情報収集:ストーカー退治
女所帯になんであんなに男物の服があったんだろうと遅まきながら気が付いた帰り道。
時刻は夜で、町明かりなんて酒場とか一部のお店ぐらいしかないファンタジー世界の町を歩く。
当然出歩く奇特な人も少なく、見た目11歳の俺は当然のように泊まっていくよう勧められた。見ず知らずに限りなく近い男を泊めるのは無謀じゃないかと指摘すれば、声をあげて笑われた。危険な人かどうかなんて、見ればわかる、と。
それでもその好意を蹴って帰宅するのには理由がある。
襲撃者である。
先日、俺はとある犯罪集団を壊滅させた。
当然全滅させたのだが、その組織と懇意にしている別の組織があれば、潰した奴はそこから狙われるのが道理である。
どこかの冒険者の仕業という情報を流したが、俺の情報は出回っていないはずだ。
では狙われるのは誰か?
その犯罪者集団が喰い物にしていた人間、もしくはさらにその周りの人間だ。
利益を得るために余所の「喰い残し」を漁りに来ることもあるだろうが、なにより、動機があるのなら調べるに値するからだ。復讐すべき相手の情報を求めている連中にとっては。
周辺には治安維持のために冒険者を雇いパトロールさせているが、それでも万全とは言い難い。
だから俺の目の前にいる奴のようなそれなりに「実力者」が出てくるわけだ。
仇討ちか死肉漁り、どちらにしても品がない。
目の前にいる奴は俺に気が付かず、アパートから仕事場に向かうターシャさんたちの後をつけていた。数は3。
全員それなりに見事な≪穏形≫なんだけど、マップ機能には勝てない。
黒いかっこの怪しい連中がコソコソしてるのだし、問答無用で構わないだろう。情報を引き出すために1人2人は生き残らせないとまずいけど。
全員まとめて攻撃できる位置を確保できれば最善だったが、直線的な攻撃魔法では最大2人しか攻撃できないように動いている。しかも2人同時に狙えるタイミングは一瞬だ。
さすがに場数を踏んだ連中。頭が回る。素人女の襲撃だというのに警戒を緩めてはくれない。
追尾機能を与えた魔法を使えば一瞬で解決するんだけどね。不意を突きたいのでしばらく我慢する。
ターシャさんたちが店に入った。
この段階で周辺に人影なし。
襲撃者、というより監視者なのかね? 店に入るまでに攻撃を仕掛けるのが常道だろうに。動く瞬間に仕掛けようと思った俺が馬鹿みたいじゃないか。奴らはそのまま何もせずにターシャさんらが店に入るのを見届けると、1人が報告のためなのか、離脱しようとした。
残った二人の事は気になるが、先ほどまでの行動を考えれば外道仕事などはしそうにない。
俺はそう結論付けると離脱した奴を追うことにした。ターシャさんたちには念のためってことで護身用アイテムを渡してあるが、それだけでは不安なので店にこっそり近づき≪警報≫を使う。あの二人が店に押し入ろうとすれば俺への知らせに加え大音量で警報が鳴る。これで多少の時間稼ぎとかはできるだろう。
これまでの追跡とは打って変わっての高速移動。離脱者をいつもの隠密装備で追いかける。
マップがあるのだからと、離脱者を視界に入れることなくマップの端に映る程度の距離を維持する。
3分ほどで2㎞も移動しただろうか。
ようやく離脱者の動きが止まる。
もしかしたら誰かと合流するかもしれない。そう思って待機する。
5分、10分と待つと、先ほど店に張り付いていた二人が合流した。他にも数人、似たような格好の奴が現れた。
ここが潮時か。
これ以上待つことにメリットが無くなった。
待つことで数が増えて一網打尽というのが理想なのだが、その場合は逃げることができる奴が出てくる可能性がある。こいつらの実力が不明で、一網打尽にできる確証がなければ無理をすべきじゃない。
いつものように≪範囲拡大・眠りの霧≫で全員を効果範囲に入れる。
