枚です。お確かめください」
買ったパンケーキは生地に甘みをつけてトッピングを一切なくしたシンプルなもの。
目の前で一口食べて「うまい」と感想を言う。その反応に嬉しそうにするミューゼル。
俺の後ろに客がいればすぐにどくべきなのだが、なぜか次の客は来ない。本当、気の利いた女神様だこと。
「あのっ、1年前の、覚えてますか? その、商会で――」
「ウォレスさんの娘でミューゼルさん、だよね。覚えてるよ」
俺の事は向こうも覚えていてくれたようだ。何かと都合がいい。何か必死に話しかけるミューゼルは小動物的で可愛らしい。……俺より身長、15cmほど高いけど。
ウォレスさんから「店を持ちたい」って聞いてはいたけど、限定された場所とはいえもう社会に出て経験を積んでいる。年は俺よりも少し上で、日本ならまだ中学生だと言うのに決断力があり行動も速い。学生時代バイトすらしなかった俺に、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
「あのあの、もしお時間あれば、お昼、お昼御飯を一緒に食べませんか? いいお店、知ってるんです!」
なんかここまで話が速いと上手く行きすぎという気がするが、断る流れではないのでありがたく誘いに乗る。
これも選んでもらった服の効果かと、この時はそんな事を考えていた。
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