状況整理:乙女の事情
貴族エリアの領主邸、その敷地内で野宿とか理解し難い経験である。
寒くはないけど、番犬一匹を毛布代わりに抱えながら眠らせてもらった。あまりモフモフしない犬だったけど、体温が高かったので気持ちよく眠れた。
早朝、太陽が昇った事で目を覚ます。大体5時ぐらいか。
まったく気が付かなかったが、寝ている間に毛布を掛けられていた。俺の顔を知っている見回りの兵士さんだと思うが、変に気を使わせてしまったようだ。これなら当直の兵士に声をかけた方が良かったと少し後悔。
起きたら風呂場に行って湯浴みをする。もちろんお湯は自前である。
最低限の身だしなみを整え、自室へ赴く。普通だったら自室へ「戻る」か「帰る」なんだが。
部屋にはいまだ眠るアウラさん。俺が何もしてないので昨日見たままである。
もう朝だし、起こしても問題ないと判断する。
八つ当たりではなく、ベッドを占拠された者の正当な報復として、こめかみに拳を当て、「ぐりっ」と力を入れる。
「ふみゃぁっ!!」
それなりに力を入れたのが功を奏して、部屋は大音響に包まれる。我ながらいい仕事をした。
勢い良く飛び起きたからかナイトキャップがずれて長い髪が露わになる。が、それを気にかけることもできないほどの痛みに耐えるアウラさん。
「いったぁ~。何するのよ~」
涙目で訴えられるが、それは俺の言いたいセリフだ。何故全裸で人のベッドを占拠するのか。ぜひ聞かせてもらいたい。
そして、さっさと服を着てください。視線を逸らすのにも精神力を使うのです。
「いやぁ~、あの反応を見る限り、私のハダカに欲情したみたいだねぇ、アル君」
ニヤニヤと笑うアウラさんがウザいので、両の手を握り締め、手首をひねる。
そのまま何も言わずに軽く微笑めば俺が何をやろうとしたのか理解できたのだろう。冷や汗を流しながら弁明に移る。
「いや、うん、まあね。リアちゃんの話を聞いちゃって。それでアル君から女の子に手を出せるか試したくなっちゃったの。もちろん先にフィリス様には許可をもらったよ?」
やや焦りながら早口で説明される。
しかし何か聞き捨てならない部分があったな。フィリスの許可を取ったとか。いや、リアがあの時のことを説明した方が驚いたけど。
リアの話とは、リアに性的に襲われ、俺が“吐いた”時の話だろう。まさか自分がああなるとは思ってもみなかったので、俺自身ビックリだった。
まあいいやボスに聞けば、と考えながらアウラさんのこめかみをグリグリする。
なんか悲痛な叫びが聞こえたけど、きっと気のせいだろう。
朝食を摂ってからフィリスのところに向かう。朝早いのでお菓子などの差し入れは要らないだろう。
午前中、外に出る用事がなければフィリスは執務室で書類相手に奮戦しているのが常である。
案の定、執務室にはフィリスと補佐役であるマリィがいた。ノックをし、返事を待って中に入る。
「じゃあ弁明を聞こうか」
部屋に入り要件を告げると、そう言って二人の顔を見る。
フィリスはニコニコと、マリィは無表情に見えるいつもの顔で、二人とも平常運転である。
糾弾されたというのに変化のない二人に再度問う。
「なんで、あんな事をした?」
全裸の女性を襲っていいとか言われて襲う奴だと思われているなら、本気で怒っていいと思う。たしかにそういう事を出来る奴というのはかなりいるだろうが、自分は違うと示してきたはずだ。
「リハビリ、だよ?」
小首を傾げ、フィリスは言う。
「リヴリアさんとの件は、さすがに私もびっくり。ああなるのが正常じゃないのは分かるよね。だから、リハビリしなきゃってことなの。やりたい人に、「お願いした」じゃなくて「許可をした」の。本当は私がやりたかったんだけど、私相手だともっと気を使わせちゃうし。そうでしょ?」
前半部分は納得できないが、最後のは理解できる。
フィリスを襲うのは、本人の許可があろうと出来るはずもない。
それ以前に、リアとの一件が広範囲に知れ渡っているのはなぜだろう? ああいうの、もう少し隠すべき情報じゃないか?
とりあえず納得しかねる部分、リハビリという事について突っ込んだ話を聞こう。
「ん? アル君のアレって、何かのトラウマによるものでしょう? それを治そうと言うならリハビリでいいんじゃないかな。治したいのは私的な理由が半分と、みんなの意見が半分だよ」
みんなというのはリア、フィリス、マリィ、ティア、アウラさん、迦月、莉理さん、楓さんの8人。
全員一致でリハビリに賛成らしい。実際に何かするかは別問題だが。
体を張ってリハビリに当たるのがリア、アウラさん、楓さん。フィリスも参加したいらしいが、周囲の反対もあって自重するらしい。
あと気になるのはリアとアウラさんはともかく、楓さんの参加が意外過ぎて理解できない。主である迦月もよく許可したなと不思議に思う。これについては「あちらにも思うところがあるの」と言われた。正直理解しがたいが、クエスト攻略を考えればきっかけになるありがたい話なので良しとしておく。
状況は理解した。
けど、不意を突いてベッドに潜り込むとか、その手法にどんな意味があるのか。
「そりゃあもう、ビックリさせたかったから」
咲き誇る花のような笑顔を見せるフィリス。
不穏な気配を感じたマリィは一時退室する。
状況は、理解した。
拳を握り、フィリスへ近づく。
最後に微笑みかけ、≪神速≫で接敵。
フィリスの悲鳴が屋敷に響き渡ったが、誰も助けにいかなかったという。
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