範囲を拡大した分、効力が弱まったのか。2人ほど耐えきった。
これで周囲の連中を熾されたら厄介なのだが、それよりも離脱を優先してくれたようだ。残った2人は正反対の方角に逃げ出す。
片方に≪氷の投槍≫を2発、胴体を狙って撃つ。余談だが、≪氷の投槍≫で貫かれた傷口は凍ってくれるので流血が少なくて済むというメリットがある。気にしてないけど。
命中の確認は目視しなくても感触でわかる。殺すことに成功したという手ごたえを感じ、残る1人を追跡する。いや、寝ている奴らを起こされると面倒なので寝ている連中の頭を≪炎弾≫乱射で潰してから追跡を開始する。マップがあるから、多少引き離されることより確実に敵を減らす方が正しい。
寝ていた連中は6人。全員焼くまでに12秒。逃げ延びた奴は150mしか移動していない。
マップの端にいるので、さっさと追いかける。
まあ、敏捷性をそこまで高めていないので途中≪神速≫で加速しながら走る。
さすがに≪神速≫まで使えば追いつくのにさほど時間は必要ない。≪範囲限定・眠りの霧≫で眠らせる事にする。一回殺してから生き返らせる選択も考えたのだが、無駄にMPを使う必要もないし、他は潰し終わったので失敗して多少時間をかけてもいいのだ。≪神速≫でずいぶん使ったし、節約は大事だ。生き返らせるのは消費が重いからね。何度かやれば効くだろう。
2回目の≪範囲限定・眠りの霧≫で最後の一人を捕まえる事に成功。すぐに尋問するより、多少弱らせてからやった方が都合がいい。≪無限の悪夢≫で起きないようにして、魔法で位置がばれる事はないかを確認する。
一通り確認したけどマーカーの類は無く、物理的な手段でも魔法的な手段でも見つからないだろうと結論付けた。俺の知らない魔法で探されたら分からないけど、逃げられたとしてもそこまで痛くはない。
スラムの中で、適当なたぶん廃屋の一室に放り込む。部屋には何もないので、人が住んでいるという事もないはずだ。あとは呼吸ができる程度の空気穴を残し、部屋を密室に加工する。これでご近所さんに見つかって問題が起きる事もないだろう。怪しまれるとは思うが。
一通り作業を済ませると夜の11時ぐらいになっていた。
後をつけたり殲滅するのには手間取らなかったが、部屋を密室にするのに時間がかかったから仕方がない。
夜も遅いし今日はこれ以上外で活動する必要もないし、とっととフィリス邸の部屋に帰る。
こうやって外で何かゴタゴタがあり、早く寝たい日に限って面倒事の追加があるのはもう慣れた。お約束とか、そういった類の何かだと思う。
部屋にたどり着き、ドアを開けた俺が見たのは。
ベッドの上で眠る一人の女性。
見知った顔で、アウラという名前の女性兵士さん。この館に勤める女性兵士の中では一番話しやすい人だと思う。
その人が、何故か俺のベッドを占拠している。
しかも全裸で。
5月もそろそろ終わり、6月に差し掛かったこの時期。お腹にタオルケットをかけておけば風邪は引かない――ってそんな事はどうでもいい。
長い髪を保護するナイトキャップのみを装備して眠っているが、どんなジョークだろう? いかにも安眠という表情ではあるが、ここは容赦なく起こすべきだろう。空気も読まずに。
アウラさんのかなり大きい胸とか下の方とかは直視しないようにして頭部に視線を向けていた訳だが、そのナイトキャップ付属のリボンに何か書かれている事に気が付いた。
『襲っていいよ byアウラ』
リアの部屋に押し掛けるか?
いや、時間も遅いし、ここは適当な場所で野宿するか。
はぁ。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
7月29日 表現変更
旧:ここが引き際か →
新:ここが潮時か




